異世界生活六日目にして、ようやく冒険が始まる様です。
訓練五日目。
今日、この城を追い出されるので、数え方を変えようかな。
異世界生活、だと六日目か。
昨夜はなかなか寝付けなかった割に、すっきりと目が覚めた。
こういう日は、大抵良くない事が起きるんだよなぁ。
《気を引き締めてまいりましょう》
その通りですね。姉さん。
「おはようございます。今日も珍しく、早いお目覚めですね。天気が変わるかも知れません。洗濯物が溜まっているので、雨に降られると困るのですが?」
うん、それは俺の責任じゃありませんよね。
今朝はいつも通り、パンとスープ、果物。それと茹で卵がついてました。
異世界の卵なので心配になって、一応【分析】してみたところ、ごく普通の鶏の卵でした。
異世界あるある、の謎生物の卵とかでなくてよかった。
今までも食材には使ってきたけど、やっぱ卵となると途端に不安になる。
「さて、貴方とは今日でお別れになる訳ですが」
小さな小さな革袋を手渡された。
促されるままに中身を確認すると、銀貨が五枚転がり出てきた。
あぁ、王家からの手切れ金ですか。
「これが俺の全財産なんですね」
一番最初の冒険者登録で詰まない事を祈ろう。
「他にもありますよ?」
小剣と小盾を渡された。訓練で使った物とはちょっと違うような?
どこに隠し持っていたんだろう。
「これは?」
「騎士団が新入団員に支給する物、の予備の予備です。放っておけば、どうせ払い下げ品として街の武器屋に二束三文で並ぶんです。それが少しくらい早まっても構わないでしょう?」
ちょっと悪い顔してますよ?
キチンと許可を取っていれば良いんですが。
ショートソード
AT+5 DEX+1
本来、新入団員に支給されるはずだったが、手違いで倉庫の隅で眠っていた。
バックラー
DF+3 DEX+1
本来、新入団員に支給されるはずだったが、手違いで倉庫の隅で眠っていた。
「まぁ、それは半分冗談ですが」
半分は本当なんですね。
「あとでリリエイル様も見送りに来られるそうです。よっぽど暇なんですね」
「いやいや、そこは時間を作ってくれたんだと思いますよ?」
じっと、見つめてくる暗殺メイドさん。
「城外退去は、本日中であればいつでも構わないとのことです。···貴方とは四日、いえ五日の付き合いでしたが、いざいなくなると思うとほんの少し寂しく感じますね」
「うん、初日とのギャップが激しいです」
「う、結構意地悪なんですね」
名残惜しいけど、いつまでもここには居られない。
忘れ物は無いよな?寝る時にしか着なかった普段着に、繕ってくれた訓練着、さっき貰った銀貨五枚、武器と盾。制服は今着てるし。
「もう、発たれるんですか?」
「はい。お世話になりました」
本当に、色々とね。
城門を出るまで、一応暗殺メイドさんの監視下なので、それまでは一緒にいてくれるらしい。
何だか涙が出そう。
「ま、間に合った。わたしに何の挨拶も無しに出て行こうとしないでよ」
リリエイルさんが息を切らして駆け寄ってきたのは、城の外。城門の手前に着いてからだった。
「わたし、見送りに行くって伝えたはずよね?どうして先に行っちゃうのよ?」
「伝えはしましたが、見送らせるつもりはありませんでした」
「ちょっ、ひどっ」
「いつまでも姿を見せないリリエイル様が悪いかと」
「わたしは貴女と違って、身支度に時間がかかるのよ」
「見てくれる相手もいないのに、大変ですね」
「それは貴女も大差ない癖に」
「常に人目に晒されているメイドに、その言葉は通用するとお思いですか?」
「そういう目で見られるか、が問題なのよ」
「事ある毎に、第二夫人へのお誘いがありますが、何か?」
わぁい。俺、おいてけぼり。
コッソリ出ていってやろうかな。
《強く推奨します》
いやいや、仮にもお世話になった二人に、それは駄目でしょう。
女性同士の言い争いに、口を挟んで良い事なんか何一つ無いの、経験済みなんだけどなぁ。
「あの」
「「何!?」」
ほら、睨まれた。
「失礼しました。見送りに来たはずでしたね」
「誰のせいよ、全く。シレーネからはもう受け取ったのよね?」
左腕の小盾と小剣を見て、リリエイルさんが取り出したのは、中サイズの革製の鞄だった。
背中に固定出来るように、ベルトが取り付けられている。
「わたしの父が以前作った『アイテムバッグ』よ。容量は大きくないし、重量軽減もついてないけど、良かったら使って」
「『アイテムバッグ』って貴重な物なんじゃ。そんなの、頂けません」
「平気よ。『マジックバッグ』じゃ無いんだから。それに、死蔵させたままにするより、使って貰った方が父も天国で喜ぶと思うわ」
おおぅ、拒否する選択肢を潰されました。
これは受け取らない方が、失礼になるかも。
「勝手にお父上を殺さないで下さい。あの方は今もご存命ではありませんか」
「魔法道具の研究とか言って、国中を飛び回って家の事を省みないなら、死んだも同然でしょ?そんな訳で、持ってって?」
良いんだろうか?
