異世界生活六日目にして、よ(略)。午後編。
異世界生活六日目が続きます。
ポーション作りも一段落したところで、彼女が目を覚ました。
「···ん」
しばらくぼんやりしていたものの、だんだん頭がはっきりしてきたようだった。
即座にこちらに向き直ると、それはそれは綺麗な所作で正座をし、三つ指をついて頭を下げた。
「この度は、亜人奴隷である私の命をお救い下さり、誠にありがとうございます。今この時をもって、私の身も心も全て、ご主人様のものです。いかようにもお使い下さい」
いやいや、いくらなんでも展開が速すぎる。
「朧気ながら、ご主人様と彼らの会話は聞こえていました」
「あぁ、聞こえてたんだ。でも、だからって強制じゃなくてね?」
「この国において、私の様な亜人奴隷には居場所など有って無い様なものです。もし、お優しいご主人様が解放をお考えなのであれば、私は三日ともたずに野垂れ死ぬ事になるでしょう」
《彼女の言葉は事実でしょう。運良く生き延びたとしても、死ぬより辛いのでは、と推測します》
「えぇとですね、俺も一応冒険者を始めたところで、けして裕福とは言い難くてね?」
こんな貧乏アピールなんか、したく無いんだけど。
悲しくなるだけですし。
「···私の一族には、こういった言葉が伝えられています。『富める者に施しを受けたなら、感謝の言葉を。貧しき者に援助を受けたなら、己が身をもって心を返せ』というものです」
あぁ、うん。なんとなく分かる。
いわゆるセレブのチャリティーって、義務感というか感謝されたい、とか感じるんだよね。
あくまで個人的な意見ですが。
「ご主人様自身がその様な状況にも関わらず、私なぞに手を差し伸べて下さったこと、私の身と心をもって誠心誠意ご奉仕させて頂きたく思います。···ひ、人族の方の目には、凹凸の乏しいこの体は魅力的に映らないとは思いますが、性奴隷としての知識はキチンと教育されております。是非御用命下さい」
《本人の意思を尊重するべきでしょう。ここで拒否る様な、チキンな弟に教育した覚えはありませんよ?》
ぐふっ。
本人の意思なら仕方ない、よね?性奴隷云々は別にして。
こうして、扶養家族が増えました。
「じゃあ、これからよろしく。俺は、シオン・クレナイ。君の名前は?」
「ありません。奴隷になった時点で、私の名前は無くなりました」
「じゃあ今まで何て呼ばれてたの?」
「鱗、蛇、蜥蜴、おい、そこの、等です。お好きな様に呼んで下さい」
うん。鱗はともかく、蛇て。彼女が蛇なら、完全に蛇足だろう。
彼女のステータスを確認すると、種族は爬鱗族とある。
《爬鱗族は、ここよりずっと南方、湿地帯に多く住む種族です。槍等の長柄武器の扱いに長け、水属性に強く氷属性に弱い傾向にあります》
う~ん、名前が無いんじゃ色々と大変だよな。
どんな名前が良いかな?
「トウカ、って名前はどうかな?」
目を閉じ、噛みしめるかのように彼女は自分の名前を呟いた。
「トウカ。それが、ご主人様が私に下さった、新しい名前。とても気に入りました」
今まで空欄だった彼女の名前が、トウカ、と記載された瞬間、体がトウカに向かって引っ張られたように感じた。
けれど、俺のHPやMPに何の変化も起きていない。
姉さん?何か分かりますか?
《いいえ。こちらでは何も。···いえ、トウカのステータスに変化があったようです》
名前 トウカ 性別 女
種族 爬鱗族 状態 空腹
Lv 4 称号 魔王(仮)の配下
HP 132/132 MP 59/59 ST 51%
STR 16 VIT 17 INT 14
MND 14 AGL 15 DEX 15
所有スキル
【両手槍Lv.3】【両手斧Lv.1】【打撃耐性Lv.7】【水属性耐性Lv.5】【料理Lv.9】【氷属性増加】
空腹かぁ。俺もそろそろ何か食べたいなぁ。
《現実逃避をしている場合ではありません》
はい、姉さん。魔王(仮)の配下、ですよね。
魔王(仮)の配下
魔王候補と、ある一定レベル以上の絆で結ばれた者に贈られる称号。
この称号を持つ以上、魔王候補から離れる事は無いと言って良い。
レベルアップ時、全ステータスに上昇補正。
この称号は、地雷でしょうか?
