表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/39

どうやら、最後の最後でやらかしてしまった様です。

 異世界生活七日目。

 今日は朝からおかしな出来事が。

 昨日、確かに別々に寝たはずなのに。

 なんで、トウカが隣で寝ているのでしょう?

《彼女がベッドに潜り込んだからでしょう》

 ウン、デスヨネー。

 現実逃避してました。

 抱き枕状態だから、身動き出来ません。

 ちょっとどころじゃなく困りますよ、色々と。

 結局、解放されたのはそれから十分ぐらい経ってからだった。

「申し訳ありません、ご主人様。その、このようなキチンとしたベッドで眠ったのは初めてだったもので。不安でしたのでつい、すがってしまいました。いかようにでも罰して下さい」

 下着姿のまま、土下座とかしないで欲しいな。

 ベッドから出られませんよ?

 これでも健康的な男の子ですので。

 どうにか彼女を宥め、着替えて食事を済ませると宿を後にした。

 今日は色々やりたい事があるからね。

「まずは、日用品の買い出しからかな」

 大金が手に入ったからと、浮かれないように注意が必要です。

 身の回りの物は、必要最小限に留めておかないと。

 色んな店舗を回っていると、ついあれもこれもと欲しくなってしまうからね。

 ちなみに、俺が【道具箱】持ちだという事は、トウカには話してある。

 リリエイルさんから貰った『アイテムバック』を、彼女に使って貰おうとしたら。

「その様な、とても高価な魔法道具を、奴隷の私が頂く訳には参りません」

 と、拒否られたので。

 スキルを見せたら相当驚かれたけど。

 でも、そうでもしないと、彼女の着替えも俺が管理しないといけなくなる。

 それは少々ハードルが高いです。

 まぁ最終的には、命令して預からせたんだけど。

「この命に代えても守ってみせます」

「それよりは、トウカの命の方が大切だから。自分を大事にするように」

 どこまで分かってて貰えるのかね。

 市場や店舗を巡りながら、色々と買い揃えて行く中で、ある店舗に目が止まった。

 表通りからは見えにくいその店は、絶対に繁盛しているとは言い難く、商売する気があるのかすら疑わしかった。

「魔法道具、か?」

 ちょっと覗いて行ってみるか。

「いらっしゃい」

 出迎えてくれたのは、どう見てもやる気のない店員。

 店内は、物がの乱雑に積み上げられていて、何処に何があるのかさっぱりです。

 半ば宝探しな気分で見回っていると、気になった物がいくつかあった。


 マジックテント 1~2人用。

  設置、回収が自動的に出来る優れものだが、サイズの問題で見切り品行き。


 これは、買っておいた方が良いかな。

 念の為、は無駄遣いになる可能性の方が高いんだけどね。


 魔石

  属性魔力を大量に含んだ、宝石の様な結晶体。

  魔法道具の動力から、魔法発動体の増幅媒体まで、と汎用性に富む。


《『魔石』の合成方法が開放されました》

 なになに。各属性の素材と大量の魔力が必要、と。

 うん、今は無理ですね。

 両方とも足りていません。

 それでも来たかいはあったと思うので、良しとしておこう。

 食料品は買い込んだし、タオルとか櫛とかも予備を含めて複数手に入れたし。

 あと足りないのは、と。

「あの、ご主人様」

「ん?なに?」

「出来れば、その、ご主人様の装備を整えられた方がよろしいのではないでしょうか?」

 そうか。

 後回しにしてたら、すっかり忘れてた。

《さすがにそれは、いかがなものかと》

 自分に必要無いって意識すると、忘れやすくなっちゃうんですよ。

「どっか適当な武器屋でも見てみるか」

「それでしたら、私に案内させて頂けないでしょうか?」