嬉しさより戸惑いの方が大きいんだが。
うん。まぁ良いか。くれるって言ってるんだし。
「じゃあ、ありがたく頂いていきます」
「あ、あともう一つ」
渡されたのは、一枚の栞?
触った感じは紙ではなく、どこか金属っぽい。
開いた本がモチーフの紋章だろうか。
裏も確認してみるが、描かれているのはそれだけだった。
「これは?」
「わたしの家の紋章よ。貴族関係で困ったら使って?力になれるかは分からないけど」
某御老公のアレ、みたいなもんかな。
「なるべく、使わなくて済むように気を付けます」
こんなにもお世話になったんだから、頑張らないと。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね?」
「体を壊さないように」
名残惜しいけど、もう行かないと。
これ以上は涙が出そう。
二人に背を向けて走り出した。
しばらく走り続けて、ふと思い出す。
やばい。冒険者ギルドの場所知らない。
聞きに戻る?締まらないよなぁ、そんなの。
《こんな時こそ、お姉ちゃんを頼って下さい。【サーチ】を実行します。···終了しました。冒険者ギルドへの道をナビゲートします。また、王都の地形データを取得した事により、マップ機能が更新されました。ステータスより閲覧可能です》
おぉ、バージョンアップですか?
王都のマップが、部分的に見えている?
円形のマップの左上、北西にある大きな白い光点がお城かな。
だとすると、その少し右下にある点滅する小さな光点が、現在地か。
橙色の光点が、目的地の冒険者ギルド、で合ってる?
《正解です。因みに、拡大縮小3D表示も任意で変更出来ます》
今はまだ必要無いかもだけど、人も色で区別出来ますか?
《可能です。何色にしますか?》
そうだな。
俺は青で、敵は赤。仲間は緑で、中立は黄色かな。
仲間が出来るかどうかはさておいて。これなら分かりやすそうだ。
あとの細かい設定は、おいおいやって行きましょう。
今いる辺りは、大きな屋敷が建ち並ぶ貴族区と呼ばれる地域。
そこから水路を越えると、行政府や各種ギルドが立ち並ぶ中央区。
街の南西部に多くの個人工房が集中し、東側半分が平民区と呼ばれる住宅地が広がっているらしい。
街並みをみると、中世ヨーロッパ風だろうか。
ますますRPGっぽい。
街を歩き回ってマップを埋めたいところだけど、まずは冒険者ギルドで登録するのが先。
案内を頼りにギルドに辿り着くと、そこにはペンと剣を交差させた看板が掲げられていた。
そこには西部劇でよく見る、スイングドアがあった。
いや、スイングドアて。
意を決してドアを押し開けると、そこは酒場?食堂?との一体型タイプのギルドのようだ。
冒険者ギルド、で合ってるよね?
《間違いありません》
周囲の視線が突き刺さるのを感じた。
テンプレ通りなら、他の冒険者に絡まれるんだけど。
うん、それは無いみたいだ。意外と行儀がいいのか?
