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ハングリースナイパー

 「そいつは違う。離してやれ。」


 珍獣が両手に一羽づつ鳩を持って、こちらに返事を伺っていた。リリースさせる。王都で煮るか焼くか聞かれても困る。

 日本じゃ鳩は平和の象徴であり、空飛ぶドブネズミでもあると教える。人間は鳩を生で食べないのだ。

 旅の途中、しばらく山で暮らした影響か、珍獣の野生実が増えてしまった。

 腰にくくった麻袋からグミの乾物を鷲掴みで取り出し、珍獣に向ける。珍獣が一つ摘みモグモグ食べる。俺も食べる。

 干して毒が甘みに変化したか、苦い青春は後々に思い出せば甘酸っぱいあの頃のアレっぽい。これからは、苦く思えた青春のアレっぽい干したグミと呼ぼう。


 王都のメインストリートを、俺達はぶらぶらと歩いていた。

 かつらが付いた仮面を付け、モールと金属片でキンキラに飾り付けた軍服、とても長い長刀を肩に引っ掛け闊歩している。珍獣も俺を真似して似た格好をしている。珍獣が昨夜夜なべして自分の服を作っていた。器用な奴だ。

 そんな俺達であるが、正気を疑う出で立ちである。ぶっちゃけ頭おかしい。


 ちなみに、仮面は卵の殻を半分にぶった割った形で、スモークガラスの表面に金属ワイヤーを縦横に並べた、お面ライダーの悪役ライダーっぽい感じだ。あの世界の剣道で使う防具の金具が縦と横に並んでいるのをイメージすれば、大体合っている。


 「元気、出す、何食べる?」


 元気が無い俺に気を使ってくれたようだ。何か困ったり答えに窮する度に、餌付けていたのを覚えたらしい。

 珍獣が優しい。

 泣きそう。


 俺は王都が嫌いだ。

 勇者召喚時に、靴の裏に張り付いて来てしまった牛の糞扱いされた。その後、売られた喧嘩を高価買取して召喚勇者を殺しまくり、キンキラ貴族もプチプチしてたら、牢屋を部屋だと案内されて閉じ込められたのもそうだ。その牢屋で一月あまりも死にかけで放置された恨みもある。

 王都は嫌な記憶で溢れている。いっぱいおっぱいなら良かったのに。


 さっさと仕事を済ませよう。

 勝手知ったる我が家のように王城へ入り、料理長の元へ向かう。


 「ちわーっ。

 ご注文のうな重お届けでーす!

 はんこ下さい。」


 挨拶出来る俺は偉い。珍獣以外だと、王都に来て初挨拶かもしれん。

 料理長は鷲や鷹っぽい超怖い顔の人間だ。獣人より獣人ぽい顔のくせに人間なのだ。遺伝子エラーどころか生きてる世界が違う。

 ごついグローブみたいな手を出され、苦く思えた青春のアレっぽい干したグミを載せる。うまそうに食べておかわりされた。一掴みを袋に入れ手に載せる。


 「違う。うな重。」


 木の実を入れた袋は料理長の腰に下げられた。


 「コレがそうカッ!!」


 劇画調な顔で叫んだまま動かなくなったので、うな重とお吸い物セットの番重をガガッっと机に積み上げ、下っ端に数を確認させアイテム袋に詰めさせた。

 ミッションコンプリート。

 目を閉じ眉間に皺を寄せ考え込む料理長のケツを一蹴りし、王城を脱出した。


 珍獣の手を引いて宿屋へ向かう。

 早く衣装を脱ぎたい。

 あまり急いで歩くと、心臓の弱いお年寄りが死んじゃうかもしれないし、小間使いのちびっこ達が恐怖で泣き叫ぶので、ゆったりと歩く事にしている。

 回復魔法と飴玉は、今日も他人の命と俺の精神安定に役立っている。

 俺も、わざわざ好んで人殺しをしたいわけじゃない、本当は優しい良い人なのだ。


 ◇ ◇


 シュウの服装、仮面と豪華な服装は凶状持ちと言うことである。

 召喚勇者の価値は一攫千金であり、馬鹿と鋏は使いようの通り、特段優れたスキルでなくとも異世界の知識があるだけで凄まじいアドバンテージを持つことになる。そのため、黒髪黒目のシュウがふらふら歩くと、勧誘はもちろん、助言の要請、誘拐、暗殺が頻繁に起こった。見た目、その辺の一般人より弱そうに見える事も災いし、歩く誘蛾灯状態であった。

 最初は穏健に対応したシュウだったが、弱気な対応は調子に乗らせるだけと学習し、背中かゆいから孫の手使おうぐらいの気安さでポンポン首を刎ねるようになってしまう。


 最初の対応に失敗してシュウに何も言えない王都側は、歩く最悪の事態であるシュウの対応に悩んだ。悩んで悩んで悩み抜いた結果、ある一つの冴えたやり方を思いつく。


 殺人許可証である。

 この狂った格好の奴らは危険なので近づいちゃいけません。召喚勇者なので特別です。そうお触れを出し、関わる人は自己責任にしたのだ。

 対応を諦めたとも言う。

 このお触れからひと月の間、毎日、王都に血の雨が降った。


 そして、子供が悪いことをした時、「狂った勇者が来るぞ」そう脅かされるようになる。

 狂った勇者とはシュウの事だ。


 ◇ ◇


 「あちゃー、忘れてた。」


 着替えた後、珍獣は大図書館にウキウキして出かけていった。

 俺は、始まりの広場と呼ばれる公園の隅っこで。日向ぼっこしている。

 さっそく飲みに行こうとした俺を珍獣が引き止め、ここで座っていろと置いて行ったのだ。

 珍獣も女なんだな。何を考えてるかわからん。俺にここでどうしろと。

 シュウは遠い目で空を眺めていた。

 何か忘れていたが、何を忘れていたかを忘れていた。

 シュウの手には清酒が入ったカップがあり、もう片手は串焼きのスルメ焼きが握られている。顔は赤く出来上がり、目つきも暗く危険な光を感じさせる。

 清酒フェスで飲み比べイベントやってるなんて王都大好き。

 酒が美味くてつまみも色々あるなんて良いではないか。


 シュウは、遠くに見える鳥をぼうっと眺めている。

 瞬間が大事なのだ。インパクトの一瞬だけ魔法式にピッタリ魔力を流す。そうすれば、あのように鳥の頭が弾け飛ぶ。

 どうだ、すごいだろ?

 座標位置を組み込んだ魔法陣で一ミリも魔力を漏らさずこの魔法を使うことで、完全な暗殺が可能となる。


 ヤバイ魔法が作れたとウキウキしたが、魔法制御と魔力制御に相当な練度が必要で、その上、それなりの魔法陣の知識があり、空間把握能力も座標位置を割り出せる能力が必要とか、どれだけハイスペックを要求するのかと。転移して殴り殺す方が簡単な事に気付く。

 微妙に使えない。

 スカートを下から風で吹き上げる魔法ぐらいでしか使えない。


 スパーン


 目につく鳥を次々と落としていたら、戻って来た珍獣に後頭部を殴られた。

 メってされた。


 ◇ ◇


 今日はしらふで寝ることになった。

 珍獣さんご立腹。

 ごめんなさい。おやすみなさい。

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