悪魔と天使
「ん、あ……あ?」
起きた。起きたのは間違いないが……ここは何処だ?
「……知らない天井、だ?」
「起きたのね、調子はどう?」
気づいたら俺の上に多い被せられていた布団が体を起こした事で思っていたよりも吹き飛び、音を立てて地面に落ちる。その音に反応して入ってきた精霊……人間?闇の精霊核……いや、クミアで間違いない。今日会ったばかりだというのに、すぐに固定パーティを組む事になった……、
「悪魔?」
「……」
「クミア、ごめん状況が把握できない」
「……」
「……クミア?」
何故か真顔のまま動かなくなったクミアに近づくべく、起こした体を動かして立ち上がり、歩き出すが……何もない所で躓き、クミアに思いっきり正面衝突してしまう。
「……ごめん!?あれ、ちょ、ごめんまじ!」
「……はぁぁぁあ。……そうね、ちょっと話を聞かせてもらっていいかしら?元研究所所属の歩行者さん?」
「……え」
何故か上手く動かせない俺の体を容易く動かしてベッドに座り直させ、そう言ったクミア。元研究所所属の歩行者……何も間違っていないからこそ、その言葉がクミアから発せられた事に驚きが隠せなかった。
「お互いに隠し事が有る……ってルイスは言ったわよね?」
「ああ」
「ルイスから全部説明してもらっていいかしら?終わったら私が話すから」
「……?」
隠し事を全部説明しろと言われても、そこまで大した隠し事では無いし、クミアが言っている事が全てだ。あとは……、
「歩けば位階が上がる?」
「……他には?」
「魔物を倒してもそんなに位階が上がらない」
「……まあ、聞いていた通りね」
会話をしていく内に、よく分からない感覚と共に少しずつ周囲の状況が見えるようになっていった。俺は確か部屋に入ると共にスキルのレベルを一気に最大まで上げて……気絶したのか?研究所ではそういった事があるというのは聞いていたが、《地図化》が6になっても問題なかった為あまり気にしていなかったのだが……そうか、気絶したのか。
自動地図化が10になった事で周囲55mの状況が常時頭の中に入ってきている。何故か脳内で情報の取捨選択が出来ている為違和感は全く存在しないのだが……目の前にいるクミアの体内には確実に闇に特化した精霊石が存在していた。……隣の部屋には光に特化した精霊石が存在しているし……それに何よりも。
「クミア、お前位階もスキルツリーも嘘かよ……」
「……そう、ね。ごめんなさい、諸事情で目立つ訳にはいかないから」
地図上に地名が表示されるように、地図に表示されている人形には名前、位階、スキルツリーが表示されていた。クミア・ルーティ、位階が29、スキルツリー【魔剣士】……ルーティって確か辺境の方の地名にあった筈なので……。
「辺境伯かよ……」
「……凄いわね、なんで分かったのか聞いても良い?」
「ルーティって名字」
「……なんでそれを知ってるのかが知りたいのだけど……」
「地図に表示されてる」
「へー……え?ルイス、地図化を使ってないわよね?」
「自動地図化を持ってる」
「……それ、言わないほうが良いわよ」
「……?」
「はぁ……」
隣の部屋にいる天使がウズウズしだしたのが気になりはする物の、クミアが溜め息を吐いて俺を不憫な子を見るような目で見て来たので真っ向から見返す。
魔界の闇精霊が受肉して地上に定着した種族……要するに、悪魔。容姿は人をベースに角、黒い鳥の様な翼を背中から生やした種族で基本的には人里には現れない、天空城に住んでいると言われている存在。クミアには角も翼も無いが、闇の精霊石が有るので悪魔なのは間違いないのだ。
隣の部屋にいる天使は魔界の光精霊が受肉した存在だが……。
「天使と悪魔が仲良くしてんのか?」
「……何言ってるのかよく分から……もしかして?」
「ああ、間違いない」
全ての天使が持っている『エル』というミドルネームが有るので、それは間違いないだろう。逆に、クミアが全ての悪魔が持っている『フェル』というミドルネームを持たない事も気になるのだが、今はどうでも良い。
「……ルイス、神話の内容は把握してる?」
「してる」
「なら、そんなセリフは出てこないと思うのだけど」
まあ確かにそうなのだが……光と闇という対極の精霊石の存在に気づいてしまうと、どうしてもそういった事を言わずにはいられなかった。
「隣の子が天使──」
「あの、クミアさん……え?なんで」
タイミング悪く部屋に入ってきた見覚えのある女の子……間が悪すぎる。