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スキル【習得】さん、頑張った様です。魔法編

 訓練三日目。

 今日は、暗殺メイドさんに叩き起こされる前に目を覚ましました。

 うん、嘘です。

 リーディア姉さんに起こして貰いました。

 姉さん曰く。

《だらしない弟を起こすのも、姉の役目ですね》

 その割に、今まで起こして貰えてなかった気がします。

 今日に限って起こしてくれたのは、なにやら姉さんが謝りたい事があったらしい。

《昨夜は大変失礼致しました。今思い返してみても、どうかしていたとしか思えません。穴があったら入る、だけではなく埋まってしまいたい気分です》

 あぁ、その事か。気にしてませんよ?

 でも今後は、TPOをわきまえて下さいね?

《分かりました。気を付けます》

 うん。止める、とは言わないんですね。

 勢い良く扉が開けられ、暗殺メイドさんが朝食を運んで来てくれました。

「あら珍しい。もう起きていたんですね。いつもそうなら私の仕事も少なくて良いんですけどね」

 さて、今日の朝食は、と。

 まだ柔らかいパン。ちゃんと味のする、肉入りのスープ。

 おぉ、食事の内容が改善されてる。

 相変わらず食器が空くのを待たれているので、味わいつつも手早く済ませる。

「あぁ、そうそう。貴方の訓練着ですが、私の方で処分しておきました」

 あ、やっぱり。

 それなりに気に入ってたんだけどな。

「代わりに、別なのを用意して上げたので、感謝して下さい」

「ありがとうございます」

 訓練期間中に着るかどうかは分からないけど、本当にありがたい。

 素直にお礼を言うと、ほんの一瞬、驚いた表情を見せてくれた。

 よし、勝った。って何にだ?

 自分にツッコミを入れつつ、訓練着を受け取る。

 広げみると、大量生産品なんだろう、全く同じデザインをしていた。

 唯一違うのは、左肩の部分が大きく繕われているだけ。

 うん?全く同じ?

 持っていかれたのはさっき、処分したって言ってたような?

 うん、気にしない気にしない。

 それよりも、聞いておかないといけない事が一つ。

「すいません、図書室って何処にあるんですか?」

「すぐに動けるのなら、案内してあげられます。どうしますか?」

「問題無いんで、お願いします」

 今、溜め息つかれた気が。

「二度は教えないので、ちゃんと着いてきて下さいね。迷っても責任取りませんから」

 彼女の後ろ姿を見失わない様に、追いかけて行く。

 本当に暗殺メイドさんがいなかったら、迷う自信がある。

 その位、ややこしい場所にあった。

《暗殺メイドが貴方を撒こうと、試みた結果です。次回はもっと短縮出来ます。城の構造は九割方把握出来ました。いつでも落とせます》

 あんまり物騒な事言わないの。

 いつか、ここに攻めこむフラグになりそうで、怖い。

「では、私はこれで。せいぜい頑張って勉強することです」

「ありがとうございました」

 大きく重い、両開きの扉を開けると、紙とインクの混じった匂いが漂ってきた。

 並び立つ本棚と、そこに収められた本、本、本。

《蔵書数は、一万を越えています》

 例えるなら、本の森かな。知識は海、とか言うし。

「何か用?」

 本に気を取られていて、気付かなかった。

 驚いて振り向くと、一人の女性がいた。

 白シャツに茶のベスト、黒のスカートに身を包んだ、金髪眼鏡の女性だった。

「えっと、こういう物を頂いたんですが」

 『図書室使用許可証』を差し出すと、彼女はそれをまじまじと見つめる。

「あぁ、ハイハイ。話は聞いてます。今日明日だったっけ。他に人もいないし、好きに見てって良いわよ」

 いやいや、好きにって。

 どんだけあると思ってんです?