「どっか、あてでもあるの?」

「以前、お世話になった武具屋がこの近くにあります。ただその、あまり流行っているとは言い難いので、ご主人様のお気に召す物があるかどうかは、分かりかねます」

 無ければ無いで構わないので、案内してもらう事にした。

 魔法道具屋から、更に入り組んだ路地を進むと、その店はあった。

 外観はお世辞にも綺麗とは言えず、ショーウィンドウも曇りがちで、中の様子もハッキリ分からない。

 本当に営業中か?この店。

 ためらう事なく中に入っていくトウカに続いて入る。

 店内は、それほど散らかったりだとか汚れたりだとかはしていない。

 外観をもっと綺麗にすれば良いのに。

 うん、店員が見あたらないね。

「いらっしゃ~い」

 姿は無いのに声はする。心霊現象か?

「どこ見てんのよ。ここだよ、ここ」

 声を頼りに視線を動かすと、商品の影に隠れて一人の少女がいた。

 140cm程の身長に、若干浅黒い肌と茶色い髪、体格からは想像も出来ない様な腕力で、見るからに重そうな全身鎧を運んでいた。

「ドワーフ?」

「そうだよ、人族のにーちゃん。見るのは初めて?」

 と、あんまりじろじろ見るのは、失礼だよな。

「はい、初めてです。すいません」

 良かった。原典系じゃなくて。

 彼女は荷物をカウンターの奥へ運ぶと、すぐに戻って来た。

「そっちの、亜人のねーちゃんは前にも見たことあるね。あれ?持ち主変わってる?」

「はい。捨て置かれた所を、今のご主人様に命を救って頂きました」

「あの馬鹿共よりは良さげな人だよね。で、今日はどうしたん?」

「ご主人様の装備を、と思いまして」

「ふ~ん」

 上から下まで舐めるように見られて、なんだか居心地が悪い。

「今、何使ってんの?」

「ショートソードとバックラーを」

「うっわ。何この粗悪品。どこの素人が打ったらこんなんになるのよ」

 請われるままに見せた所、粗悪品だったようです。

 この場合、誰に恨み言を言えば良いんだろうか。

 少なくとも、暗殺メイド、シレーネさんでは無いことは確かだろうけど。

「で、どうするん?」

「取り敢えずは、俺よりトウカの防具が先ですね。出来れば、軽くて動きやすくて、値段は抑え目で」

「結構無茶言うねぇ、にーちゃん」

「ご主人様?!」

 驚くトウカを尻目に、彼女用の防具を見繕っていく。

 まぁ、トウカ用に限った話じゃ無いけど、金属鎧は除外。

 まだ重いし、五月蝿いし、値段もかなりするし。

 鎖帷子も、そこそこ五月蝿いし、値段もね。

 となると、革系かな。

 薄い金属板を要所要所に貼り付けた、ブリガンダインとか言う合成鎧なら、軽さと動きやすさと防御力のバランスは良いみたいだ。

 値段も、金属系の鎧に比べればずっとお手頃だしね。

「その、奴隷の私が、この様な物を頂いてしまってよろしいのでしょうか?」

「えぇと、表現はあまり良くないかもだけど、装備ってのは弱い方から充実させていくものだと思ってる。俺はトウカより強いから、後で良いんだよ」

 全ての装備品には【サイズ自動補正】なるスキルが内包されているものの、体格に合わせた微調整も必要らしいので、その間武器を見ておく事にしよう。

 武器は、何か良いの無いかね?いつまでも、ボロい斧のままってのもな。

 ぐるりと店内を見回し、良さそうな槍を見つけた。


 鋼鉄の槍 AT+23 DF+6

  鋼鉄製の両手槍。一人前の槍使いなら、このぐらいは持っておきたい。


 トライデント AT+24 DF+5

  穂先が三ツ又になった槍。水棲系の魔物に特効有り。


 う~ん。トウカの武器スキルが統合出来るんなら、【両手槌】を覚えて貰って【斧槍の使い手】に出来るんだけどな。

《本人の承諾があれは、可能です》

 え、まじで?初めて聞いたんですけど?