効果が有効過ぎる分、デメリットもかなりのもの。
他人の自由意思をねじ曲げてる気がします。
こうなった以上は責任持つけど、二度とこんな事にならないよう、動く時は細心の注意を払おう。
「とりあえず、戻るとするか。食事もそうだけど、トウカの格好をどうにかしないと」
今、彼女が着ているのはボロボロの貫頭衣で、ちょっと動くだけで色々見えてしまいそうになるので、目のやり場に困って落ち着かない。
しかも、こっちの視線に気付くと恥ずかしそうにしながらも、見せようとしてくれるので余計に。
うん、仕方ない。訓練着を改造するか。
【加工】を使えば、どうにかなるだろ。
姉さんのサポートもあって『訓練着』は、トウカ専用へと改造された。
一番大きな改造点は、やはり尻尾穴だろう。
服飾系の知識もろくに無いのにしっかり改造出来るあたり、スキルの力って偉大だと改めて実感した。
でも、そんなスキルでもどうにもならない問題もある。
それはトウカに嵌められた『隷属の首輪』の事だ。
本来は、所有者に反抗的な奴隷に付けられる物だが、見てて痛々しいし、彼女の場合その必要性を感じない。
《解除するには、奴隷商人が所有する専用の魔道具を使用するか、神聖魔法『ディスペル』を使用しなくてはなりません》
残念ながら、俺の魔法レベルはまだそこまで鍛えられてない。
「すいません、トウカさん。俺のお古を改造したやつで悪いんだけど、ひとまずこれに着替えてくれる?」
「分かりました」
目の前で堂々と着替え始めたので、慌てて後ろを向く。
「ご覧にならないのですか?」
「いいから早く着替えて下さい」
羞恥心ってもんがないんですか、と突っ込みたい。
衣擦れの音がなんだか妙に響く。
着替え終わった彼女の姿を確認して、この森を出発する事にした。
トウカが戦わされていた犬の魔物の素材は、あの二人に残らず回収されていたが、彼女が使っていた両手斧は放置されていたので、忘れずに回収しておく。
ボロの薪割り斧 AT+8
元々、薪を割る為に使用していた物。
ろくな手入れもされていないので、ほぼ鈍器と言っても過言ではない。
帰り道では、薬草を採取したり、トウカが奴隷になってしまった経緯を教えて貰ったり。
幼い頃に亜人狩りに襲われ、一族が散り散りになってしまった隙に、奴隷商人に捕まってしまい、今に至るんだそうだ。
亜人狩りとは、この世界は人族のものであるという妄想に取り憑かれ、亜人排斥思想に染まった人族の集団のことを言うらしい。
街中でも時折、奴隷を殺してしまう事もあるそうだ。
他にも、トウカ達爬鱗族は人族の言語とは違う言語を使用していたそうだが、奴隷商人の元にいた頃に自然と覚えたそうだ。
等々、色々と有意義な話を聞かせて貰いました。
《お姉ちゃんの存在を忘れないでぇ》
忘れてませんよ。だから、泣かないで。
戻って来ました、元の街。
入る時に番兵に何か言われるかも、とか用心してたけど特に何事も無く。
周囲の視線が痛い、とかも無かった。
さてと、早速あの古着屋にお世話にならないと。
お金、足りる、よね?
