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珍獣とうさぎ農園

 心地よいそよ風に吹かれ辺りを見回す。

 広大な敷地は丈が膝ぐらいの牧草が果てしなく広がっている。

 遠目に見える北上の管理棟はやたらと大きく、隣に連なる売店も含めれば錦糸町駅の駅ビルにも負けてはいない、だろう。

 だが、これほど離れているのにもかかわらず感じてしまう、荒涼とした色はどうしようもなく色褪せている。

 時期さえ合えば、食堂は野外テラスを大開帳大回転して賑わい、管理棟は砂糖を見つけた働き蟻のようにウゾウゾしているはずなのた。今の牧場は閑静というより、縊り殺した閑古鳥が並べて軒先に吊るしているのを離れた場所からハシブトガラスの大群が狙っている、その様をショット・ガン片手に途方に暮れ見ているだけの従業員の老人、そんな所だろう。


 ロマネスク様式の建築物とそこへ通じる石畳を敷いた連絡路、連絡路の横には造成された小川が音もなく流れている。小川とそれなりに広い川辺の土手は、1日15時間労働を30連勤した後に想う、あんな場所で休みたいランキングトップ10に入るような、あんな感じだ。舗装された道路が珍しいぐらいの昔に、田舎だった日本のふるさとの小川は自然な優しさにあふれていた、そうに違いない、そう現代人がイメージしたような、あんな感じである。実際、護岸も川底の基礎もコンクリートをベースとしている。

 距離はあるが連絡路の一定間隔に設置された簡易休憩所と大きな噴水も、コンクリートをメインとして作られている。牧場の動物達用の日除けである。

 牧場という背景、ロマネスク様式建造物、石畳の広い道路、直線に伸びる不自然に綺麗な川、等間隔にあるコンクリート建築物、これらが相乗効果を発揮し、侘しさだけやたら強調されている。簡単に言えば、辺り一帯が物悲しく寂しさに泣き出しそうな雰囲気な人工の自然、退廃的な廃墟をイメージにした牧場である。

 〇〇スペイン村をフルボッコしたように見えるのは偶然である。


 珍獣とコンクリート製の冷たく硬いベンチに座り、小川のさざ波に反射するキラキラが三途の川を連想させるような風景を見ている。

 ここを作った目的や、それぞれの構造物を本当はどんな風に作りたかったか、なぜ作ることになったのかを珍獣に良いかせている。

 久し振りに来て、あまりの寂れっぷりに動揺していただけではないのだ。


 「ここはここで成功してるし、かなり利益も出てるんだよ?」

 「本当ですし。

 牧場で飼育してる食肉も、肉質良いし、種類多いし、それに卵だって産地ですし。」


 珍獣が俺を見る目が冷たい。冷たいと言うより死んだ目でコチラを見ている。理由がわからん、何故だ?

 なんだろうか?


 「きっかけはスラムの人間達を、潰しのきく戦闘員として訓練する計画を丸投げさせられた事が発端だった。

 面倒だったし成功するはずないじゃん。

 なので、この土地を切り開くのは俺がやって、開墾と土壌改良を奴らに訓練だと言ってさせたのだよ。元は森だったから、極小のものから目に見えない大きさの魔物まで豊富にいるので安全安心にレベルが上がると、適当な事を言って。嘘っぱちだったけど、本当にレベルが上がって、騎士隊の訓練に使いたいと申し込まれたぐらいだったけど。金を取って許可したけどな。


 ステータスが上がって力を持て余していたので、山を崩して土から石を作り出させ、積み上げて通路を作り、川を引く土木工事させたり。そんな事をさせてたら、彼らは立派な土木建築屋になってしまった。今もどこかで産業道路を敷設してると思う。

 彼奴等なら戦闘要員としても戦えるんじゃないかなぁ、子供でも素手で熊を絞め殺すの余裕だったし。

 スラムから王立土木建築ギルドのメンバーへの成り上がりだ。スラムで死にかけたくせに夫婦で子供が居たりと、馬鹿ばっかだったけど幸せに生活してるんじゃないかな。


 この牧場も、建築物も川も通路も、あいつらが技術を習得するために試験的に作ったものだよ。

 牧草、街路樹、飼料の穀物、植林技術や農業技術も同じことだし。ここは農業試験場にもなってるね。

 予算の形でも利益がっぽり貰ってるけど。


 そう思って見ると、ここって人間的な優しさが溢れる場所に見えてこない?

