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珍獣に丸投げした話

 まだ明るい時間だけど飲んだお酒がうまかったから。

 興に乗りもう一杯もう一杯、いつもの事だった。

 いつものように、いつもの酒場で、珍獣相手に酒が美味い。

 珍獣の手をピシャピシャ平手で叩く。

 珍獣の手の甲をモサモサする。

 超が付くほどご機嫌である。


 機能的に発声出来ない。本人が良い方に捉えるなら、メリットになり得ると俺は思っている。

 話したくても話せないもどかしさ。これは奥ゆかしさに似て通じるものがある。明示的な発露ではなく、そこから伺える努力と工夫から滲み出すような色。その色に触れた時、他人はそこに何があるのか好奇心を持って引き寄せられるのだ。


 具体的な物で言えば何になるのか?

 持ち歩き出来るホワイトボード。あぁ、こちらでは手帳で構わない。どうしても正確に伝えたい意思があると強烈に相手に伝えることが出来るだろう?

 手帳とペンを持ち運ぶ労を惜しまず、自分に何かを伝えるために、用意して持ってきて書いてくれるのだ。これを好意的に見てもらえないなら、その相手との付き合いは考え直した方が良いのかもしれないね。

 これは会話で意思疎通が出来る人でさえ好意的に見てもらえるのだ。話せない場合は、手帳を持ち運ぶと言う行為自体に、そこへ生真面目さと努力を感じる事だろう。オススメだ。


 あと、○×カードはどうだろう?

 討議で参加者の意見をハイかイイエで知りたい場合に使用する、道具というかアレだ。それぐらいなら動作で伝わる。だが、逆の意味に受け取られる場合もあったりする。無くても良いけどあっても良いだろう。

 追加していくつかバリエーションを持っても良いかもしれない。

 「それは美味しいですか?」「どこで売ってますか?」「おいしいご飯はどこですか?」「お肉の料理はどこにありますか?」「メニューどこですか?」「日替わりご飯の内容を教えて下さい」

 初めて行く街用、酒場で注文する用、便利に使えるものをまとめると良いだろう。

 多すぎても忘れちゃうし、必要なものだけ用意すると良いんじゃないかな。


 後は、仕草だ。

 口を開けて指を一本立てて添えると「美味しそう」「お腹空いた」、料理を指差した後に首をかしげると「その料理は美味しい?」、あとはまあ適当に?仕草で伝わらなかった、色々やってみれば良いんだよ。なんどか仕草を見せてれば、なんかほっこりするし見てて楽しいから。

 斜め上を口開けてると考えてますとか、レンジャーがアホ面してる時あるっしょ?あんな感じだよ。


 あぁ、あとな…。


 シュウは珍獣に、過去どんな場面で、意思表示してる女が可愛く見えたり、美人に見えたかを具体的に話している。

 首筋に顔を寄せられ耳の近くで匂いを嗅がれた時に、ドキドキして恋してしまうかと思ったと力説する、ただの変態だった。


 珍獣は、何もない斜めを上を向きボーッとしている。

 ちょっと空いた口から見える舌とピクピク動きプスプス言ってる鼻、たまにゆらゆらとする頭。

 酔っ払いのシュウは、仕草に愛が芽生えると力説しているうちに、珍獣が可愛らしく見えて来たらしい。

 顔をゆるませ鼻の下を伸ばし、酒を飲みながらニヤニヤと珍獣を見ていた。

 彼の頭の中では、性別を超えた可愛らしさとはこういうのか。などと考えているに違いない。酔い過ぎて、考えてる事が声に出てるので。


 ヒュッと珍獣の顔がシュウに向き、マジマジとシュウの目を見つめている。スッと斜め上に顔が戻り、フスフスしている。

 珍獣は馬鹿が馬鹿な事を言っているのを確認したようだ。


 「そうそう、どこか行ってみたいとか、やってみたいとかある?図書館とかどう?」

 「ひょっとして入ったことあるとか?あるんだー。」


 別の話題に移って、すぐ終わったらしい。

 記憶に残ってる昔食べた物の話になった。

 延々と飲み続けるらしい。


 ◇ ◇


 3軒目の飲み屋で閉店になり追い出され、公園にいる2人。

 付き合いの良い珍獣である。

 ベンチに並んで座り、ぼんやりと時間を潰している。


 「魔法使いとレンジャーか。気にしてるのか?」

 「あー、やっぱり心配か。おれも一応は心配してる。」

 「あれ、言い過ぎだったって思う?」

 「明日、様子を見に行こう。うん。」


 うんうん聞いてくれる珍獣。


 「珍獣は、1人の人間として? 変な話だけど、1冒険者として生きたいように生きれば良いと思うよ。

 最悪、ダンジョンに逃げちゃえば良いんだし。」


 「明日、魔法使いとレンジャーの様子見に行ってみる?」

 「わかった。じゃ、今日はもう帰って寝よう。」


 ふらふら宿に帰るシュウ。珍獣は少し後ろから、シュウが足を踏み外したり人にぶつかったりしないよう、後ろからチョッキを掴んでいる。

 宿の前まで来て「帰りたくない」そうダダを捏ねるシュウを連れ、宿の部屋に連れ帰り、ちゃんと寝付かせる珍獣だった。


 ◇ ◇


 明くる日。

 珍獣とシュウは、魔法使いとレンジャーの宿に来ていた。

 宿の主人へ珍獣を紹介し、値段や宿泊システムを教える。

 女2人が起きてくるのを待つことに。


 むちゃくちゃ機嫌が悪い2人が食堂にやって来た。

 心配で見に来た。

 それだけ言って、2人と一緒に朝ごはんを食べる。

 2人の様子は、どう見ても事故物件。というか、手に負えない猛獣である。無関係を装うべきであろう。


 珍獣は、彼女たちとしばらく暮らすらしい。

 珍獣がいれば、2人の面倒を見てくれるだろう。

 どこまでもお人好しな珍獣と、珍獣のおかげで心が軽くなったシュウ。

 シュウは酒を飲んでないと調子が悪く、話すのも億劫で人の心配などしてる余裕はないのだ。


 「風を感じたくなった。」


 そう言い残し、シュウは彼女らと別れ宿を後にした。


 「ただいま世界。」


 ぼそりとつぶやくと、公園の木陰で昼寝を始めたシュウだった。


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