《スキル【分析】の情報量を絞り、広域化を試みます。成功しました。以後、広域分析を【サーチ】と呼称します》

 さすが姉さん。仕事が早い。

 探して欲しいのは、魔法に関する物と、勇者や魔王に関する物をお願いします。

《魔法については分かりますが、後者については何故でしょうか?》

 司書さん(仮)に怪しまれないよう、適当に本棚の間をうろうろする。

 一応、念の為です。調べておいた方が良いかな、と。

 その程度の気持ちです。

「少年、ちょっと良い?」

「何ですか?」

 返事しておいてなんだけど、少年て。

「灯り、渡すの忘れてたのよ」

 光る球体を投げ渡された。

 それはふよふよと、俺の周囲を飛び回っている。

「何ですか?これ」

「何って、生活魔法の『ライト』よ?見たこと無いの?」

「はい、初めて見ました」

「魔法適性が無いって噂は本当なのね。そんな人、初めて見たわ」

 大抵一つくらいは適性があるものらしい。

 好奇心にかられて光る球体に触ってみると、しっかりした弾力と、ほのかに温かかった。

 水風船にお湯を入れれば、こんな感じ?

《スキル【光魔法】【光属性耐性】を習得しました》

 ラッキー。光魔法ゲットです。

「それで、どんな本を探してるの?」

「魔法に関する物と、勇者と魔王に関する物です」

「なるほどね。探してくるから、待っててくれる?」

 え。今、姉さんに探して貰ったんで大丈夫なんですが。

「こういう事も、わたしの仕事よ。遠慮しないで」

 そう言い残すと、彼女は本棚の奥に消えていった。

 それから十数分後。

 貸し出しカウンターの上には、本が山の様に積まれていた。

「こっちが魔法関係の書籍ね。詠唱見本から学者の論文まで色々あるわ。残りが、勇者か魔王に関係するものよ。絵本から論文まであるけど、集めすぎたかしら?」

「いえ、大丈夫です」

 姉さん。【サーチ】から漏れたっての、あります?

《いいえ、ありません。彼女の記憶力には感服します》

 手始めに、魔法関係の本から読み始める。

 詠唱見本には、現時点で存在が確認されている魔法の詠唱が、書かれていた。

 さらっと流し見た限り、本当に長い。

 イメージを固める為なんだろうけど、あんな長文覚えるのも一苦労ですよ。

 それでも一応、風と土の初期魔法のは覚えてみた。

 ここで唱えるのは恥ずかしいし、もし発動でもしたら大変なので後回し。

 他の本も読み進めて行くが、中々有用な情報には当たらない。

 う~ん、これはやっぱり難しいのかな。

 最終手段は、その属性魔法が使える人に自分に向けて撃って貰う事、だけど、ドM認定されるのは確定だしなぁ。

 俺にその手の趣味は無いし。

 仕方無い、考えてもどうにもならない事は、考えたところでどうにかなるものでも無いし。

 別の本、別の本。

《それは、問題の先送りと言いませんか?》

 学者の論文にも手を出してみるが、難しい言い回しや専門用語の解釈に手こずって、中々思うように読み進めない。

 どうにか読み切ったが、結局のところ基本は、詠唱による魔力操作から呪文名での発動、という流れなのは変わらないらしい。

 う~ん、魔力操作?

 もしかしたら、イケるかもしれない。

 その為には、姉さんに手伝って貰わないと。

《何か思い付きましたか?何でも言って下さい》

 あくまで可能性の段階ですけどね。

 姉さんには、魔力操作のサポートをお願いしたいんです。

 今はまだ、なんとなく、程度の感覚しか無いので。

「えっと、少年。もうすぐお昼なんだけど。少年はどうするの?」

「え、もうそんな時間ですか?もしかして、ここって閉めたり、とか?」

「そんな面倒な事しないわよ。別に誰か他に来る訳でも、貴重な本が有る訳でも無いし。ただ、調べ物が長引く様なら、手軽に食べられるものでも持ってきて上げようかなって思っただけなのよ。どうする?」

「じゃあ、お願いしても良いですか?」

 彼女の優しさが身に沁みます。

「適当に持って来るから、文句は言わないでね」

 そう言い残すと、本当に図書室から出て行ってしまった。

 うん。マジで職場放棄ですか。

 他の本でも読んで待っていよう。

 ほとんどが、何かしらの属性魔法について書かれているが、中にはそういった主な属性を外して研究している学者もいるようだ。

 例えば【付与魔法】。

 一時的な身体能力の強化や属性の追加など、一見有用そうに思えるが、自身ならともかく他者には触れていないと使用出来ないといった欠点があり、強化するより殴った方が早いと言われていたり、とあまり人気の無い魔法と言われている。

《スキル【付与魔法】を習得しました》

 え?ただの研究論文だよね?

