売られた喧嘩
「やあ護衛殿。クシェルは中にいるかい?」
廊下にもたれ本を読んでいたら、美形な騎士に話しかけられた。見た事ある顔だと思ったらグランツ国第一王女ミンナではないか。前はシンプルな騎士服だったが今は白い金縁の騎士服になっていた。汚れそうだな。
姿勢を正し、こうべを垂れた。
「はい。中でシャルロッテ王女とドレスのことでお話してました」
ミンナは「そうか」と爽やかな笑みを浮かべると、扉をノック無しで開けた。
「お邪魔するよ」
イケメン(女)だから勝手に入っても許されるのか!? というか王女達でノックする人見なかったんだけど!? それだけクシェルにはフランクだと思っていいのか!?
ミンナにメイドがぞろぞろついていく。その時、甘い香水に僅かに薬品の匂いがした。
メイドは香水しても良かったか?確か侍女からは許された筈だ。ここに規則を守ってないメイドがいる。それに薬品の匂いも気になった。
クシェルの身の安全のためにフェルディも部屋に入った。案の定、口を開いてびっくりしているクシェル。ドレスを汚さない様に化粧のために被った白い布がなんとも言えない。
惨めだって思っているに違いない。追い返せばいいのに大好きなミンナだから出来ないんだよね。
白い金縁の騎士服はシャルロッテが考えたデザインの様だ。実践に向いてなさそうだから式典用だな。ちらっと見えるクシェルのドレスに驚いた。クシェルは今まで地味な落ち着いた色しか来たところを見ていない。明るいピンク色のフリルがたっぷりなドレスはよく似合っていた。白い布が邪魔だったけど。
クシェルの前に膝まづくミンナ。クシェルの手の甲キスを落とす。
カッコいいな。あんなことこんな状況でやるとはミンナのメンタルは相当強い。メイドが腰砕けになってる。
色々とツッコミたい。そう思ってたら、真っ赤な顔のクシェルと目があった。
ーー助けて!
そう念を感知してしまった。相手は王女だし、それぐらい自分でどうしかしなさい!
ーー無理に決まってるだろ
そう念を返しといた。
薄情者って念が聞こえたが、気のせいにした。
メイドの様子が何やらおかしい。嫉妬に駆られたのかぶつぶつ言ってるのが3人ほどいる。暗い顔付きの3人はミンナを凝視していた。殺意を感じ佩剣に手を当てる。
「君の護衛をまた借りていくが構わないかい?」
「うん。全然良いよ。好きにしちゃって」
どうやらクシェルに恨まれたようだ。護衛をほいほい人に貸すな!
* * *
ミンナと部屋からでたフェルディ。ミンナについていき、話しかけた。
「メイドのこと気づいてますか?」
ミンナは動じずに「当たり前じゃないか」と頷いた。流石、騎士団長は違う。この人はめちゃくちゃ強い。フェルディはミンナに剣術を教えてもらった。
「じゃあ、今からレッスンといこうか」
剣に手をかけるミンナ。背中からの3つの殺気に気づきフェルディは剣を抜いた勢いでメイドが突きつけたナイフを二つ同時にはらった。しかし、1人がフェルディをかいくぐりミンナに攻撃を仕掛けた。案の定やすやすとそのメイドの武器を剣で弾き飛ばし戦闘不能にさせたミンナ。フェルディは内ポケットから取り出した手錠を3人のメイドの手首に付ける。それでも3人とも興奮状態で暴れられて抑えるのに大変だった。ミンナは暴れるメイド達の鳩尾を容赦なく殴り気絶させた。正常だった他のメイド達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「今から叱るがお前のためだから、恨むなよ。私だからだと思って1人取り逃がしただろ? クシェルだったらどうする? 今頃この世にいないぞ? 手錠だけで生温い。足で逃げられるぞ。足も縛るか気絶させるかしろ。柱に繋ぐのもいいな。わかったか?」
「…はい、ご指導ありがとうございます。次からは徹底して捕まえます」
鬼教官でした。クシェルには甘いのに酷い。
「でもなんでこのメイドに命狙われたんですか?」
「好きすぎて心中をはかる。そんな事件が多い。どれも女性だったようだ。これも、そうだろ」
巷では恋人同士の心中被害が多かった。両親に反対された訳でも無く心中する恋人達。女性側が男性を刺し自分も死ぬ事件。その謎の事件に今回も関わりがあるのか?
「メイドが香水をつけているのは違反ですよね? それに薬品の匂いが微かにメイドからします。関係ありませんか?」
ミンナは顎に手を当てて考えだした。
「1つ心当たりがある。ちょっと喧嘩売ってくるので、その子達牢屋に閉じ込めといて」