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本人を目の前に酒場で愚痴って飲んだくれる男の話

 馴染みじゃない酒場に来た。

 決まっている。魔法使いが泣くに決まっている。いつもの酒場を荒らされたくない。

 最終到達目標は、なあなあで何も決めずに済ます。良いお友達で居ましょうと言わせれば勝ちである。全然勝てるイメージが無い。


 清酒を頼む。日本酒っぽいなって思ってたら日本酒も流通していた。

 これで清酒も三杯目なのだが、会話らしい会話がない。ツマミをどれが良いか聞いただけだ。そろそろダウンしそうなんだが、酔った気が全然しない、不思議。

 仕方ない、話をしよう。


 「それで、今まで、ポンコツが暴走した時、どうしてたの?」

 「1人でチマチマした依頼をこなして、愛想をつかされるのを待ってた。」

 「ふーん。」


 酒が不味い。何を食べても不味いし、思いっきり酒が苦い。

 ははっ。こういう時でも食べられる物、俺知ってる。


 「唐揚げと、熱いお茶を頼む!」

 「・・・。」

 「唐揚げもう1つ追加、お茶はあと3つ追加で!」

 「・・・。」

 「声に出して喋れや。」


 横に座る珍獣だけをじっと見ながら、唐揚げをモッチモッチ食べる。

 珍獣をじっと見て、熱いお茶をチビチビ飲む。

 珍獣はずっとメニューを見ている。気まずいからメニューを見る偽装してるんだろ?わかってる、何も言うまい。

 向かいにいるレンジャーが、挙動不審にひょこひょこ動くのが目の端に見えている。

 魔法使いは顔色が赤くなったり青くなったり、自問自答していらっしゃる。


 「珍獣ちゃん、んーあー、メリー??宿は何処にする?

 あれなら俺が面倒見るけど?」

 「えっ、それ、私のペット!」

 「エリーは珍獣に面倒見られる方だよね?わかってんの?

 都合が悪いと他人を除け者にする奴が、ペットを飼えると本気で思ってんの?

 俺が聞いてるのは、珍獣とルーシャちゃんにだよ。」

 「でも、私しか会話出来ないし!」

 「残念。

 やろうと思えば、俺にも珍獣ちゃんにも出来るんだな。これが。

 だよね?」


 珍獣ちゃんに集まる視線。珍獣ちゃん、そっと目をそらす。

 珍獣ちゃんの頭に手を置いてグリグリと撫ぜてやる。


 「ま、コイツの事はいいや。話せなくても言いたい事わかるし、わかんない奴いないよね?」

 「…。」

 「さて、酔ってきたから、さっさと本題を片付けようか。」


 「おいおい、俺に全部おまかせして、文句だけ言うってズルくないか? 俺の言うことに全部ハイって答えるなら、それでも良いんだよ?」

 「あとな、わかってると思うけど、珍獣ちゃんって、お前らより人間レベル上だからな?

 こっちが付き合ってもらってるって、忘れんじゃねーぞ?」


 困ったらダンマリ決めこむって何だろうね?

 もう、ペラペラ喋っちゃうぞ?


 「まずはエリー。お前、考えなしの馬鹿だよね?意味わかるよな?お前って言うなとか話をごまかそうとするなよ?いいね?」

 「なぜ、考えなしと言われるか?それは、お前の発言でレンジャーちゃんが困ってるからだ。もちろん俺も困ってる。

 家でも借りて、この四人でパーティーを組んでやって行くのかと思いきや、自分と俺の事しか頭になかったからだ。それは、他のことは大事に思ってないという事になる。」

 「おおっと、待て待て。文句しか出ない、お前の話なんて聞かないぞ。

 いいな、黙れと言っているんだが、言葉は通じているよね?」


 「でだ、話を続ける。

 後から、その時はそんな事を思っていなかった、そんなつもりは無かった、そう言うのは犯罪者の常套句なんだぞ?後先考えない馬鹿ってのは、基本的にそういう奴らの事を言うからな。ほら、エリー、お前って犯罪者と同じ事を言ってないか?よーく思い出してみろ。」

 「泣き出して誤魔化すのは子供だけだぞぉ。子供の面倒を見るのは冒険者の仕事じゃないぞぉ。」


 魔法使いは怒って泣いている。思ってたのと違う、自分がやりたい事じゃないって、泣いて許されて来たんだろうな。そんなん鼻くそしかほじれないぜ。

 レンジャーは白けた顔してぼんやりしてる。今までの魔法使いの事を思い出しているんだろう。

 珍獣は、メニューで選んだ料理を注文している。イカの炙り?いいじゃない、俺も食べる。よしよし、お前は良い奴だな。


 「さて、これまでの悪行を思い出して貰えたかな?

 これを解決する良い方法があるって言えばどうだろう?興味がないかい?

 おおっと、俺が勝手にしゃべるから。お前らは黙ってイエスと思ってれば良いんだぞ。」

 「しゃべるなと言ってんだろうが、糞エリー。黙るんだ。良いね。だまれ。」

 「聞きたくもない言い訳が垂れ流されて汚かったわけだ。それも良くないね。人としてのあり方が間違っているよね。

 俺は、だれが悪いとか決めたい訳じゃないんだ。悪いのは誰かみんな知ってるから、意味もないんだよ。」


 「さて、解決方法だったね。

 何かを思いついても、話す前にメモに書いて3日開けると言うのはどうだろう?