今朝立ち寄ったばかりの店に、その日の内に入るのって、なんだか恥ずかしい。
「いらっしゃい、って朝のあんちゃんじゃねぇか。どうした、よ」
厳つい顔のおっちゃんの視線が、俺からトウカに移るに従って、尻すぼみになっていった。
「すみません。彼女の服について、幾つか相談したいのですが」
返事が無い。
「あんちゃん、奴隷を買ったのか?」
「えぇまぁ、なりゆきで」
すると、おっちゃんは一つ大きく息を吐き出した。
「まぁ良い。それについて、とやかく言える立場でも無いしな。で?そいつの着るもんだっけか?今、着てるもんじゃなくて、か?」
「はい。出来れば、女性の方が良いのですが」
「なるほどな、そっち用か。分かった。今呼んで来てやっからよ」
どっち用だよ?
店の奥へと引っ込んでしまった。
いやいや、店番しなくていいんですか。
おっちゃんが連れて戻ったのは、小柄で清楚な女性だった。
厳つい外見と相まって、犯罪臭がプンプンします。
「あー、勘違いされる前に言っとくが、こう見えてとっくに成人済みの妻だからな?」
「一体どんな弱み握ったんです?」
「いやいや、んな事してないぞ?」
すると突然、奥さんがおっちゃんの脇腹を殴りつけた。
苦悶の表情を浮かべ、床へ倒れこむおっちゃん。
おおぅ、ボディ一発ですか。
「変な事言ってると、殴るわよ」
「な、殴ってから言うな」
「で?どんなのがお好み?」
おっちゃん意外と元気そうなので、スルー。
「シンプルで丈夫なのが良いんですが。あと出来れば、値段抑えて頂けると」
「···まだ若いのに、変な趣味なのね」
「え?」
「え?だって、夜用でしょう?」
おいこら、おっちゃん。
やっぱり勘違いしてやがりましたよ。
「何か、行き違いがあるみたいですね。俺が欲しいのは、彼女の普段使い用の下着と服なんですが」
「あら、ごめんなさいね?主人が、女奴隷用の着るものって言うから、てっきりそっち用の色気たっぷりなのを考えちゃってたのよ」
女性用の服に関しては全くの門外漢なので、トウカは奥さんに任せるとして、懐具合が心配です。
ようやく復活したおっちゃんが、ヨロヨロと立ち上がる。
「あんちゃんよ。正直な話、今手持ちはいくらある?」
「う~ん、大鉄貨が数枚ってとこですね」
トウカの服一式次第では、残りの資金が一気に飛びます。
必要経費だから、ここはケチる気はないけれど。
「なんか、売れそうなもんとか、持ってねぇの?」
「売れるかどうか、分からないんですけど」
普段着。手に入れた時点で既に古着なので無理そう。
制服。別にもう未練は無いけど、売れたら売れたでそれも問題。
小剣と小盾。この二つは最終手段かな。最悪、魔法があるからね。
あとは、ポーションが少々。
一応見せて見たが、一切反応が無かった。
「やっぱり無理ですよね」
「···いやいやいやいや、なんてぇもん見せてくれるんだよ!?」
「何がですか?」
「何がって、あんちゃん。こいつの価値分かってねぇのか?」
おっちゃんはポーションの瓶を指差し、声を震わせている。
もしかして、出したら駄目なやつだった?
「その様子じゃあ、何にも知らねぇみてぇだな」
恐る恐るといった様子で、ポーションに手を伸ばす。
「こいつは今、一本で銀貨五枚の価値があるんだぞ」
「何でそんな高価なんですか?」
薬草と水を【錬金】すれば作れるのに。
「何でってそりゃあ、もう作れる奴がいないからだよ」
「え?作れないんですか?」
姉さん、錬金スキル持ちを調べて下さい。
《了解しました。【サーチ】を実行します。終了しました。少なくとも、この国にスキル【錬金】を所有する存在は、貴方だけです》
検索範囲、広いな。
けど、そこまで調べて見つからないなら、もういない、と仮定しても良いだろう。
「結構昔の話だけどな。錬金スキルで文字通り、金を作ろうとした馬鹿な貴族がいたらしくてな、錬金ギルドをまるごと買い取ったらしいぞ?んで結局、金は作れずじまい。激怒したその貴族が錬金ギルドの人員を一人残らず処刑しちまったって話さ」
「まぁ、よくある話ですよね」
欲にかられた権力者ってのは質が悪い。
「ま、その馬鹿貴族も一族揃って処刑台行きだったらしいけどな」
う~ん。
こんな話聞いたあとじゃあ、ポーション作って荒稼ぎ、はちょっとまずいかな。
でも他に金策する方法無いしなぁ。
身バレしなきゃ大丈夫、かな?