《今初めて教えました。聞かれませんでしたので》

 それ、早く言って欲しかったです。

 有用そうなスキルを、覚えて貰えるかもしれない。

《オススメのスキルは、【格闘術】【物理耐性】【全属性耐性】です》

 確かに、耐性系は覚えておいて損は無いよね。

 覚えさせる過程を思うと、かなり気が滅入るけど。

 武器スキルを思うと、両手槌や斧槍系も候補に入れないと。


 ウッドハンマー AT+29 DEX-4

  硬い木材製の木槌。純粋な戦闘用ではないが、重量もあり破壊力は十分。


 ハルバード AT+27 DF+5

  斧、槌、槍の特性を兼ね備えた複合武器。それゆえ扱いづらくもある。


 値段との兼ね合いで、この辺りかな。

 もっと稼げるようになったら、順次買い換えていくって事で。

「ご、ご主人様。いかがでしょうか?」

「うん。良い感じ」

 ちょうどトウカの準備も済んだ事だし、この二つも購入して試しに行こうかな。

「まいどありぃ」

 その前に、一度ギルドに寄って、近場の討伐依頼を受けてから行けば、無駄も無くて良い感じ。

 トウカのギルドカードには、既にFランクの文字が記されていた。

 というのも、当時の主人に代わって初心者用依頼をこなしていた為、今回に限り免除、と言われたから。

 この手の特別扱いはあまり好きじゃ無いんだけどな。

「ご主人様、なにやらギルドが騒がしいようです。何か問題でも起きたのでしょうか?」

「問題ねぇ。思い付くのは一つしか無いけどね」

 ポーション関係のみです。

 少々騒がしいギルドに入り、依頼掲示板から、近場かつ期限の近い依頼を優先して選ぶ。

「トウカにも意見を聞きたいんだけど。この二つ、どっちが面倒?」

 一つは、南側の畑に出没する猪型の魔物討伐。

 もう一つは、東の森での蛇型魔物の討伐。素材が欲しいらしい。

「私なら、東の依頼を選びます。南側の猪なら、恐らくビッグボアの事でしょう。そちらは罠の使用が可能ですので、そこまで面倒とは言えないかと」

「そっか、んじゃあこっちの依頼を受けてくる」

 冒険者でごったがえす受付の、その隙間を縫って依頼を受注する。

 やはり、彼らのお目当てはポーションの様で、入手場所や方法、持ち込んだ人物を特定しようと躍起になっていた。

 だが、ギルドは一切情報を漏らしていないみたいだ。

 良かった。個人情報は守られている様です。

 未だに騒動の治まる気配の見えないギルドをあとにして、東の森へと向かう。

 のんびり歩いて三十分ぐらいで、目的地に到着です。

 ここから、依頼の蛇型魔物を見付けるのか。

 うん。普通の冒険者にとっては、かなり面倒な仕事と言える。

 だからその分、残されていたんだろうけど。

 けれど、俺には心強い姉さんがついてます。

《【サーチ】を実行します。該当する蛇型魔物を複数探知しました。【マップ】に表示します》

 姉さんのお蔭で、探し物系の依頼は楽勝ですよ。

《油断は禁物です》

 【マップ】を頼りに進んで行くと、確かにそいつはいた。

 太陽光を反射し、虹色に輝く鱗の、体長三メートル超の大蛇が。


 インビジスネーク Lv.11

  美しい虹色の鱗をした蛇型の魔物。

  危険を察知すると、周囲の景色に溶け込み、逃げる習性がある。


 ちょっとレベルが高いけど、大丈夫だよね?

