芝生に乗った珍獣
視線と気配を感じ、隠匿と気配分散に意識を向ける。
この気配は珍獣か。
二度寝しよう。
ゆっさゆっさ揺さぶられる。
「よぉ、珍獣。
んっんー、エリー?おはようさん」
何か言いたげにしている。
「んーんー、魔法使いとレンジャーの事か?
そう。
重要なこと?
あ、違うんだ。遊びに来た?」
息抜きに来たようだ。
よいこらっせと起き上がり、ぽつりぽつりと珍獣に聞いていく。
一応反省しているらしいけど、魔法使いが俺様のままであまり変わってないらしい。
どこかへ出かけていたそうだけど、珍獣も面倒になり置いて来たらしい。
「飲みに行く?」
「じゃぁ、ちょっと早いけど、お昼食べに行く?
おっし、行こっか。」
ちょっと気分を変えて、ステーキをがっつり出す店に行こう。
珍獣も行ったことない店だし、ちょうどいいだろう。
やっぱりあの2人は面倒だったらしい。牛を狩りに行った時もギャーギャー言ってて、全然狩りにならなかったらしい。
馬鹿だよなぁ。
「まいどー! 昼めし2つね。」
「あいよー。
そっちの兎の旦那は初めてだね。うちも贔屓によろしくな!」
珍獣は器用にナイフとフォークでステーキを楽しんでいる。
今更ながら、兎なのに肉を食べるのは何故か聞いてみると、迷宮で生まれた生物は基本雑食なんだそうな。
雑食と言っても所謂食品だけでなく、岩や武器防具も食べる事が可能らしい。ただ、味や食感よりも魔力的な何かがどれくらい含まれているかが重要みたいで、味や食感を楽しめるようになるには、強くならないと駄目なようだ。
珍獣クラスに強くなると、大気中の魔力的な何かを勝手に吸収するようになり、食事の必要はなくなる。それこそ魔力で溢れるダンジョンでは、吸収した魔力が多すぎるので、物質生成して魔力を消費してる。それで趣味が多彩になったと。
ダンジョンモンスターの知られざる秘密って所か。
俺達、ダンジョン産ではない人間でも、成長すれば魔力的な何かを吸収できるようになるらしい。
なるほどねーって聞いてたけど、それって魔人なんじゃ…。ま、いいか、余計なこと報告しても面倒臭いだけだし。
「どう?うまかったか?」
「そうかそうか。店主にも伝えとくわ。」
店主に珍獣も気に入ってた、うまかったと伝えると、カゴに入った草を進められた。
噛んでると口の中がさっぱりして肉の消化も助けられるハーブらしい。お得意様で欲しい人には食後に配っているとか。俺、初めて見たんだけど…。
もっしゃもっしゃと珍獣も一緒にハーブを噛みながら、あてもなく街をさまよう。
袖を引っ張られ、図書館前の芝生広場にたどり着く。珍獣はここでボーッとするのが好きらしい。
ベンチに座り、屋台に訪れる人で賑わう図書館前広場を、ぼんやり眺める。
すっと、メガネを渡される。
よくわかんないけどメガネを装備した。何も変わらない。太陽のギラツキが軽減されたかな?ってぐらい。
横を見ると、珍獣もお揃いのメガネをしていた。
うむ。
芝生に差す木陰で昼寝しよう。
いい天気ですね。
◇ ◇
1時間ほどで昼寝を切り上げ、図書館の談話室でゴロゴロして時間を潰した。
夕食はいつもの酒場で適当に食べる。
珍獣は一緒の部屋に泊まるらしい。
何もない一日だった。
おやすみなさい。