#0 プロローグ
小説家、というのは普段何をしているのだろう。俺は一人、有名な、というか非常に有名で優秀な小説家と知り合いだ。彼は常に、外に出向いては新しい情景や出会いを探している。笑ったり感激したり泣いたり怒ったり、大変そうだ。一緒にいても、ひとまわりも年上の彼に俺はついつい子供をあやしてる気分になってしまう。落ち着きがなく好奇心旺盛、学ぶことへの欲求が食欲や睡眠欲、性欲までも、凌駕してしまっているんだな。なんというか俺も普段は変わり者として扱われることが多いが、あの人は本物、真性だ。そんな彼が書いた小説が世界中で大ヒット、たくさんの言語で発行されてることは今でも半信半疑である。
さて、先に伝えておこう。この物語は恋愛小説である。この俺の語り口から「お前のような気難しい人間に恋愛ができるのか」と思われてそうだが安心してほしい。これは今この小説を書いている俺の恋愛をダラダラと見せるわけじゃないんだ。俺だって自分自身の華のなさや友達の少なさを自覚しているさ。こういうのには役割があるんだ。ドラマを作るときに役者とカメラマン、監督は違う人間がそれぞれやるように、この小説での俺の役割は書き手、観測者みたいなものであり主人公ではない。さっき少し紹介した知り合いの小説家の彼曰く、この本は『一人称小説』というものになるらしい。しかし一般的にこの『一人称小説』というのは主人公の視点で描かれるものだ。しかしこの物語は書き手、つまり俺の視点にはなるが主人公は別にいる。ややこしいとは思う、けど忘れないで欲しい。これは俺ではなく、とある二人の若い高校生の恋愛を描いた小説なのである。そしてそれは現実におきたことなんだ。いや、俺という存在自体、この小説の中のパーツであってそういう意味ではフィクションなんだけど……なんとなく分かってくれてるよな? そしてもう一つ、この物語をなぜ書こうとしたのか、そしてどうやって書いたのか、それも同時進行で伝えるよ。気楽に読んで欲しい。なにせ俺は彼のような一流作家ではなく、ただの高校二年生の男子生徒なんだからな。
じゃあまずは、どうしてその「ただの男子高校生」が学校生活二年目にして小説を書くことになったのかを伝えようと思う。そのためにまず、あの季節外れに暑かった高校二年の始業式から書き出そう──