魔女の塔。関わっちゃいかん案件だったようだ
シュウは1人、焚き火の前で夜空の星を眺めていた。
眺める星空は世界が違っても綺麗だった。
帰路の途中、路地の少しはずれに丘が見えたので、周囲に明かりが無い場所だと星空が近くに見える、あの世界だと海岸や山の上が綺麗だった、そんな異世界ムダ知識を話していた。
冒険者の常識として、見通しが良い丘の上は野営する場所として不向きである。全方位から狙われやすく少人数だとカバーできない、焚き火の光が遠くまで見えるので魔物も盗賊も寄って来る、等々、間違ってもこんな場所で野営するなと言い聞かせた。
しかし、俺達は馬鹿な事をしたい気分だったのだ。
意味が無い、危険すらある、けれど夢がある。そうだ、満点の星空を見よう。星空の下でホットワインを飲みながら、くだらない事を話して笑い合おうじゃないか。ノリで決めたの。ロマンだよ、ロマン。
そうして、俺は1人、焚き火の前でチビチビとワインを飲み、美しい星空を眺めている。
他の奴らは珍獣の懐中時計の扉で、ヌクヌクのふわふわベットで眠ているだろう。
魔法使いが遠吠えの声を聞き「私怖い」と喚き出し手に負えなかったので、珍獣に扉を出させて放り込んだ。
シュウは1人になり、星を見ながら、カラオケマシンを作るにはどうすれば良いか、真剣に考えているのである。
木の上で寝れば良いのだが、そんな気分じゃなかった。ロマンが空回りしていた。
珍獣が横に座りスッと酒を出してきた。
うむ。良い香り。これはきっとブランデー。
軽くカップを持ち上げ、珍獣へブラボーと挨拶を返す。
「ちょっと待ってな。」
ゴソゴソと収納を漁って、秘蔵の自家製ベーコンを珍獣に見せる。
「自慢の一品だぜ。金がかかりすぎてて簡単には作れないけどな。」
精一杯ニヒルに見えるよう笑いかける。珍獣がカバンをゴソゴソやりだすのを止める。
「おっと、流れ星に願えば願いは叶うんだ。遠慮はナシだ。今日は星空におごってもらおうぜ。」
頭おかしくなってる。自覚はあるが、何か言わないと取り返しつかない何かが折れそうだった。
分厚くスライスしたベーコンを長柄のフォークに刺し、珍獣にも渡す。
遠火で炙るベーコンの油がパチパチはぜる。
2人でブランデーを舐めながら、ベーコンが焼けるスモークの香りを楽んだ。
珍獣と2人、ゆっくりと流れる時間に酒を楽しむ。
この珍獣は良いやつだ。違いない。良いやつと一緒にいる。大事。心が癒やされる。
ロマンは充電された。
◇ ◇
「シュウって、お酒を飲んでないと、あんまり話さないんだね。」
「そうか? かなり話してる方だぞ?」
「飲んでる時は、もっとこう、いい加減な事いっぱい言ってる。」
「そうか?酔ってる時はしゃあない。」
酒場に連れてけって事か?
