表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

いろいろ

"まおうをたおした ゆうしゃ"

作者: 青髭のボルボックスの酋長






「うぐ。われが、——」



 ズグズグっという関節の軋む音を立てながら、"ゆうしゃにたおされた まおう"は言いました。

「—— われが、まちごうていたと いうのか!」


 これに応えて、ふふふと笑いながら、"まおうをたおした ゆうしゃ"が言います。

「そういうの、もう やめにしないか」

「なにッ……」


 ズグっと、また関節が軋みます。—— それと同時に、視界がぐらぐらっとゆれるのです。


「くだらない こたえあわせに きょうみはない。おまえはなにも まちがってはいない」

「われは へいわのため まりょくをもって つくしてきた。しかし、このざまだ。われはたおされ、みな おまえをたたえる。せいぎがかつと するならば、われはやはり、まちごうていたのか……」

「もういちど いう。おまえはなにも まちがってはいない」


 "ゆうしゃにたおされた まおう"は、"まおうをたおした ゆうしゃ"を睨みつけます。


「からかうなッ! われを たおしておいて、そのような……!」

 ズグズグ。

「うぐ……」


 ニヒリスティックな笑みを浮かべて、"まおうをたおした ゆうしゃ"が言います。

「くだらない こたえあわせに きょうみはない。おれはたしかに おまえをたおし、このせかいに へいわというものを もたらしたのだろう。しかし、おれは はなっから せいぎのつもりは ない。はくじょうすれば、—— このカセットは、もともと おれのものでは ない」

「なに ——」

「おとうとが おもしろそうなゲームを やっているとみて、とりあげたのだ。やつはいまごろ、くやしなみだを のんでいるだろう」


「おとうとをいじめて ゆうしゃになったと いうのか!」

「それだけじゃない。おれは ダンジョンをクリアするに あたり、ひつよういじょうに おまえのなかまを いためつけた。ねむっている ものまでも おこして たたきのめした、—— レベルアップと、もちものを うばうためだ。そして、なかまであっても つかえないとみると すぐにきりすてた。じゃまだとみると、あえてこうげきして はいじょしたことも あった。まおうをたおす ゆうしゃとは、たいがい そういうものだ」

「きさまッ……!」


 ズググググっ。


「ぜいぜい、はあはあ……。われは、そのようなものに たおされるほど、おちぶれた そんざいだと いうのか。—— うぐおッ!」


 —— とつぜん、"まおうをたおした ゆうしゃ"が、"ゆうしゃにたおされた まおう"を蹴飛ばしました。


「くだらない こたえあわせに きょうみはない。なんどもいわせるな」

「くだらない…… だと?」


 またニヒリスティックな笑みを浮かべて、"まおうをたおした ゆうしゃ"が言います。

「たかが ゲームだぞ、おれたちの たたかいは。そこに せいぎもあくも ありはしない。—— おまえのはいいんは そこにある。つまり、あくやくという かたにはまり、そのじつ せいぎに こだわりつづけた。—— おれたちゆうしゃは そうじゃない。おまえには、せかいをすくう という もくてきのため つきすすんできた、きがいにみちた えいゆうに みえるかもしれない。だが じっさいは、センベイを むさぼりながら、コロセコロセと わめきながら、『ゴハンよ』と呼ばれても 『うるせいババア』と くちぎたなく へんじするような、そういうにんげんが "ゆうしゃ"を やっているのだ」

「……それならば、おまえらの もくてきは……」

「まおうをたおす。エンディングを むかえる。—— だから いうのだ。くだらない こたえあわせに きょうみはない…… と」


 ズグズグっと、"ゆうしゃにたおされた まおう"は身体を軋ませます。


「では……、さっさと もくてきを かんすいせよ。われを、ひとおもいに……」


 がたがたと、城壁や石垣の崩れる音がして、視界がぐらぐらっとゆれます。


「つぎのぼうけんで また あおう」


 "まおうをたおした ゆうしゃ"は、ゆっくりとその場を去ります。

 視界は白く煙っていき、かすかに残った"ゆうしゃにたおされた まおう"の像をバックに、エンドロールが流れます。—— そして最後に、イー・エヌ・デーと感動の三文字が現れて、画面はオープニングへと戻るのです。




 次にプレイするのは、主人公の弟さんでしょうか。それとも、中古屋さんでカセットを買った、見知らぬだれかでしょうか。チートつかいの勇者でしょうか。……いずれにせよ、"まおうをたおした ゆうしゃ"は言うのです。—— くだらない こたえあわせに きょうみはない。         END.


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  凄い。「あ~だよねー」ってちょっと思ってしまったです。読んで、人間もしくは現代人って思いました。。  懐古主義かな、そんなんで言えば一晩行列に並んでカセットを買っていたゆうしゃもいたよう…
[良い点] ミステリアスな良い台詞です。 まあ確かに、魔王側は一途で、自由は無いですね。勇者の行動以上に、そちらの着目点が良かったと思います。 台詞はひらがなだけなのに読みやすい。さらに、雰囲気も子…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