ギルドに相談してみるか。
そんな話をしている内に、トウカの服一式は決まった様だった。
「ご主人様、如何でしょうか?」
黒を基調とした上下一体になっているツナギのような服を二着と、白の下着上下セットを二着を堂々と見せつけてくれた。それと、追加でちゃんとした靴も。
うん、下着は別に見せなくても良いんですよ?
「ごめんねぇ。安くて丈夫で派手じゃないのだと、このくらいしか無くて」
「いえ、お願いしているのはこちらですから」
「じゃあ、ホントなら全部で大鉄貨二枚半ってところだけど、オマケして二枚にしてあげる」
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。その分、主人の小遣いから引いとくから」
おっちゃん涙目です。
トウカには、ちゃんと改造したものを店内で着替えさせて貰い、大鉄貨二枚を支払って古着屋を後にした。
昼時は過ぎてしまったものの、どっかで食事でも、と考えていたけどそれは叶わなかった。
いくつか回ってはみたが、どの店も『亜人お断り』の看板を掲げてやがった。
「あの、私のことはお気になさらず、食事を取って下さい」
「うん、それは無理。俺は、特別な事情が無い限り、食事は家族と一緒にって決めてるから。俺なんかと家族扱いで申し訳ないけど」
「いえ、そんな。私こそ、ご主人様に家族と呼んでいただくなんて恐れ多いです」
こんな感じで恐縮されてしまうのは、どうにかならないかな。
慣れるまで、待つしかないか。
結局、店舗には一緒には入れないので、いくつかある屋台で葱っぽい何かの入ったパンと肉の串焼きを購入し、サクッと済ませた。
肉串を食べてる時、トウカがちょっぴり涙ぐんでいたのにはびっくりでした。
よっぽどろくなものを食べさせて貰えなかったんだろうか。
それか、無類の肉好きか。
後者であるといいな。
さてと、ギルドに戻って来たのは良いんだけど、報告だけで済むかな。
「お帰りなさい、シオンさん。仕事はいかがでしたか?」
「薬草は採取出来ましたが、魔物の討伐はどう報告すれば良いんでしょうか?」
口頭で、倒しました、で通用するとも思えないし。
「それでしたら、ギルドカードを提出して下さい。討伐された魔物の情報が記録されている筈ですから」
「へぇ、そんな機能があるんですね」
「これも一応、魔道具の一種ですからね。だから、登録に費用がかかるんですよ」
カウンターの裏で、何かが数えられているようだ。
「はい、薬草の状態も、魔物の討伐数も問題ありません。おめでとうございます。これで正式にFランクとなります。これからも、頑張って下さいね?」
戻って来たカードには、Fの文字が表記されていた。
正しく評価されるのって、嬉しいね。
「っと、そうだ。ちょっと相談したい事があるんですが」
「はい、何でしょう?」
「こういう物を手に入れたんですが、どこで買い取って貰えるのか、ご存知ですか?」
こっそりポーションを見せてみました。
すると、最初は怪訝そうな目で見ていた赤毛の職員さんだったが、途中から酷く慌てた様子で何処かへ走って行ってしまった。
足音からすると、上に行ったようだけど。
やっぱ不味かったかな。
「お、お待たせしました。二階の応接室へ案内しますね」
案内って言う割に胸ぐら掴まれてるんで、ほぼほぼ連行だと思います。
逆らえない気迫に、ドナドナリターンです。
「ギルマス、問題の冒険者を連れてきました」
先に応接室にいたのは、品の良さそうな老婦人。
ギルマスって呼ばれてたけど、ギルドマスターの事だよね。
「はじめまして。わたくしが、冒険者ギルドのギルドマスターを務めさせていただいています、マノーレと申します。貴方のお名前を伺っても?」
「あ、はい。シオンと言います」
「ではシオンさん。これから、わたくしの質問に嘘偽りなく答えて下さいね?」
こういう念押しされると、途端に逆らいたくなってしまう。
だが今回の場合、シャレにならない気がするので、自重。
「ではまず、貴方はそれを、どこで手に入れましたか?」
「西の森です」
《警告します!スキル【真偽判定】の効果を受けています。抵抗しますか?》
言葉通りの意味なら、嘘を見抜くスキル、ですかね。