《絡まれたかったんですか?》
いや、そう言う訳じゃ無いけどさ。
登録ってどこで出来るんだろう。
途方にくれていると、赤毛の女性が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドにようこそ。本日のご用件は何でしょうか?」
ギルドの職員でした。
「えと、登録に来たんですけど」
「初心者さんでしたか。ではこちらにどうぞ」
案内されて、奥のカウンターに向かう。
その向こう側では、数人の職員が忙しそうに書類と戦っていた。
「お待たせしました。では、ギルド登録について説明させて頂きます。まず最初に、登録には銀貨二枚が必要になります。お持ちですか?」
「はい、大丈夫です」
良かった。詰まずに済んだ。
銀貨二枚を支払う。
「ではこちらに名前と、可能であれば得意な戦闘方法を記入して下さい。代筆が必要であれば、遠慮なく仰って下さいね?」
「それは大丈夫ですが、戦闘方法、ですか?」
「ええ。例えば剣が得意、とか火魔法が使える、とかで構いませんので。仕事の斡旋をする場合の目安であったり、仲間を募集している方への推薦にも使用したりしますので。勿論、強制ではありませんよ?ありませんが、記入して頂いた方が何かと便利にはなります」
う~ん。俺の場合、どこまで書くかが問題、かな。
ざっくりと、武器と魔法を少々、とかでも良いのかな。
ダメだったら書き直せばいいか。
記入して提出すると、赤毛の職員さんはカウンターの裏から何かの装置を取り出した。
見た感じで言えば、元の世界の銀行で見かけた、静脈読み取る機械みたい。
「ここに、左右どちらでも良いので、手を乗せてください」
右手を乗せて、待つ事数秒。
奥側から板状の何かが出てきた。
赤毛の職員さんは、その板に判子を一度押し当てると、こちらに差し出した。
「はい、これで登録は完了しました。これが貴方のギルドカードとなります。身分証としても使用出来ますので、紛失しないようにして下さい。再発行にも、銀貨二枚必要となります。
それでは、仕事を受ける上でギルドから注意事項が複数あります。ちゃんと聞いて遵守して下さいね?
一つ、ギルドは国民の皆様の信頼の上で成り立っている組織です。街の方々と揉め事を起こさないよう気を付けて下さい。
二つ、ギルドは冒険者の皆様の立場を保証はしますが、擁護は致しません。もしなにかしらの犯罪行為に加担した場合、冒険者資格は即座に剥奪されます。ご了承下さい。
三つ、冒険者同士での喧嘩に、ギルドは基本的に関与しません。どんな結果になろうと、自己責任であるとご理解下さい。
四つ、依頼についてですが、報酬は基本的に全て、成功報酬となっています。また、依頼が達成出来なかった場合、依頼料の三割を違約金として支払って頂きます。
五つ、ランクについて。冒険者の皆様には、ギルド特有のランクによる区分けがなされています。駆け出しのFから最高位のSまでの七段階があります。依頼の達成数や問題行動の程度によってギルドが判断し、ランクアップ試験を執り行います。何度も依頼を失敗したり、問題行動が目に余ると、ランクが下がる事もあり得ますので、ご注意下さい」
テンプレの絡みが起きなかったのは、この辺が原因なんだろうな。
自分のカードを良く見ると、ランクを示す文字がどこにも書かれていない。
「今はまだ登録のみですので、ランクは記されていません。ギルドが指定する三つの依頼をこなして、初めてFランクに成ることが出来ます。早速始めますか?」
「はい。よろしくお願いします」
ここで足踏みする理由も無いし。
「まずは荷物の運搬、薬草の採取、魔物の討伐の三つをこなして頂きます」
「基本的な依頼、ってやつですか」
「ええ、そうです。どんな依頼も大きく分類すると、この三種類に分けられます」
何事も、基本が大事、と。
「この三種類の内であれば、何から始めても構いませんよ?」
移動する手間が考えると、荷物の運搬からかな。