 厄介な習性にさえ気を付けておけば。

 少しでも多くダメージが通るように、自分とトウカに付与魔法『STRアップ』をかける。

 そして、俺は【忍びの心得】を発動。トウカはそれを真似てか、息を殺して動く。

《トウカがスキル【警戒】を習得しました》

 そして、付与の効果が切れない内に、一斉に襲いかかった。

 トウカの斧が首?の辺りに食い込み、俺の小剣は頭部に根元まで埋まった。

 インビジスネークは一度、その長い体を大きく跳ねさせると、動かなくなった。

 素材と魔核を残して消えて行く。


 スネークの魔核

  蛇型魔物の心臓部。

  合成、錬金用素材。


 インビジスネークの鱗

  虹色に光る綺麗な鱗。装飾用の素材として高額で取り引きされる。

  合成、錬金用素材。


 インビジスネークの麻痺牙

  麻痺性の液体を注入する為の牙。

  合成、錬金用素材。


 インビジスネークの肉

  そのまんま、インビジスネークの肉。とても美味。

  加工用素材。


 依頼で必要なのは、鱗が五十枚程。なので、その他の素材は総取りですよ。

 肝心の鱗も、体が大きいからなのか大量にゲットです。

 依頼者に渡しても、結構な量が残ります。

 何かに使えるかな?

 一方で、トウカはまるで信じられないものでも見たかの様子で、その場にへたり込んでいた。

「トウカ?大丈夫?」

「は、はい。大丈夫、です」

 レベルが高い魔物を相手にしたからか、二人ともレベルアップですよ。

 ただし、問題も発生ですけどね。

 トウカ使用の斧が、壊れてしまいました。

 魔物の体がそれだけ硬かったんだろうか。

 タイミングが良いと言うか何というか。

「申し訳ありません。壊してしまいました」

「あぁ、平気平気。ただ、しばらくは予備の武器を使って貰うけど、良いよね?」

 【道具箱】からウッドハンマーを手渡すと、微妙な表情をされました。

「あの、奴隷の立場も弁えず、ご主人様に意見する事をお許し下さい。私に【両手槌】のスキルはありませんが、よろしいのでしょうか?」

「大丈夫。ちゃんと考えあっての事だから」

 ちょうど良いし、休憩も兼ねて俺のスキルについて、少し話しておくか。


「なるほど。ご主人様は本当に、色々なスキルをお持ちなのですね」

 意を決して話したら、なんだか納得されました。

 もうちょっとこう、驚くとか感激するとか、そういう反応があっても良かったとは思いませんか?

 さすがに魔王とかは言い出せませんがね。

「その中の【習得】っていうスキルで、トウカのスキルを少し弄りたいんだけど、どうかな?」

「ご主人様は本当にお優しいです。ですが、私みたいな奴隷に、その様なお気遣いは無用です。ご主人様のなさりたい様になさって下さい」

 これは、許可を得たって事で良いのかな?

