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珍獣と山菜と即死耐性

 「起きなさい。勇者よ。起きなさい。」

 「うっ、ここは。頭が痛い。」


 気付くと白い部屋にいた。

 気を失う前に何をしていたのか全く覚えていない。

 ひどい頭痛に吐き気もする。

 ここは…。

 現在地を次々とスキルで確認するが、まったくわからない。これまでの世界でもないし地球でもない、ここはこの部屋しか存在していない。

 もしやここは死後の世界なのか? 俺は死んでしまったのか?


 「おお、シュウよ。死んでしまうとはどうしたことだ。

 復活の機会を与えよう。

 さあ、ふたたび歩き、世界を救うのじゃ。」

 「えっ、おっ。

 何、どういう。何事!?

 頭痛も治して欲しいです!!」


 「んっ、んっ! あなたの頭痛は二日酔いです。飲み過ぎです。

 そんな事はどうでも良いのです。

 勇者よ、あなたの魂に直接話しかけています。

 聞こえていますか?」

 「聞こえている。また、異世界召喚されたのか!?

 あなたは、女神なのか!?」


 「いいえ、私の事はあなたがよく知っているはずです。

 お願いを聞いて下さい。」

 「聞くだけ、聞いてみます。なんでしょう?」


 「エリーを色々な場所に連れて行きなさい。今が旬と言う、山菜の天ぷらを食べたいです。」

 「んん??珍獣?」


 「エリーです。山菜、美味しい。」

 「いやまぁ、時期も何も、いつでも美味しいけど。」

 「山菜、食べたい。」

 「エリー?」


 ひょこっと、横手に気配が生え、見ればエリーが手を振ってる。


 「エリー?」

 「ハロー?」


 「えっ、ここはどうなってるの?」

 「どっきり 大成功。」


 いかにもな手持ち看板を持って、ゆらゆらと珍獣が揺れていた。

 シュウが胡乱な目でそんな珍獣を眺めていると、珍獣はバッグからゴソゴソとドアを取り出す。

 珍獣は壁にドアをペシッと付け、ドアを開き先を指差す。ドアの先は宿の部屋に繋がっていた。


 お、おぅ。随分おちゃめ感じになったな。珍獣。

 珍獣に聞くと、最近流行っている勇者召喚物の本が、このパターンの出だしで始まるので、イタズラを思いついたそうだ。

 珍獣、ずっと図書館に通ってたからなぁ。


 あと、説教のようなお願いをされた。

 彼女曰く、シュウはずっと酒場にいる。図書館で本を読むのも良いけど、ずっとこのままは嫌だ。のんびりしすぎて辛くなる気がする。

 シュウと一緒にお出かけしたい。このままじゃどこにも連れて行ってくれそうにない。

 あと、毎日、昼夜と酒場に行くのは、食事もあるから構わない。でも、泥酔して公園で寝るのは駄目だと思う。

 そろそろ、お話しなきゃいけないかな?って、思ったらしい。

 うむ。お出かけしようじゃないか。

 明日から。


 ◇ ◇


 緑が濃く見える山に決めた。山菜を取って天ぷらにして食べるのだ。材料と道具の準備はバッチリだ。

 今日の珍獣は、昔、どこかで見たような探検家ファッションをしている。似合っているのが少し悔しい。


 山への移動は走りだ。

 この世界、レベルで走る速さが変わるので、シュウが本気になれば、理論値で時速300キロは余裕だろう。実際は、半端なく硬い虫が弾丸のように飛んできたり、魔物が飛びかかってきたりするので、魔法で障壁を張り続けなければいけない。がっつり走れるような見通しが良い平野など、街の近くしかないのと、街から離れるほど木々の密度が上がり、森の日が差す場所は草木が高い壁のように茂っているので、実際に走るならシュウであっても時速70キロほどが限界である。

 珍獣ともなると文字通りにレベルの桁が違うので、身体を覆う障壁の上にさらに攻勢魔法を纏い、あらゆる物を薙ぎ倒し吹き飛ばしながら直進出来るらしい。


 シュウと珍獣は、林も森も風が吹き抜けるように走ってゆく。

 魔物の横をすり抜け、倒木を魔法で吹き飛ばし、藪を切り開いて進む。珍獣の先導で人間を避けているので、破壊するのは破壊して良いものだけである。

 デス・ロードは2時間ほど作り続けられた。


 「お、これってタラの芽? なんか違うけど。」


 タラの芽は鋭いトゲが無数に生えるタラノキの芽である。だが、ここにあるのはリンゴの果実のような不思議な物体である。トゲトゲのうにのよう果実である。トゲの一つ一つがタラの芽で、果実からタラの芽が生えているようになっている。果実は甘い香りで鳥獣が好んで食べるが人間には美味しくないそうだ。鑑定情報である。