《はい。研究論文に見せかけた魔導書だったようです》

 この論文を書いた学者の、意地や執念や願いみたいなものを感じる。とかは言い過ぎだろうか。

 ともあれ、有効利用させて頂きます。

 すると、なにやら部屋の外が騒がしい。

 司書さんが戻って来たのかな?

 大きな音を立てて開かれた扉の向こうにいたのは、司書さんと、暗殺メイドの二人だった。

 何故に暗殺メイドがここに?

「無能なあなたがきちんと勉強に励んでいるか、見物しに来ました」

 わざわざ見に来るなんて、意外と暇なんだろうか。この人。

 なかなか表情変わんないから、感情が読みづらいんだよね。

「それで、何を無駄に覚えたのか、教えて貰えません?」

「ちょっとシレーネ、食事届けたらすぐ仕事に戻るって言ってなかった?」

「すみません、何を言っているのかちょっと分かりかねます」

 なんだろう、この漫才。

「別に構わないんですが。詠唱を少しと、付与魔法を覚えましたよ?」

 付与魔法と言った途端、二人の眼差しがまるで残念な生き物でも見るかの様に、変わっていく。

「どうやって覚えたのかは、さておいて。覚えちゃったのね」

「そこは、覚えられた事を誉めておくべきでしょうか?」

 なんか、まずいことをやらかしたっぽい。

 黙ってた方が良かったかな?

「よし、私は何も聞かなかった事にします」

 暗殺メイドは、片付けを司書さんに任せると言い残し、足早に仕事に戻っていった。

 これ以上首を突っ込むのは面倒事になる、と判断したらしい。

 残念なのは、司書さんだろうな。

 彼女には逃げ場が無い。

 沈黙が痛い。

「本当に覚えられたの?」

「こんな、すぐバレる様な嘘を吐いてどうするんですか。何なら試してみましょうか」

 今使える【付与魔法】は『STRアップ』『STRダウン』の二つのみ。

「エンチャント『STRアップ』」

 俺の体から何かが抜け出る感覚と共に、司書さんの体がうっすらと赤い光に包まれた。

《『STRアップ』の効果は、十秒間STRを一割上昇させます。スキルレベルが上昇すれば、上昇率、効果時間共に増加します。スキル【魔力感知】【魔力操作】を習得しました》

 なるほどね。この感じが魔力なんだ。

「何で【付与魔法】が使えるの!?」

「何でって、覚えたって言ったじゃないですか。信じてくれました?」

「わたしが言いたいのはそんな所じゃなくて、何でこの距離で使えるのかって事よ!?」

 そういやそうだ。確か、相手に触れないと使えない認定されてたはず。

 俺と司書さんは、手が届く様な距離にはいない。

《スキル【付与魔法】の欠点は、論文を読んだ際に把握していたので、習得時に改善済みです。スキル【魔力感知】は自分や他者の魔力を感じるスキルです。スキル【魔力操作】は自分の魔力を効率的に操る事が可能になります》

 姉さんグッジョブ。

 でもどうしよう、上手い説明が思い付かない。

「少年、名前を訊いても良い?」

「は、はい。シオン・クレナイです」

「わたしは、リリエイル・オーヴァっていうの」

 リリエイルと名乗った司書さんは、俺の両肩をしっかりと掴むと、物凄い形相で睨み付けてきた。

 まるで獲物を狙う猛禽類の目を思わせる。

 というか、顔が近いです。

 美人なだけに、二つの意味でドキドキしますよ。

「ねぇシオン君、ちょ~っとお姉さんのお願いを聞いて貰えないかしら?大丈夫。ちょっとした事よ。キチンとお礼もするから、ね?ね?ね?」

「せめて、話を聞いてから判断させて貰えませんか?」

 たぶん、選択肢は一択だとは思うけどさ。

「わたしの家に、お婿に来てくれない?」

 ···は?

