レベルアップは便意と共に
茂みに中腰で隠れ、周囲の敵を警戒している。
クッ、こんなタイミングで襲われるとは考えてもなかった。
街を出て四時間しか離れていない。こんなに近くに盗賊とは。
流れの盗賊では無いだろう。
こんなにも街の近くで暴れれば、捕まえて欲しいと言っているようなものだ。
襲撃に成功したとしても、目撃者が一人でもいれば、騎乗した兵に追われまくる事になる。
ここ何年か、王が主導する善政イメージキャンペーンに乗っかる形で、各領主が、盗賊団討伐や大規模な魔物討伐を行っているのだ。
領主が実績を上げれば、中央から何らかの報奨があるのだろう。
それに関係しているのか、名札付き盗賊の討伐賞金も倍になっているのだ。
俺が食い止める。俺を残して街に走れ。なんでそんな事、言っちゃったんだ。
すごく恥ずかしい。なんて事を言ったんだ。
青臭いと思われるのはまだしも、賞金独り占めしやがって、なんて思われたらどうしよう。
ストレスで腹がキュルキュルする。
男にとっては、何てこと無い、ちょっとした狩りのはずだった。
ちょっとだけ豪華な夕飯を食べたいと、意気投合したその場の飲み仲間達と朝まで作戦会議を行い、気合十分に出発したのだ。
うまい酒と、河牛を使ったツマミをこしらえ、締めに刺突鳥親子丼を食べる。
これが俺達のベストチョイス、これしかないと。
餃子が好きすぎる奴や、唐揚げが外せない奴、それぞれが自己主張して纏まらず、一日で帰ってこれる範囲で高給食材を使ったメニュー、それで行こうと、会議に意味が無かった。
誰が何を食べたいか言い合うだけの、いつもの酒ノリだった。
その程度のメニューなら、男には負担でも何でも無い。だけど、金欠気味の奴らと、新人冒険者が食べるには豪華すぎた。
酒飲んで、歌って踊って愉しい雰囲気を壊したくなかった。
たぶん、みんなそう思ってたはず。
楽しく飲んで騒げるって、生きてるって実感できるじゃん。
女の子に、ちょっとだけ格好いい男を魅せちゃおっかな!?とかも、あるけど。
今は反省している。
自分もそうだが、自称手練れ冒険者であっても、武器も防具もナシで、飲みの後に、そのまま出かけたのが不味かった。
武器なんて、その辺の石でも適当に投げれば問題ない。言ってたやつ、ぶん殴りたい。
いい気持ちで、ガヤガヤ歩た俺達は、街道をはずれ、川のそばにある、ちょっと良い感じの丘に向かっていたんだ。
川の近くに、菜の花を中心に色とりどりの花が咲いてる原っぱある。それを見下ろす丘があって、吹き抜ける風が気持ちいいんだ。
それに、酔っぱらいで行軍するには、男にとっても少し辛い、ちょっとだけ休憩したい。
二日酔いになりかけの、ゆるゆるに緩んだ俺達と、盗賊の出会いは突然だった。
7〜8人はいたのか、頭が痛くてよく覚えてない。盗賊さんと出会った。
みんな下を向いて石ころを探す俺達。
ちゃんと剣を構え、盗賊に相対する新人冒険者達、まじめに偉い、ちゃんとしてる。
ふらふらと屈み、地面を探すが何も落ちてない、困惑する自称手練れの俺達は顔を見合わせて苦笑いするだけである。
酒のせいか、石を拾えず恥ずかしかったのか、嬌声を上げて盗賊に襲いかかる自称手練れ達。
偶然か、それとも、戦いに身を置く人間に通じ合う意思疎通か、一糸乱れぬタイミングで盗賊へと踊りかかった。
統制の取れた連携、何これ、超気持ちいい。酒のアテに丁度いい話題が出来た。
だが、自称手練れ達も、そこまでだった。
かろうじて、一人一殺は出来たものの、しゃがんだ状態から躍りかかっての激しい運動に、自称手練れ達は半死半生になってしまう。
ゲロを吐いてて、戦闘どころじゃない。
そこで、俺の恥ずかしいセリフだ。
一番早くゲロったから、みんなより余裕があったんだ。
それに、何ていうか、今の状況が美味しいって思ったんだ。
「くそぅ、貴様ら、汚い奴らめ。
ここは俺に任せろ!
お前らは、倒れた奴らを頼む。引きずってでも街へ戻るんだ!
ここは俺に任せて街へ行け!」
汚い奴らってのは、進行形で吐いてる奴らね。
新人冒険者達に肩を貸してもらい、ヨロヨロと街へ戻る自称手練れ達、ザマァ。
男は一人、逃すまいとする盗賊たちを妨害し、順番に潰していく。
必死に戦うふりで、うおーっとか、くそぉーとか、俺、超頑張った。
所々に傷が出来ちゃったけど、全員やっつけた。
酔ったままの喧嘩は手加減が面倒だけど、遠慮しなくていいから、いつもより楽。むしろ運動して気持ちスッキリしてる。
洗ってないケモノの匂いがする盗賊たちを引きずり、一箇所に集める。臭いので。
おざなりに漁ったが、金どころか、小袋一つ持ってなかった。
だがしかし、ボロ布を手に入れた。
これで遠慮なく、うんこできる。
で。現在、俺は、茂みでうんこしてる。
俺のレベルアップするタイミングは、大の排泄時であり、徹夜で飲んでたせいで、お腹もゆるゆるだったのだ。
あんな事を言ってしまったのも、急激な修羅場に便意が限界と共に訪れてしまい、テンパったからだと思われる。
俺悪くない。
男は、寝転がってステータスを見ている。
太陽にお腹をさらして温まっていた。
ぬくぬくした地面と、照らされる太陽に暖められ、超気持ちいいんだ。
今日の夜は、盗賊討伐賞金で宴会だ。