うん、止めておこうか。
自分は怪しいですって言ってるようなもんだしね。
《···了解しました。スキル【真偽判定】を習得します。スキル【分析】に吸収統合されました》
「違法な手段で手に入れましたか?」
「いいえ」
スキルで作るのは、違法じゃ無いよね。
「貴方以外が、これを手に入れるのは可能ですか?」
「条件付きで可能、だと思います」
「その条件って何?」
「その前に、この件について情報は秘匿する事を約束して下さい」
ギルドマスターの鋭い視線が痛い。
当たり前だよな。一介の冒険者、しかも駆け出しがなに生意気言ってんだって話。
「えぇ、良いでしょう。今回の話を知っているのは、この場の四人だけとしましょう」
マヂデスカ。
と、動揺してる場合じゃない。
「一つ、入手方法について詮索しない事。
二つ、誰が持ち込んだか、明らかにしない事。
三つ、いつ、どれだけ持ち込むかは、こちらの自由。
これさえ守って頂ければ、適正価格でお譲りします。いかがですか?」
正直、かなり有利な条件しか言ってないと思う。
これで向こうがどう出るか。
「良いでしょう。その条件で、飲ませて頂きます」
「···え、マジで?」
「確かにこちらには不利な取引かも知れません。ですが、その不利を補って余りある程の利益がある、と考えています」
うわぁ、乗ってこられちった。
てっきり、面倒な交渉が始まるのかと思って、思いっきり吹っ掛けたつもりだったのに。
《良い方向にあてが外れたのは、別に良い事なのでは?》
その分、厄介事もたっぷり、でね。
「それでは、貴方の考える適正価格、というものを聞かせて頂きましょう?」
「確か、一本の売値が銀貨五枚、でしたっけ。すると、だいたい銀貨二枚くらいで引き取って貰えれば良いほうかな」
「···枚数を間違えていませんか?」
「う~ん、高過ぎましたか?」
「いいえ、逆です。安過ぎると思います」
ほらね?
物の価値が分かってないとこういう事になります。
《自虐的なのもほどほどに》
「商人に売り込むには伝がありませんし、下手な所に持ち込むよりかは信頼出来るギルドに預けたほうが、よっぽど安全だと思ったので」
取って付けたような言い訳だけど、半分以上は事実。
【真偽判定】に引っかかりませんように。
「それに、これを一番必要としてるのは、街の人よりも冒険者の皆さんでしょ?」
取って付けたような、パート2。
「あ、あと、うちのトウカの冒険者登録をお願いする予定なので、その為の賄賂、的な何かでもあります」
獣人族が冒険者登録を許されているか、分からないし。
「いけません、ご主人様。私なんぞの為にその様な大金を消費するなど」
「トウカが俺の奴隷って事は、どんな風に扱おうと自由、だよね?」
「···はい」
「トウカを冒険者登録するのは、俺にとって利益になる事、だよ」
赤毛の職員さんによって一階から運ばれた例の装置により、トウカの冒険者登録は無事に終了しました。
一悶着あるかと思ったんだけどね。
ギルドマスターさん曰く。
「亜人を登録しようとしたのは、わたくしが知る限り貴方が最初です」
一般的には、彼らは労働力だもんね。
俺の考えが変わってるって事で、二人とも納得したようだった。
そして、ポーション十一本を渡して大銀貨二枚を受け取った。
よし。これで当面の生活費が工面出来た。
色々買い揃えないとね。
特に、日用品の類は急ぎで。
「え~と、シオンさん?今日の宿は、もうお決まりですか?」
「いいえ?これから探そうかと」
応接室から出て行こうとしたタイミングで、赤毛の職員さんに呼び止められた。
「でしたら、オススメしたい宿があるんですが、いかがですか?」
いかがも何も、あてすら無い状況では断る理由も特に無いし。
大人しく、そのオススメに従う事にした。
教えて貰った通りに路地を進むと、一件の宿に辿り着いた。
職員さんの話によるとそこは、元冒険者の夫婦が引退後に始めた宿屋で、値段の割に料理も良く、冒険者業に理解のある、良い所なのだとか。
しかも、亜人奴隷にもある程度の理解を示していて、条件付きで部屋に上げても良いらしい。
うん。て事は、他だと部屋にも入れさせて貰えないって事もあんの?