 果実ごと採取する。


 ウドらしきものも見つけ採取する。日本のウドを見た事がないので不明だが、このウドとは違うと思われる。

 ゼンマイとわらびも見つけたが、化けてシダになるのものと、そのままの形で大きくなり、牙の生えた口で噛み付こうとグルグルを伸ばしてくるものがあった。食肉植物である。

 キノコは群生し魔物化し歩いている。倒すか蹴り倒してキノコを剥がすかしないと採取できない。

 ヒラタケ、しめじ、見るからに毒っぽいのや、色々の種類のキノコマンが、倒木の影に集まっている。毒がないかを確認して採取する。この世界、ほとんどの毒は毒消し薬を飲めば問題ないからか、毒ありただし美味、なんてキノコも多数、鑑定に出てくる。・・・採取しよう。


 鑑定で木の芽や草を調べていると、食べると美味しい山菜ほとんどが毒を持っている。熱を通すことで無毒化する場合が多いので、無毒のものだけでも少なくはない。だが、すごく美味しいと鑑定に出ているものは必ず毒があるのだ。

 鑑定で美味しいとあるのは、みんな食べていると言うことである。多分。


 珍獣などは、おつまみ感覚で毒草を毟ってムシャムシャ食べている。珍獣に聞くと、基本、魔物に毒は効果がないので、毒も美味しく食べられる、との事。

 シュウのレベルなら毒を食べても、即座に毒耐性が付くから大丈夫だよ。そう言われるが怖い。

 怖い、ちょっと怖いけど、チャレンジしよう。毒消しのストック結構あるし。

 美味しそうだし。


 「このピリピリするの知ってる。ふぐの子の糠漬けで毒成分多いとこんな味だった。

 おほぉ、まったりとして、そしてスーッとする。ウマいウマい。」


 ステータスを横目に見ながら、毒草もしゃもしゃ、ステータスに変化がない。

 ああっ、うんこしないとステータスアップしないんだった!

 そう思ったら、腹痛が。くっ、クルックルッポー!!

 胃が引きつり、下腹部が猛烈に熱くなる。毒と、決壊寸前のあいつが来たのだ。

 もう時間がない。

 ギリギリまで毒耐性を高めようと、手当たり次第に毒草をもしゃもしゃして、キノコももぐもぐする。舌が痙攣して口から飛び出すのを精神力で抑えつける。


 「くっ、きっ、キノコを積んでくる!!」


 珍獣へ声を掛け、数歩先の地面に魔法で穴を開ける。加減を間違え大穴を開けてしまう。穴でしゃがむとすっぽり隠れるほどだ。

 ズボンとパンツを脱ぎ収納に突っ込み、穴に飛び込んだ!


 「ぐっ、ぐっ、ぐぁぁぁ、ぐほっ!」


 穴の中で、プルプルしながら毒消しを飲んだ。毒を食べた舌の痙攣、毒消し薬のエグさ、毒そのものに胃が痙攣してえづく。

 全身がヤバイ感じになり、穴の側壁に指を突き刺し、苦痛と寒気に身体をよじらせながら排便を続ける。

 穴の中での暗い視界にチカチカと星が舞い、ガンガン響く頭痛で頭が割れそうだ。


 「す、ステータス!」


 全身の産毛一本一本まで総毛立つ感覚に襲われながら、ステータスを確認する。

 毒耐性と致死耐性が付いて、数値がガンガン上がり続けている。

 もう少しで死ぬところだったらしい。


 スッキリしたので、濡らしたボロ布でキレイキレイする。

 身体から熱々に熱した砲丸が抜けたような、ぽっかり心に穴が空いたかの様な寂しさもあり、清々しさも感じる。

 ひょっこり覗いてきた珍獣の手に捕まり穴から脱出した。

 穴は土で埋めたので、もう安心だ。臭くない。


 ステータスには即死耐性も追加されていた。

 半年ぶりぐらいにスキルが増えたが、死ぬかと思った。

 だがしかし、毒耐性に即死耐性、致死耐性のスキルを備えた俺は毒に負けない。毒草だろうが毒キノコだろうがムシャムシャ出来る。


 ハチのアナフィラキシーショックにも対応してるのだろうか?

 いやね、チラッとハチさんを見かけたからね・・・。

 今日は山菜だけでいいや。体力半分しかないし。


 「うん。毒耐性と致死耐性と即死耐性がスキルに追加されたよー。もう大丈夫だから〜。」


 心配そうに珍獣が見ているので、にっこり笑っておく。

 山菜採りの続きをする。

 毒採取をしている気がするが気にしない。だって、毒があるほど美味しいし。たぶん。


 しらばらく山菜採りを続けると、木のない日の当たる場所に出た。

 大型魔獣同士が争った跡地なのか、倒木が広場の端に積み重なっている。

 気配も感じないので気にしない。珍獣もいるし大丈夫。


 テーブルを出し天ぷらの用意をする。

 衣を付け、揚がったものから順番に食べる。

 塩で山菜の天ぷらをつまみに清酒を楽しむ俺と珍獣。


 いい感じに酔っ払ったので、珍獣にドアを出してもらって寝た。

 毒消し薬まずーい。おやすみなさい。


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