 完全に、予想外な展開です。

「話が唐突過ぎて、なにがなにやら。何でいきなり婿養子なんて話になるんですか?」

「そうね、わたしもちょっと焦りすぎてたのかも。順番に説明するわね。わたしの実家、オーヴァ男爵家は、多くの魔法研究者を輩出してきた家柄なのよ。貧乏貴族だけどね」

 き、貴族様でしたか。今さらだけど緊張してきた。

 肩書きには弱いなぁ。

「だけど、思う様な研究結果が出せなくて、落ち目だった。ここまでは良い?」

「残念ながら、割とよく有る話、ですよね?」

 それと、今回の話が繋がらない。

「哀しい現実よね。そこで、わたしの祖父が自分の研究論文にある仕掛けを組み込んだの。それがスキル【付与魔法:限定】」

 限定?俺が習得したのには、限定なんて付いてなかったよね?

「一般的に言われている【付与魔法】はこっちの事よ。自分と触れた相手にしか使えない不完全な魔法。祖父はこの魔法を不完全なままにしておいて、欠陥に気付き、改善出来た優秀な研究者を、一族に迎え入れようとしたの」

「成功したんですか?」

「···聞きたい?ねぇ、聞きたい?」

 あ、やべぇ。地雷踏んだかも。

 ハイライトの消えた目で見つめられるの、意外と怖っ。

「ふふっ、結果は言わずもがな、よ。おまけに、それが男だったらわたしの婿に、なんて条件まで付けてくれるんだもの。結婚すら諦めてたわ」

 なるほど。これでようやく話が繋がった。

 繋がったけど、色々と不味くない?

「と、言う訳で。わたしのお婿になってくれない?」

「いやいや、どう考えても政略結婚でしょう」

「これでも一応、貴族の端くれよ。その位覚悟してるわ。それともなに?わたしじゃ不満?これでも、外見にはそれなりに自信はあるのよ?」

 シャツのボタンを外そうとするのは、止めて下さい。

 取り押さえる訳にも、逃げ出す訳にもいかず、おたおたしていると、彼女の後ろに影がさした。

「いつまで待っても片付けてこないから、嫌な予感がして見に来てみれば、何してるのでしょうか?」

 暗殺メイドさん登場です。

 リリエイルさんには悪いけど、助かりました。

「もう少しで押し倒せるとこだったのに」

「刺しますよ?」

 なんだろう、何も悪い事してないはずなのに、お腹痛い。

 微妙な空気が流れる中、軽い食事を済ませると、今後は暗殺メイドさんが監視に着く事になったらしい。

 誰の、監視なんだろう?

 いやいや、本に集中しないと。

 上位属性魔法基礎理論、とかいう見るからに難解な物をゆっくりと読み進めていくと。

《スキル【風魔法(仮)】【土魔法(仮)】【影魔法(仮)】【炎魔法(仮)】【氷魔法(仮)】【雷魔法(仮)】【大地魔法(仮)】【神聖魔法(仮)】【闇魔法(仮)】を習得しました》

 おおぅ、急にどうしました?姉さん。

 しかも(仮)て。

《スキル【魔力感知】【魔力操作】及び、上位属性魔法基礎理論により、限定的ではありますがスキル習得に至りました。一度でも発動出来れば、本習得となります》

 リーディア姉さんカッコイイ。大感謝ですよ。

 後はどこで魔法を使うか、だけど。

 どっか良い練習場所無いかな。

「すみません、ちょっと聞きたい事が」

 真っ先に反応したのは、リリエイルさん。

 暗殺メイドさんより先に反応するなんて、驚きです。

 近寄りかけた所を、あっさり暗殺メイドさんが制圧するあたりは流石。

「何でしょうか?ご覧の通り、手が離せないもので手短にお願いします」

「出来れば、誰にも見られずに訓練出来る様な場所とか、ありませんか?」

「···変わった要望ですね。でしたら、弓兵用の練習場所が空いていたはずですが」

「そこ、使えませんか?」

 腕の中の司書さんが、動きが鈍くなっている気がする。

 大丈夫かな?