薬草を探してる内に魔物にも出会えるでしょ。
「まずは荷物の運搬から始めます」
「分かりました。依頼を受注する手順を説明します。基本は、入り口のすぐ右手にある掲示板から、受注したい依頼書を持ってカウンターまで持って来て頂くのですが、今回は省略します。
次に、依頼書とギルドカードを受付に提出して下さい。手続きが完了すれば、依頼は受注となります」
ギルドカードを出して、しばし待つ。
「はい。これで依頼は受注されました。頑張って下さいね。まずは運搬からでしたね」
「どんな荷物を、何処へ、どれだけ運べば良いんですか?」
「焦らずに。運んで欲しい荷物は、ギルド裏の倉庫にありますので、案内します」
うん、どうにも気が急いてしまう。
落ち着け、落ち着け。
赤毛の職員さんに案内されて、倉庫に向かう。
そこには、一見しただけでは何か分からない不思議な物が、山の様に積まれていた。
「ギルドには毎日、冒険者の方々が色々な魔物の素材を持ち込みます。本来であれば工房へ運びたいのですが、ギルド側も工房側も、定期的に運んではいるのですが、これがなかなか」
そこで、新人冒険者の出番って訳ですか。
「荷車の用意は出来ているので、出来るだけ多く運んで頂きたいです。あ、それと、くれぐれも素材をちょろまかしたりしないように」
「そんな事しませんよ。以前居たんですか?」
大きな物は、俺の身長程もある、亀の甲羅?小さな物は、小指の爪程の小石?
大小様々な素材を、崩れたりしないよう注意して荷車に載せていく。
同じく用意されていたロープで、しっかりと固定する。
運び込む工房の場所を教わり、荷車を引いて向かう。
すれ違う人が驚いてる様だけど、なんでだろ?
金槌が交差した看板が、生産ギルドの看板らしい。
教えて貰った通り、その建物の裏手、巨大な倉庫に荷車を運んで行く。
「すいません!冒険者ギルドから荷物を運んで来たのですが、どこに置けば良いんでしょうか?」
「あぁハイハイ、ありがとうね」
対応してくれたのは、眼鏡をかけた男性。
工房だからといって、みんながみんな職人って訳もないか。
「これまた随分持ってきたね。確認するだけでも一苦労だよ」
とは言いつつも、確認作業は手慣れたもので、あっという間に済んでしまった。
「はい、これが受領書ね。ギルドに提出すれば、依頼は完了。機会があったら、またよろしくね」
「ありがとうございました。失礼します」
さてと、ギルドに戻らないと。
軽くなった荷車を引いて戻ると、何故か職員さんに驚かれてしまった。
「え?もう運び終わったんですか?あれだけの量を?」
出ていく時、見てたはずですよね?
「はい。受領書も受け取ってきました。間違いありませんよね?」
「···確かに。次は、薬草の採取と魔物の討伐ですね」
「それなんですが、薬草の見本とか図鑑があれば見せて頂きたいんですが」
運搬について、今一つ納得しきれていないまま、職員さんはカウンターの裏から、一枚の紙を取り出した。
そこには、薬草の絵図と正しい採取方法が書かれていた。
「他の方々は、こういった情報の確認をなさらない方が多いので、なかなか良い心掛けだと思います」
うん。まさか、異世界から来たから全く知らない、とか言えないしね。
この辺は慎重にもなります。
《今さらだと思います》
「今の時期だと、南側の川沿いに多く生えていたはず」
なるほど、南の川沿いですね。
「あっ、そっちは駄目です」
書類仕事中の他の職員から、ストップがかかった。
「この間、例の新人が荒らしたって報告が上がって来てます」
「すみません。お聞きの通り南は無理そうなので、他に近い所ですと、西側の森に自生していたはずです」
なにかやらかした冒険者がいるらしい。おのれ。
赤毛の職員さんによれば、南に比べてちょっと距離があるものの、その分魔物の出現率も高いらしい。
ま、ちょっとだけ手間が省ける、かな。ちょっとだけ。
荷物運んでて気付いた事が一つ。
制服姿、目立ってる?
近くに古着屋とか無いかな?