 見えないかー。

 だよねー。

 無駄に広くて、生き物が見えないから寒々しいもんね。」


 どれほど説明しても無駄のようだ。何か根本的に違う、そうではないらしい。

 シュウは牧場について説明するのを諦めた。


 日が低くなって涼しくなれば、うさぎ達もチラホラ見ることが出来るんだけどね。

 ここは「大規模うさぎ農園」、表向きはうさぎを飼育する牧場って事になっている。農園にして牧場にしなかったのは、元々は農業をメインにしようと思っていたけど、利害関係でダメ出しくらったので、うさぎを飼うって名目にしたんだ。高地にいたうさぎが食肉に適していたので、本当にうさぎを飼うことになったけど。

 うさぎ達は、今は東屋の日陰で身を寄せ合ってゴロゴロしてるよ。抱き上げても、ぐんにゃりと脱力したままで野性味の欠片もないうさぎだけど。


 珍獣も大きな枠で言えばうさぎだし喜ぶと思ったんだけどなぁ。

 話題に出たついでって事もあったし。


 「よし、ステーキ食いに行こう。」


 珍獣を連れて食堂へ向かう。

 この食堂は団体観光客向けに作ったので無駄に広い、地方のドーム球場ぐらい広さがある。天井も高く、入り口と両サイドに大きな開口部としてのドアがある。

 開口部のドアは、戦闘機サイズが出入りするような巨大サイズの引き戸で、開放すればガーデンパーティが可能である。ガーデンを作る予定は無いのが残念だ。

 団体観光客など来たこともないし来る予定もないので、現在は従業員兼用の食堂となっている。


 「さ、肉を選んで、ミックスは全種類を少しずづプレートにまとめたから、ミックスを選ぶと食べ比べが出来て良いよ。

 鶏肉、牛肉、豚肉、旨味肉、ウサギ肉と種類は多いけど、全部うさぎの肉だから。

 品種改良して味や食感を調整してあるんだよ。」


 珍獣がジト目で俺を見ている。

 大したことはしていない。ベースのうさぎが超おとなしい、というより、ずぼらで死んだように動かないので、野生化したうさぎっぽい魔物と繁殖させただけで、おかしな事はしていない。

 味が変わってラッキーだったから、市場には牛肉って卸してるけど、相手も知ってるから騙していない。

 誠心誠意に身振り手振りで説明しても、珍獣のジト目は変わらなかった。


 「どや、ウマいだろ?」


 珍獣はコクコクとうなずいた。

 そうだろう、レベルが高かろうが美味いご飯には逆らえないのだ。

 でも、「実はそれウサギ尽くしなんだぜ。」などと、イタズラな顔でからかってやりたいと一瞬脳裏によぎったが、余計な事を言うから怒られるのだ。俺は失敗から学べる学君であるのだ、グッと我慢した俺は誰かに褒められるべきなのである。

 つまんない事をつらつらと頭の片隅で考えながら、俺もパクパク美味しいご飯を食べる。


 「まかないで、うさぎじゃない鳥の丸焼きもあるけど食べる?」


 まだ余裕で食べられるっぽいので、スペシャルメニューを出すことになった。まかないとメニューに載っている、福利厚生で値段がまかない用の鳥の丸焼きである。

 この鳥は、鶏卵の産卵用に飼育されている親鳥でにわとりと呼んでいる。例のうさぎと野生化した鳥の魔物を繁殖し、鳥の系列となった中で卵をよく産むモノ同士を親鳥として飼育しているものだ。ただ、そのにわとりも、三年ほどすると凶暴化してしまい、飼育の手間が掛かり過ぎるので食肉にしているのであった。

 ただ、このにわとりは飼育年数が三年と長くうさぎっぽい鶏肉と比べて臭みが出てしまい、食べ比べて比較すると料理を選んでしまうのだ。なので出荷せず、従業員のまかない用をメインとしているのである。

 あと、三年成長した魔物なので魔物の例に漏れず、食べると元気になりステータスも微増してしまう問題もある。肉としてのスペックが高すぎ、下手に市場に流すと余計な噂をされるんじゃないかと言う意見もあって、考えるのを放棄した。問題を隠蔽し無かった事にしたのである。


 この丸焼き料理はメニューの中で最も手が込んでいる料理となっている。元々は流通の鶏肉用として繁殖していて、臭みと言うか野性味の解消のため調理法を研究していたのだが、別のアプローチで研究していたうさぎが鶏肉の味になってしまったため、鶏卵用へと一本化された経緯がある。その研究成果をそのまま活かしたのがこの丸焼き料理だ。

 まず生肉は巨大なタンクの漬け込みダレに3日間漬け込まれる。その後、乾燥処理で保有水分を減らし、丸一日燻製器にかけ燻製肉へと加工する。その後、甘辛いつけダレに浸けこんで味を調整し、その後に軽く乾燥させ冷凍する。この段階で冷凍保存し保存食として倉庫に仕舞う。有事の際の非常食として牧場にストックされる。

 冷凍肉を解凍したものを下処理後として、ハーブ入の油を塗り丸焼きにしたのがまかない丸焼きとなる。


 この冷凍肉は毎日どんどん増えるため、丸焼き材料、他メニューの補助材料、売店のうさぎ農園燻製肉の一部として、消費具合を見ながら便利に使っている。

 ちなみに、うさぎ農園燻製肉とは、牧場内で消費しきれなかった各種の肉をまとめて燻製したもので、十分な下処理がされた丸焼き肉は旨味が濃縮して非常に美味しい。小袋入りの燻製肉から取り出した燻製肉が丸焼き肉だと、その日は一日元気で過ごせると評判である。ぶっちゃけ、実際に魔物肉的な薬効が効いていると思われる。


 そんなこんなでシュウと珍獣の農園での一日が過ぎてゆく。

 結局、彼らは一週間ほど農園でゴロゴロしていた。


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