「申請をすれば、使用許可が下りると思います。申請してきましょうか?」

「良いんですか?じゃあ、お願いします」

「さ、行きますよ。しっかり歩いて下さいね」

 司書さんを引き連れて行ってしまった。

 一人残されたので、本を読み耽る事にしよう。

 魔法関連は、一応一通り済んだのかな?

 じゃあ次は、勇者と魔王関係だね。

 絵本系は、良くある、悪い事をすると魔王が来る的なお話や、お姫様を拐うも勇者に倒される的な話しかない。

 こうやって、勇者=善、魔王=悪と刷り込んでんのかね。

 魔王側にも、主義主張はあっただろうに。

《かもしれませんが、そういったものを全て塗り潰すのが、戦争、ではないかと》

 お、勇者と魔王の関係性についての考察、だって。

 パラパラとページを捲って見るが、一切読めなかった。

 全部塗り潰しやがった。どっかの議事録じゃないんだから。

 よっぽど都合の悪い事でも書かれてたのかね。

 次々と読み進めていく中で分かったのは、魔王について何も分からない、という事。

 魔族の王と書いてある物もあれば、魔物の王と書いてある物もあり、亜人の王と書かれている物すらある。

 とにかく、討伐するべき人族の敵であるって事だけは共通していた。

 さて、用意してくれた本は読み切っちゃったし、片付けておこうかな。

《元の場所は、全て記録してあります》

 ありがとう、姉さん。

 全ての本を元の場所に戻し終えるのとほぼ同時に、二人が戻って来た。

 うん、それは良いんだけど。

 なんか揉めてない?

「お帰りなさい。どうでしたか?」

「申請は通りました。すぐにでも使用出来ます。ですが」

「だ~か~ら、監督責任はわたしにあるんだってば」

「リリエイル様には前科があります。ですので、ここは私が引き受けさせて頂きます」

「すいません、いったい何事ですか?説明して下さい」

「失礼しました。使用許可はおりたのですが、監督者を同席させる様に、と言われまして。彼女か私かで揉めております」

 いやあの、誰にも見られたく無いんですが?

 無理なんでしょうか?はい、無理そうですね。

 二人に口を挟む余地はなさそうです。諦めよう。

「いっそ、二人で監視すれば良いのでは?」

 あっさり解決しました。

 口止めは、一人も二人も大差は無い。

 うん、口止めに応じてくれるか、は別問題だけどね。

 二人の案内で、使用許可のおりた訓練場所に向かう。

 そこは、幅四メートル、奥行き十五メートルの、弓道場にも似た場所だった。

「えぇと、お二人に確認したいんですが、俺の事を上の方に報告する義務とか、ありますか?」

「いいえ?なにも。なぁに?報告して欲しいの?」

「私は監視のみです」

「いえいえ、報告して欲しく無いんで聞いてみたんですよ」

 とりあえず、報告義務が無いのは確認が取れた。

 後は、どうにでもなれ、だ。

 姉さん、【魔力操作】のサポートをお願いします。

《了解しました。スキル【魔力操作】のサポートを開始します。一度、目に魔力を集中させます》

 それにどんな効果があるんでしょうか?

《スキル【魔力視】を習得しました。【魔力視】【魔力感知】【魔力操作】を統合。スキル【魔法の指先】に統合進化しました。続けて【鷹の目】【魔法の指先】を統合。スキル【魔梟の瞳】に統合進化しました》

 風魔法のイメージを固める。

 打ち出すのは、命中すると弾けるピンポン球サイズの風の塊。

《魔力の制御を開始。【風魔法(仮)】への同調に成功しました。いつでもどうぞ》

「風魔法『ウインドバレット』」

 イメージした通りに、ピンポン球サイズの風の塊が発射され、的に当たって破裂した。

《スキル【風魔法】【風属性耐性】を習得しました》

 よし、思った通り、大成功。

 魔法スキルゲットです。

 リーディア姉さん様様ですよ。

《このくらい、私の手にかかれば当然です。次、いきますよ》

 姉さんにも、手がある様です。

 次は土魔法のイメージを固めないと。

 風がピンポン球だったから、土は錐の先端みたいな尖った物を想像する。

 魔力操作のサポートは万全。

「土魔法『ストーンバレット』」

 遥か向こうの的に突き立った。

《スキル【土魔法】【土属性耐性】を習得しました》

 どんどん行くよ。

 影魔法は、周囲の影を引っ張ってきて、弾丸状に固めるイメージで。

「影魔法『シャドウバレット』」

《スキル【影魔法】【影属性耐性】を習得しました。【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】【光魔法】【影魔法】を統合。スキル【下位属性魔法の使い手】に統合進化しました。続けて【火属性耐性】【水属性耐性】【風属性耐性】【土属性耐性】【光属性耐性】【影属性耐性】を統合。スキル【下位属性耐性】に統合進化しました》