《ここからだと、大通りを西に進むと数件あります》
目的地は西の森だし、途中で見ていこう。
その道中、何人かの冒険者とすれ違った。
皆、立派な装備に身を包んでいて自信に満ち溢れて見えた。
きっと勇者達もあんな風に、豪華な装備を身に付けるんだろうな。
う、羨ましくなんかないやい。
古着屋では、なかなか良い状態の服を購入出来た。
白シャツに黒いズボン、茶系の薄手のジャケット。
それも、一時期冒険者をやっていたというご主人による、応援価格でだ。
「成り立てはとにかく金がないからな。ちゃんと稼げるようになったら、贔屓にしてくれ」
先行投資らしい。
外見は武器屋とかやってそうな程厳ついが。
全開状態の大きな門を通り抜けると、一面、草原が広がっていた。
その道を黙々と歩いていく。
うん、誰ともすれ違わないな。
後ろを振り返っても誰もいない。
姉さん、ちょっと聞きたいんですが。
《はい、何でしょう?》
この先、人っている?
《確認します。少なくとも、前方左右3キロメートル圏内に、人族及び獣人族の姿はありません》
ただ歩くのもなんだし、走るか。
そして、走る事十数分。
目的地の、西の森に到着です。
ステータスの恩恵って凄いね。息一つ切れて無いんだから。
《一般人の平均値の場合、おおよそ二倍の時間が必要になります》
さてと、薬草と魔物を探さないとね。
街道を外れて森に踏み入る。
それなりに人の手が入っているようで、そこまで歩きにくいだとか、薄暗いといった印象はなかった。
《薬草を発見しました。一時方向3メートルです》
グッジョブ、姉さん。
姉さんのおかげで見つけられた薬草は、見本の絵図と同じだった。
うん、見本を見た時も思ったけど、どう見てもシソっぽい。
ま、それはそれとして、採取です。
確か、上から四枚目までしか、薬効が含まれてないんだっけ?
どう考えても、謎植物です。
群生、とまではいかないものの、少し歩けばすぐ別の薬草が見つかるので、規定の数は割と簡単に集め終わった。
あとは、魔物ですか。
そうだ。【忍びの心得】を使おう。
うっかりしてたよ。最初っから使っとけってな。
うん、後ろに何かいる?
振り向くと、そこにはサッカーボール大の青い球体があった。
いや、居た、かな?
ブルースライム Lv.2
プルプルとした体をした、最下級の魔物。
水分を多く含んでいる。
おぉ。かの有名なスライムさんですか。
水滴型でも、アメーバ状でもないんですね。
それが三体も。
《来ます。戦闘準備を》
慌てて小剣を抜き放つ。
それとほぼ同時に、奴らは高く飛び跳ね、襲い掛かってきた。
あの体で、どうやって飛び跳ねたんだろう?
気にはなるけど、気にしている場合じゃない。
先頭の一匹を盾で殴り飛ばし、あとの二匹をアーツ『ダブルスラッシュ』で切り捨てた。
弾き飛ばした一匹も、木にでもぶつかったのだろうか、根元でプルプルと震えていたのをサクッと止めを刺した。
すると、スライム達の体が光る粒子になって消えていった。
その後に残ったのは、青い液体が入った瓶が9本と、小指の爪くらいの大きさの立方体が3つ。
ブルーゼリー
ブルースライムの体を構成していた、青い液体。程よい粘度と硬度をしている。
錬金、合成、加工に使える。
スライムの魔核
スライム系の魔物の心臓部。
錬金、合成に使える。
この瓶、どこから出てきたんだろう。
《この世界の仕様です。魔物がその生命力を失うと、素材を残して消えます》
解体の必要が無いのは便利だけどね。謎仕様です。
それよりも、ブルーゼリーって食えるんかい!?
