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第0話 プロローグ

 運命、永遠、願いだとか恨みだとか愛だとか――。


 とにかく人間ってやつは、そういう目に見えないものをとっても大事にしてきた。

 何も今に始まったことじゃない。ずっと昔からそう。



 時に、想いの強さは、言葉に託すにはあまりにも強くなりすぎる。

 時に、自らの人生への希求は、人の足を無我夢中で走らせる。

 時に、誰かへの憎しみは、人を思いも寄らぬ場所へと誘う。



 見えないものっていうのは、見えないだけで、人間の中にしっかりとある。

 そういうものを、私たちは「心」と呼んできた。


 嬉しい心も、不安な心も、静かにそっと胸に包んで、そうして誰もが、次の朝日を待った。

 暗い昼もあれば、明るい夜もあった。

 ひとりで寂しければ、もうひとりが傍にいた。

 ふたりが悲しければ、たくさんが寄り集まって笑いあった。


 心の強さも、心の弱さも、人間そのものだ。

 そしてそれは本当に美しいものなのだ。



 この国は、ずいぶん変わった。

 モノが溢れた。空気が汚れた。山が削られ、海が埋められた。

 死人みたいな顔をして人々は歩いている。

 

 それでも、人間は、人間の想いの強さは……。

 人を想い、物を想い、町を想い、世界を想う人間の心は、変わらない。


 私はそう信じている。





 ――今、ここに六冊の本がある。

 表紙にはただ素っ気無く、『鈴鳴村怪異録』と記されている。

 

 紐で閉じられ、ところどころ虫に食われた跡があり、全体的にくすんだ色をしている。

 ちょっとでも雑に扱えば、あっという間に崩れてしまいそうな、古い本。


 中身は、なんてことない話だ。

 どこにでもある、ありふれた話。

 嘘も混じれば誇張も(はばか)る。

 涙もあれば笑いもある。


 それでも、滑稽なほどの「心」が、溢れるばかりにこの本には詰まっている。



 私は今から、この六つの物語について話そう。


 いや、その言い方だとちょっと足りないか。

 正しくは、この六つの物語によって、右へ左へ翻弄されてしまう人々の話、だ。

 

 え? 私が誰かって?

 まあ、そこら辺は追々、ってことで、ここでは勘弁願えないかな。

 その内分かるさ。きっとね。



 さて、まずは一冊目。

 準備はよろしいですか。

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