「じゃあまずは、耐性系のスキルから始めようか」

「よろしくお願いいたします」

 傷をつける場所は、手のひら、で良いかな。心苦しいけどね。

 物凄く軽く、小剣を突き立てて【刺突耐性】を。

 うっすらと切りつけて【斬撃耐性】を習得させました。

 もちろん、一回毎に回復も忘れずに。

《トウカの【斬撃耐性】【打撃耐性】【刺突耐性】を統合。【物理耐性】になりました》

 そのオマケという訳でも無いだろうけど、アーツ『手加減』が開放されました。

 うん、もうちょっと早く開放して欲しかったです。

 いや。舌の根も乾かない内にだけど、前言撤回します。

 このタイミングで開放されて良かった。

 まさか、魔法にも『手加減』が適応されるとは。

 そのお蔭で【全属性耐性】を習得させるのに、相当のダメージを抑えられました。

 もちろん、毎度の回復を怠った訳では無いけれど、無抵抗の女性に攻撃魔法を撃ち込む心苦しさは、幾分か軽減された様な気がします。

《トウカが【全属性耐性】を習得した事により、種族スキル【氷属性増加】が消滅しました》

「もう、よろしいのでしょうか?」

「あぁ、耐性系はこれで終わり。本当にごめんね」

 彼女の顔色は、かなり悪い。

 そりゃそうだ。

 いくら傷は治るとはいっても、受けた傷の記憶まで消える訳じゃない。

 街に戻る前に、キチンと休ませないと。

 トウカには悪いけど、まだ習得して貰いたいスキルが残っているしね。

「あの、ご主人様。ワガママを言うようで申し訳無いのですが、その、手、を繋いでいて頂けないでしょうか?」

「大丈夫?無理させて、ごめんな」

 彼女の手を握ると、弱々しく握り返された。

 うん、改めて彼女の手を見ると、かなり細く感じる。

 女性の手を、こうしてまじまじと見たこともないけど、普通なんだろうか。

 それとも、種族的な特徴?