いちいち会話ゲームで裏を読むってクッソ面倒。そもそも、ゲームに付き合う気もないし。言いたいこと言えないクズと居ても楽しくないし。
こいつ面倒だよなー。思い込みで突っ走るし。
「酒場に誘ってんのか?言って欲しい事があるんなら、はっきり言う事だな。」
「はっ?喧嘩売ってんの?わけわからんし。
あなたこそ人の気持をもっと考えるべきだわ。」
プリプリ怒って離れていく魔法使い。
だよねー。人の意見聞かないよねー。知ってた。無駄って。
思考がスポスポ抜けるって怖いよね。被害妄想全開で、お前が悪い金よこせ、だもの。怖いもの無いんだろうなー。
「残念だけど、人間って虚しい生き物なんだよね。」
珍獣に肩をポンポンされた。
◇ ◇
一行は何事もなく街へ帰り着いた。
ギルドへの帰還報告ついでに、今回の旅の成果である魔物や物品を換金してもらう。
これだけあれば、二ヶ月ほど酒を飲んだくれてても良さそうだ。
珍獣も冒険者として登録する。
冒険者への登録は、意思疎通が可能で魔力を持っていれば誰でも登録可能だ。
自己申告によりメスだと判明したので、珍獣の名前はテリーからメリーに変更する。エリーは下の兄妹が欲しかったらしく、名前を付けることにこだわった。
「ねぇ、一緒に暮らさない?」
「あん? 一応、理由も聞くけど、メリットはあるの?」
「公園で寝るより家で寝たほうが良いと思うの。それに、荷物も置けるし、冒険にもっと連れて行って欲しい。」
「気付いたら公園で寝ているだけで、普段は宿で寝てるんだけど。
まあ、一緒に暮らすのは置いといて、理解出来んのだけど? 戦士ちゃんどうした?」
「・・・。」
「おい。
おまえ、もしかしなくても、思い付きで喋ってるだろ?」
「・・・。」
「まさかとは思うけど、楽しい方はどっちかなーって、二択で選んでないか?」
「・・・。」
「おいおい、冗談だろ。
レンジャーちゃん帰ってくるまで大人しくしてろ。」
魔法使いって、男に騙されて売られるタイプの人間だ。
よくそれで生きてこれたな。
ちょうどレンジャーが席を外している時に爆弾発言ぶっ放すところを見ると、後ろ暗い事を分かってんだろうなぁ。無意識にわかってるだけで、理由付けとか認識してないかもだけど。性格悪いわー。
駄目だコイツ。
シュウはレンジャーが戻るのを待って、これこれこうゆう事を言いだした魔法使いをどう思う?と相談する。
レンジャーは額に手を当て項垂れている。
ショックから回復したレンジャーが言うには、魔法使いと戦士は同じタイプで、休暇明けに連絡がつかずに探すと、男へのアタックに夢中になってて馬鹿になってるのだとか。今までに何度か前科があるらしい。
しっかり調教したのに残念だ。レンジャーはそう言って、隣に座る魔法使いの太ももを拳でガスガス殴り始めた。
刹那に生きる住人なんだなって思った。何も考えてなくて自分の利益しか見えていないのだろう。
コイツあかん。
魔法使いは、言われて思い出したのか青い顔をして、太ももを殴られる度にビクビクしている。
レンジャーちゃんは、むしろ魔法使いや戦士を捨て、自分がシュウと珍獣と一緒に暮らしたいと零し、魔法使いはメソメソと泣きだした。
爆弾に火を付けまくって自分の安全地帯探す人間って、ホント人の迷惑考えないから。
このタイプって、加害者のくせに被害者面して金を毟ろうとするし、同情してくれる相手からも金を毟るんだよなぁ…。場所と相手を変えて何度も何度も。
ド直球の馬鹿で美人でスタイルも良いから、許されて来たんだろうなー。
付き合いたくないなぁ、面倒臭いなぁ。
「ところで、俺、もう帰っていい?」
2人に絶句され見られている。珍獣をチラッと見ると、置いてかないでってウルウルしてる。
にっこりと無理矢理笑うけど、こめかみが勝手にピクピク動いて思った顔になってない。
ハハハ。こいつらめ、俺に苦行を強いるでありますか?
よっし、おっちゃん、もう一度、頑張るぞ!
「なんやねん? 帰るけど?」
立ち上がる俺、珍獣にチョッキの端っこを握られている。離せっ、離さんかっ!後生だ、離せ!
さらに魔法使いまでチョッキを掴みに来るだと!?コイツ!どうしよう、殴りたい!
「おい、レンジャー! どうすりゃいい?」
「うっ。そ、そうだぞ! 打ち上げしようぞ!」
「おい、すごい汗出てるぞ。
体調悪いなら帰ったほうが良いぞ。
おれも、帰りたいんだが?」
「私が駄目、お願い助けて。」
ぐぬぬ。
嫌だ。嫌と言いたいのに言えない、自分もすごく嫌だ。
卑怯だぞレンジャー。レンジャー、コレジャナインジャー、ロボジャー!
「糞がっ!
酒場!行くぞ。
うぇーい!」
「うぇ、うぇーい!」
どうしてこうなった。