 衝動買いをしたくなっても、その場では我慢して3日経っても欲しいと言う思いが残ってたら買うってのと同じだ。

 これは効果があるぞ。


 大事な事なら3日後でも大事な事だし、どうでもいい事ならゴミ箱に捨ててしまえ。その3日の間に、自分が本当に何を言いたくて、その結果、誰に迷惑をかける事になるか考える事が出来るだろ?自分の言う言葉に責任を持つとは、そういう事だと思うんだ。」

 「確かに、言いたい事をメモするのは面倒だろう。だけど、メモに書く必要すら無い事をポンポン言われるのも困るんだ。俺達はお前のゴミ箱じゃない。お前が言う事を、最大限良く受け取って、役に立ててやるほど、お前の言葉に価値は無いんだ。」


 「責任と価値って、違うように見えて同じなんだわ。エリーが言う責任ってば、誤って金を払えって事だろ?おおっと、黙るんだエリー。質問してるんじゃない、俺がエリーと呼んでもそれはお前じゃない。残念だが、お前に価値を感じてないんだ。

 なんだったかな?汚い言葉で思考が汚れてしまったようだ。思い出すから少し待て。


 そうそう、Aさんが責任と言う場合、謝罪と金寄こせのたかり行為を指しているって所だったな。

 責任ってのは、その言葉をかける相手が、どんな行動を取って結果どうなるのか?それは実行可能なのか?それによる影響はどの程度かを、事前に考慮して、結果としてメリットがあるからお願いする。自分の言葉で悪い事にならないと自分自身が考慮済みである事を、言葉に責任を持つって言うんだ。

 自分の言葉に責任を持っているから、結果良いものとなる。周りの人は、その繰り返しを見て、あの人は発言に責任を持っていると感じるんだ。だから価値がある言葉になるんだ。

 俺がそう出来ているか居ないかは別の話、だけどそうなりたいとは思って行動してるし、話す言葉にも気を付けてる。

 Aさんとは違うと思ってる。


 自分の発言を実現するため、暴力で障害を排除する。良いね、簡単な責任の取り方だ。だけど、その場合、他の人間からも暴力で排除されても仕方ないんだ。暴力で責任を取る価値がその人にはあるんだから。


 で、エリーだ。しゃべるんじゃないぞ、黙ってろ。

 エリーは思い付きで喋って行動して周りを不幸にする人間だ。話す言葉に責任が無いのだから、周りがどうなろうと関係ないのだから、そうなるも仕方ない。では、周りはどうすれば良いのか?エリーから、喋る事と行動する事を取り上げるしかない。本人が責任を取る気がないし、価値がないのだから仕方ない。

 エリーには、何を言っても良いし、何をしても良いんだ。エリー自身が、それが自分の価値だと言ってるんだからね。

 エリーの周りの人間も、無意識にそう思ってるんじゃないかな。他人の考える事なんて知らんけど。

 周りの人間は、そんな身勝手な人間になりたくないから、エリーは見過ごされて生きてこれたんじゃないかな?って、思った。」

 「責任を取れとか、謝れとか、謝って済む問題じゃないとか、馬鹿じゃねって思うんだよ。」


 「さて、俺の言いたい事を言ったわけだ。

 参考にするのも、無視するもの、自分で考えなきゃいけないぞ。

 さっき、言ったことは2つだけだ、思い付きを喋る前にメモを取って3日間を開けろ、責任と価値について、この2つだ。

 ルーシャちゃんが助けてって言うから、俺が思った事を教えたんだ。本当ならこんな事を言うだけ無駄だと思ってるんだからな。」


 「さーて、考えてる所で悪いが、今日はもう帰るよ。

 とりあえず、珍獣連れて帰るから。

 じゃ、またな。」


 珍獣がチョッキを離さないので連れて帰る事にした。

 ペラッペラ喋ってやったぜ。

 これで、レンジャーちゃんの負担が減れば良いんだが。

 お会計は、二人分の半分と少し多めに置いていく。


 ◇ ◇


 珍獣を連れて街なかを歩く。二度見される事はあるが、それほど目立ってはいない。たぶん、珍獣の着ている服がちゃんとしたものだからだろう。

 チョッキと革パンツとマントを着てれば魔物っぽさが無いからな。

 街に入る事を理解して、俺とお揃いにするなんて、こいつは良い珍獣である。


 宿の主人に、珍獣を紹介する。

 文字も読めるし、ジェスチャーで意思疎通も出来るので問題なかった。

 今日は2人部屋で一緒にいたいようなので、それにする。

 心細いだろうからな。


 部屋に入ると、懐中時計の扉を壁に貼る珍獣。なるほど便利だ。

 今日はとても疲れてる事を伝えて、眠る事にする。

 ベットと寝具を出してくれたので、ありがたくお世話になろう。


 ダンジョンで苦労するより、大変な1日だった。

 魔法使いと関わり合うのは最後にしたいが、無理だろうなぁ。

 1人ぼっちで、焚き火に当たっていた時の方が幸せだったとか、鼻で笑うわ。


 おやすみ。珍獣。



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