 種族的特徴で言えば、鱗とか尻尾も気になる。

 見たいって言ったら、たぶん見せてくれるんだろうけど、そこに性的な意味合いが含まれてたらどうしよう。

 後で聞いてみようかな。

 にしても、魔法スキルは一つも覚えられなかったな。

《彼女に限らず、獣人種族の魔法適性は、一部の種族を除いて壊滅的です》

 なるほど。トウカはその一部には含まれない、と。

 市場を回っている時に買っておいたサンドイッチ?みたいなもので、軽めの食事を済ませると、トウカの顔色もだいぶ改善された様だ。

「ご主人様のお手を煩わせてしまい、まことに申し訳ありませんでした」

「気にしてないよ」

 帰り道で軽い組み手を行うと、無事に【拳術】【体術】【蹴術】を習得。

 【格闘術】へと統合させる事が出来た。

 後は【両手槌】だけなんだけど。

 魔物がいれば、良かったんだけどな。

 仕方がないので、俺をウッドハンマーで攻撃させてスキルを覚えて貰った。

 当然、防御はしましたが。

 スキル習得の為、と本人達は割り切っていても、他人に見られたら誤解しか生まない光景なので、周囲の警戒はこれ以上ないってくらいに、厳重にしておきましたよ。

 そのお蔭で、無事にトウカに【斧槍の使い手】を覚えさせる事が出来ました。

 あと、ついでと言ってはなんだけど、俺も新しい魔法を覚えました。

 水魔法『ウォッシュ』と風魔法『ドライ』。

 一般的には生活魔法扱いのこの二つと『ウォータ』を【合成】して、『クリーン』という対象を隅々まで洗浄する、全く新しい魔法を作り上げてしまいました。

 姉さんに唆されたんです。

《人聞きの悪いことを。必要性を感じたからです》

 確かに助かりますが。

 水拭きには限界があります。

 ギルドへ報告に戻ってみれば、まだポーション関係で揉めてました。

 今は入手先云々ではなく、主に購入数で。

 とある、資金力に余裕のあるPTパーティが、買い占めたらしい。

 今後は、購入数を制限してもらう様に、頼んでおこうかな。

 毎回こんなんじゃ、報告もままならない。

「お疲れ様です。依頼の品は、確かに受け取りました」

 赤毛の職員さんがいてくれて助かった。

「そうだ。『アレ』はどう渡したら良いんでしょうかね?」

「さすがにここでは目立ちますので、裏からお願いします」

 インビジスネークの報酬を受け取ると、こっそり裏へ回る。

 スキルのレベル上げに、ちょこちょこ作ってたんですよ。

「今回は二十五本です。それと、一つお願いが」

「なによ、無茶な事じゃ無いでしょうね?わたしの権限、大したこと無いのよ?」

 何で、少し涙目なんですか。

「購入制限をかけて貰いたいだけですって。1PTにつき、五本くらいで」

「え、何でよ?」

「今日みたいに騒がしいと、依頼受けるのも一苦労だからです」

 すると赤毛さんは何故か、怪訝な表情を浮かべていた。

「もっとこう、無理難題言っても許されると思うわよ?」

「甘え過ぎると後が怖いので」

 きっちり二十五本、間違いなく渡して、ギルドを後にした。

 少し早いかもだけど、宿を確保しておこう。

 次からは、何日か分纏めて支払っておかないと。

 今は日帰りの仕事が中心だから、毎回だと面倒臭くてしょうがない。

 どうか部屋が空いてますように。

「いらっしゃいませ、と、お帰りなさい。お部屋は今朝と同じ所が空いてますよ」

 かなり久しぶりに、お帰りなさいって言われた気がする。

 良いもんだね。

 十日分の先払いも受け付けて貰えたので、大助かりです。

 部屋での食事も早々に済ませ、それぞれに『クリーン』をかけてしまうと、あとは寝るだけ。

 う~ん、ちょっと暇です。

 トウカは、手渡したハルバードの手入れを始めている。

 その後ろ姿から、嬉しそうに尻尾が揺れていた。

 いやいや、犬じゃないんだから。

 何の気なしにそこに触れると、彼女は身をすくませ、ハルバードが床に倒れた。

「あ、あ、あの、その、ご、ご主人様?」

「ごめん、もしかして触ったら駄目な場所だった?」

 真っ赤なトウカの顔を見る限り、もしかしなくても駄目な箇所のようだ。

「い、いえ。その、私達爬鱗族の尻尾は、信頼の証としてしか触れさせてはいけない、と躾られまして。例えばその、家族とか」

 どうやら、まだそこまでの信頼関係は築けていないらしい。

 出会って数日だしね。仕方ない。

 色々言ってくれるのも、奴隷だから。

「その、ご主人様がご存知では無いのは分かっているのですが、番ではない男女の場合、それは、き、き、求愛、の合図、なのです」

「うん、本当にごめん。知らなかった、では済まされないよね」

 出来る事なら、何でもする覚悟です。

 まずは五体投地で謝罪を。

「い、いえ、えっと、ご主人様がお望みなら、私は一向に構いません。ただその、ご主人様の御子を授かれるかどうか」

 うん。責任は取るけども、そっちの取り方じゃないよ。まだね?

 その後も、ご主人様のお情けを、と食い下がるトウカをどうにか宥め、ベッドに潜り込んだ。

《良く理性がもったと褒めるべきでしょうか?それとも、このヘタレと叱るべきでしょうか?》


 名前 シオン・クレナイ     性別 男

 種族 人族           状態 魔力疲労

 Lv.7            称号 異種族に求愛した者

 HP  409/600 MP  8/420 ST  43%

 STR  54  VIT  53  INT  65

 MND  68  AGL  54  DEX  57

 所有スキル

 【武芸の心得Lv.7】【魔導の心得Lv.3】【盾魔法Lv.6】【付与魔法Lv.7】【物理耐性Lv.4】【全属性耐性Lv.1】【毒耐性Lv.2】【魔梟の瞳Lv.7】【忍びの心得Lv.5】【MP自然回復Lv.5】【錬金Lv.8】【合成Lv.4】【加工Lv.5】【習得】【分析】【道具箱】


 名前 トウカ          性別 女

 種族 爬鱗族          状態 興奮

 Lv.6            称号 異種族に求愛された者

 HP  192/192  MP  59/119  ST  39%

 STR  24  VIT  25  INT  17

 MND  17  AGL  23  DEX  23

 所有スキル

 【斧槍の心得Lv.1】【格闘術Lv.1】【物理耐性Lv.1】【全属性耐性Lv.1】【警戒Lv.1】【料理Lv.9】


 異種族に求愛した者、異種族に求愛された者

  両者の絆が一定以上である場合、戦闘時に限り、ATとDFが微上昇する。


 称号を見る限り、意外とトウカに信頼されているらしい?

 でも、誤解とか言っても取り消せないんだろうなぁ。

 彼女が嫌な訳では無いんだけどさ。


この、やらかしが、後に響かないと良いんだけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