 また一気に来たなぁ。

 ちょっと一息つこう。後ろのお姉さん達も気になるし。

 恐る恐る振り向くと、二人はただただ微笑んでいるだけだった。

 どうしよう。逆に怖いんだが。

 うん、全部終わったら、逃げよう。

 次からは、上位属性魔法だ。

 慎重にいかないとね。

 炎魔法の基本魔法は、投げ槍を生み出すんだっけ。

 陸上競技の槍投げをイメージする。

《それよりはもっと短く。鋭く突き刺さるイメージです》

「炎魔法『フレイムジャベリン』」

 的を燃やしながら貫きました。人に向けたら大変な事になりそうです。

《スキル【炎魔法】【炎属性耐性】を習得しました》

 次は、氷魔法か。

 イメージは、貫いた対象を確率で凍らせるイメージなんだけど。

「氷魔法『アイスジャベリン』」

 イメージ通り、的に突き刺さった後、的そのものを凍らせたようだ。

《スキル【氷魔法】【氷属性耐性】を習得しました》

 次は雷魔法。勇者専用のイメージが強いんですが。

 う~ん、難しい。

 紫電とかって言葉があるから、紫色のイメージで。

 実際は、大気中のプラスとマイナスの電子が云々、と難しいんだが。

「雷魔法『ライトニングジャベリン』」

 的には、命中した時に出来たであろう焼け焦げた跡が出来ていた。

《スキル【雷魔法】【雷属性耐性】を習得しました》

 ここまでは順調に来たけど、ここからが問題。

 大地魔法。どうやってイメージしたら良いの?

《土魔法と同じようにイメージして下さい。足りない部分があった場合、補足致します》

 土魔法のイメージを、もっと強くもっと硬くイメージし直す。

 その過程で、トンネルを掘るシールドマシンからドリルが頭を過った。

「大地魔法『アースジャベリン』」

 生み出されたドリルは、一直線に飛んで行き、的を粉砕した。

《スキル【大地魔法】【大地属性耐性】を習得しました。あんな魔法は初めて見ました》

 自分で使っておいてびっくりです。

 イメージが大事と聞いてはいたけど、ここまで顕著に反映されるもんなんですね。

 神聖魔法。

 光魔法を編み込んで、束ねて、纏めて放つイメージで。

「神聖魔法『セイクリッドジャベリン』」

 眩い光が、的を貫通して破壊した。

《スキル【神聖魔法】【神聖属性耐性】を習得しました》

 残ったのは、闇魔法。

 影魔法をもっと深く濃くしたイメージ。

「闇魔法『ダークネスジャベリン』」

 黒を通り越した闇色の槍が、目標の的を貫いた。

 的に変化は見られなかったが。

 失敗かな?

《スキル【闇魔法】【闇属性耐性】を習得しました。【炎魔法】【氷魔法】【雷魔法】【大地魔法】【神聖魔法】【闇魔法】を統合。スキル【上位属性魔法の使い手】に統合進化しました。続けて【下位属性魔法の使い手】【上位属性魔法の使い手】を統合。スキル【魔導の心得】に統合進化しました。続けます。【炎属性耐性】【氷属性耐性】【雷属性耐性】【大地属性耐性】【神聖属性耐性】【闇属性耐性】を統合。スキル【上位属性耐性】に統合進化しました。さらに続けます。【下位属性耐性】【上位属性耐性】を統合。スキル【全属性耐性】に統合進化しました》

 闇魔法も無事に習得出来て良かった。

 今回もまた、一気にスキルの情報が押し寄せて来た。

 把握するだけでも、一苦労です。

 え~と、魔法系統のスキルは【魔導の心得】に纏まって、属性耐性も一纏めになった、と。

 【盾魔法】や【付与魔法】は何処の属性に分類されるんでしょう?