《キチンと調理すれば、可能なようです。実行しますか?》
なんか怖いんで、それはまた後で。
《ギルドの依頼はこれで終了しました。帰還を推奨します》
そうだね、そろそろ戻ろうか。
でも、騒動ってやつはこういう時に限ってやってくるんだよね。
森の奥の方から、何か聞こえてくる。
これは、誰か戦っているみたいだ。
う~ん。一応、様子は見に行ってみようかな。
スキル鍛練にもなるし。
自分に言い聞かせるように、スキル【忍びの心得】を発動させて向かう。
そこでは、冒険者らしき二人と、髪の長い一人の少女が犬の様な魔物数体と戦っていた。
《どうも様子が違うようです》
うん、そうみたいだ。主に戦っているのは、両手斧を振り回している少女のみ。
二人は、呑気に高みの見物のようだ。
耳を澄ますと、二人の会話が聞こえてきた。
「チッ、使えねぇ。こんなんじゃ、わざわざ亜人奴隷なんか買うんじゃなかった」
「しょうがないよ。銀貨一枚の売れ残りなんだから。でももう元は取れたんだから、そろそろいらないかもね」
これが、奴隷制度の現実ってやつか。
胸くそ悪い。
《合法的に奴らを消す手段を検索しますか?》
実行するかは別にして、一応調べておいて。
つい物騒な相談をしてしまっている間に、あの少女は犬の魔物を倒しきっていた。
だが、それと同時に倒れ込んでしまった。
《彼女の生命力が限界に近付いています》
二人には、あの少女を助ける気は無いみたいだ。
今にもこの場を立ち去ろうとしている。
「すいません!その子、どうするつもりですか?」
「あぁ?んなの、てめぇにゃ関係ねぇべ?」
ちゃんと、ギルドカードを見えるようにして近付いたのに、この対応ですか。
隣の奴がキチンと話を聞く人で良かった。
ひとまずは、だけどさ。
「彼女、捨てる位なら、私に売って頂けませんか?」
「こんな死にかけの亜人で良ければ、銀貨二枚でどう?」
後ろでもう一人がニヤニヤしていた。
さっき、銀貨一枚で買った、と聞こえた気がする。
だが、言質は取った。
「そらよっ」
銀貨二枚が入った小袋を、奴の顔面に叩き付けてやりましたよ。
まさか本当に払うとは思ってもいなかったのだろう、呆気にとられた二人は、しばらくその場を動かなかった。
正直な所、邪魔だから早く退いて欲しいんですけど。
改めて、少女の姿を確認する。
長い髪は汚れていて、はっきりとは分からないがたぶん緑色。
体はスレンダーで、身長はおそらく165~170くらい。
肘から先、手の甲までと、膝から下、足の甲までを緑色の鱗に覆われていた。
それと腰から伸びる爬虫類を思わせる尻尾が特徴的だった。
これが獣人か。っと、見とれてる場合じゃなかった。
周囲に人影が無いのを確認して。
「『アクアヒール』」
身体中の傷が見る間に消えていく。
だが、彼女は目を覚まさない。
間に合った、よね?
《生命活動は確認しています。蓄積された疲労による休息であると推測します》
それなら良いんだけど。
彼女が目を覚ますまで、ここで待ちますかね。
何もせずに待っているのも手持ちぶさただし、余分に採取した薬草で何か作れないかな。
例えば、ポーションとか。
異世界系の生産といえば、ポーションはテッパンでしょ。
《『薬草』と『水』を【錬金】する事で、回復ポーションは制作可能です。実行しますか?》
水をどっから調達するんでしょう?
《【水魔法】に飲用可能な水を生み出す『ウォータ』があります。実行しますか?》
余分な薬草が尽きるまで、お願いします。
《了解しました。スキル【錬金】を実行します。スキル【錬金】の実行により、スキル【錬金士の指先】を習得しました。【錬金】の成功率が少し上昇します。【錬金】に【錬金士の指先】を吸収統合しました》
結果、ポーションが十八本、失敗ポーションが十二本、出来上がりました。
スキルレベルも低いし、それは仕方無いよね。
ポーション HP+12%
HPが回復する魔法の水薬。
濃い緑色に反して無味無臭なのが逆に恐ろしい。
失敗ポーション HP+1%
どこでどう間違ったのか、回復量が激減した水薬。
無色透明なのに、青臭さがいつまでも消えない。
うん、これもどこから瓶が出て来たんだろう。
やっぱり世界の仕様かな。
予定を大幅に超えました。
後半に続く。