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
応対してくれたのは、十歳ぐらいの赤毛の少女だった。
どっかで見た事あるような?
「二人、です」
少女はトウカの姿を確認すると、ちょっとだけ申し訳なさそうに切り出した。
「えっと、あんまり部屋から出ない方が良い、と思いますがそれでも良いですか?その、亜人さんを好きじゃないお客様もいらっしゃいますので」
「構いません。いくらですか?」
その程度なら、何の問題も無い。
「お一人様、鉄貨八枚なので、大鉄貨一枚と鉄貨六枚ですね」
良かった。大きく崩さなくて済んだ。
ポーション分が無くても、足りていたけどね。
「あと、夕食は本当なら一階で出すんだけど、部屋でも平気です。その場合は、用意も片付けもお客さんにやって貰うんだけど、どうしますか?」
「じゃあ、部屋で」
食事はみんなで一緒に、だからね。
あと、ここでもそうだけど、こっちの世界は基本的に、濡らした布で体を拭くだけらしい。
湯船に浸かったりするのは、極一部の貴族だけのようだ。
城にいた頃は、冷遇されてたからそんな違和感は無かったけど、無いと分かると何故か入りたくなる。
ま、無理なんですけどね。
思いの外ちゃんとしていた食事を済ませ、後は寝るだけ。
なんだけど、大きな問題が一つ。
「あ、あの、ご主人様。ご奉仕の準備を致します」
うん。ですよねー。
俺も男だから?そういう事に興味が無いとは言わないけれど。
「トウカ。今後、俺が許可を出すまで夜の奉仕を禁じます」
このくらいの命令口調じゃないと、トウカが困った表情するんですよ。
何故か、彼女は残念そうだったけど。
うん、ヘタレと笑わば笑え。
こういうのは好みじゃない。
《お姉ちゃんは、貴方がヘタレでも平気ですよ?》
いっそ、笑って下さい。
笑ってくれた方が、気が楽です。
そして、恐縮しっぱなしのトウカをベッドに押し込み、俺も横になった。
もちろん、別のベッドにですよ?
こうして、長かった1日が終わりました。
また、明日からも頑張らないと。
名前 シオン・クレナイ 性別 男
種族 人族 状態 魔力疲労
Lv 4 称号 異邦人
HP 340/380 MP 10/300 ST 54%
STR 42 VIT 41 INT 53
MND 56 AGL 42 DEX 45
所有スキル
【武芸の心得Lv.6】【魔導の心得Lv.1】【盾魔法Lv.4】【付与魔法Lv.4】【物理耐性Lv.3】【全属性耐性Lv.1】【毒耐性Lv.2】【魔梟の瞳Lv.6】【忍びの心得Lv.4】【MP自然回復Lv.5】【錬金Lv.5】【合成Lv.1】【加工Lv.5】【習得】【分析】【道具箱】
またまた予定外に長引いてしまいました。