《【魔導の心得】には組み込まれていませんが、それぞれ無属性、純属性に分類されています。これで全属性の魔法が使用可能です。称号【習得魔】を獲得しました》 


 習得魔 スキルを一定以上習得した者に贈られる称号。

     才能の限界には要注意。


 ここで出来る事は以上かな。

 最後に大仕事が残ってるけど。

 いくら二人に報告の義務が無いとはいえ、これはさすがに報告せざるを得ないだろう。

 どう、口止めするかな?

《いざとなったら、口封じ、という手もありますが?》

 いやいや、出来る限り物騒な手段は避けたいです。

「え~と、シオン君?真剣な話があるんですが」

「そうですね、私からも大切な話をしなくてはいけませんね」

 うん、覚悟を決めなくては。

 いつでも動ける様に心構えをして、振り向く。

 二人はとても真剣な表情をしていた。

 そこには、今まで見せていた憐れむ様な感情や、畏怖の感情も読み取れない。

「わたしには本当は、貴方が何を調べたのか、上層部に報告する義務があったの。その報告次第では君が勇者達と同等程度か、少なくとも今よりマシな待遇になるかも、って思ってた」

「私には貴方の監視が命じられていました。役に立たないなら未だしも、王国の敵になるか否か、見極めて処分するように、と」

 普通、ソウデスヨネ。

 処分されたくないし、逃げ出す準備をしなくては。

「でも、わたしは君の事を上層部に報告する気はありません。君の処遇を決めたのは上層部です。君の能力を見抜けなかった奴らが悪いんですよ」

「私の場合、勇者達が気付きもしなかった私達、影の存在に気付いた貴方を初めは警戒していました。敵に回れば脅威になる、と。ですが、貴方とは敵対しないでいた方がメリットが多そうです。少なくとも、私でも敵わない相手とは争いたくありませんね」

 う~ん。見逃してくれる、という事か?

 それはありがたいんだけど、それじゃあ二人の身が心配です。

「それに、わたし達の報告なんて、大して期待もされてないでしょ」

「リリエイル様とは一緒にしないで頂けますか?これでも一応、影としては一流ですので」

「いやいや、影の人が一流とか、誇っちゃ駄目でしょう?」

「貴方の秘密は見てしまいましたから、このくらいでちょうど釣り合いが良いのでは?」

 そう言われると、そうなのかも?

「それに、黙っていた方が君の好感度も高いでしょ?」

「リリエイルさん、色々台無しです」

 黙っててくれるなら都合が良いんですが、見返り求められそうなのがちょっと不安です。

 今日は色んな意味で疲れました。

 MPも残り少ないし、そろそろいい時間なのでもう引き上げる事にした。

 今日の夕食は、パンにスープ、あと林檎に似た果物が付いていた。

 向こうの世界の物に比べると、若干酸味が強いけど誤差の範囲内。

 美味しく頂きました。


 名前 シオン・クレナイ     性別 男

 種族 人族           状態 魔力疲労

 Lv 2            称号 習得魔

 HP  300/300  MP   10/270  ST  55%

 STR  34  VIT  33  INT  45

 MND  48  AGL  34  DEX  37

 所有スキル

 【武芸の心得Lv.3】【魔導の心得Lv.1】【盾魔法Lv.1】【付与魔法Lv.1】【物理耐性Lv.3】【全属性耐性Lv.1】【毒耐性Lv.2】【魔梟の瞳Lv.2】【忍びの心得Lv.2】【MP自然回復Lv.3】【錬金Lv.1】【合成Lv.1】【加工Lv.5】【習得】【分析】【道具箱】


 ずいぶんスキルが増えたなぁ。

 それも全部、リーディア姉さんのお蔭です。

《いえ、どれも貴方がキチンと努力した結果に過ぎません》

 色々出来る事が増えた分、ちゃんと鍛えないと器用貧乏になりそうで怖い。

 これからも、よろしくお願いします。姉さん。


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