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王女の誕生日+

 









 子供達と笑いながら、マッシュポテトで作ったケーキを食べる王女様。その様子を壁際で見守る護衛のフェルディ。


 フェルディが「ちゃんとしたケーキぐらい食べればいいのに」とクシェルに言ってみたら、「私の誕生日ぐらいどうってことないわ」って笑って言ってのけた。フェルディや侍女、ここの子供達は誕生日は祝わない。ほとんどの子供の誕生日が分からないからだ。そのかわりに1月1日にみんなの誕生日として盛大に祝うのだ。きちんと小麦粉を使ったケーキが何個も作られる(クシェル特製)。だから、クシェルは他の子供達に気を遣って自分の誕生日はささやかにしていると思う。(実のところクシェルは面倒なので手を抜きたいだけ)


 他の兄妹は豪華なパーティをしているのに、気にしていないのだろうか。...多分気にしていないな。能天気に子供達と笑うクシェルを見ていると何故かほっとした。今は夏でも肌寒い。でもクシェルのいる空間は不思議と心を温かくした。


 同じ様に壁際にいる侍女がフェルディにちらりと目線を送る。侍女の目は水色で髪は金髪。冷たそうな水色の瞳はフェルディを見て、フェルディの視線の先のクシェルを見る。


「殿下。笑っているんですか?」


 侍女はフェルディに向かってそう喋りかけた。フェルディはそう言われて自分が笑っていることに気づいた。気付いてすぐに無表情に戻した。


「……もう殿下と言うな」


 顔を手で覆いぶっきらぼうにそう言った。笑っている姿を見られて恥ずかしくて頰が赤くなる。その姿に驚愕して侍女は目を見開いた。だが、侍女はすぐに冷静な表情に戻る。その瞳はどこか柔らかい。


「……護衛殿。この空間を守っていきたいですね」


 そうだった。私にとってはこの空間は奇跡だ。クシェルがこの奇跡を起こしたのだ。あの時、私が立ち止まらなかったら、クシェルが追ってこなかったら、呆気なく今頃死んでいただろう。


「……ああ」


 フェルディは今という瞬間が尊く思えた。これが幸せか。皮肉にも叔父のおかげでめぐり逢えた幸せだった。あんな悲劇は、彼女だけには見せたくない。


 胸のぽっけに入れてた金属のチェーンの感触を手で確認した。壁から離れて子供と談話するクシェルの元へと歩く。クシェルがフェルディに気づいて笑いかけてきた。


「聞いてよフェルディ。この子ったら照れ隠しで私にタックルしてきたのよ〜。もう、私びっくりしちゃった」


「ごめんね。本当はおめでとうって1番に言いたかったんだ」


 えへへと笑う小さな男の子。くすくす屈託なく笑うクシェル。フェルディはまた表情がゆるんではっと表情を引き締めた。


「……そうか。良かったな」


 ぶっきらぼうなフェルディを見て、クシェルは「何か用だった?」と不思議そうに言う。


「少し話がある」



 * * *



 急勾配な屋根の建物が綺麗に並ぶ町。四角い大きな窓から光が漏れてぼんやりと明るい。玄関から外に出ると寒かった。クシェルは「夜は冷えるわねー」と夜空を見上げた。平凡な顔立ちな彼女は町に歩いていても普通に溶け込めそうだ。彼女が王女だということをよくフェルディは忘れる。平凡な彼女が横にいると、自分も平凡な何処にでもいる少年になれる気がしてほっとするのだ。自分は可哀想な少年ではないのだと安心する。


「クシェル。これを見て」


 フェルディは胸のポケットに入れたペンダントを取り出して、クシェルに見せた。濃紺の丸い陶器に金箔でベゴニアの花が描かれたペンダントだ。クシェルはそれを見て「綺麗ねー」とじーとペンダントを値踏みしていた。クシェルの頭の中では値段を計算しているに違いない。


 相変わらずだな。クシェルへの贈り物だとは夢にも思ってないな。物をもらい慣れていない証拠だ。


「…かがんで」


 クシェルは不思議そうにとりあえず屈んだ。


「こう?」


 屈んでこっちを見る茶色の瞳は上目遣いになり、少し可愛く思えた。フェルディは無表情のままクシェルの首にペンダントをつける。そのせいで抱き締めるような体勢になってしまった。クシェルは「へ?」と間抜けな声を出す。顔が少し赤くなっていたが、ペンダントが首からぶら下がっているのを見て目を輝かせた。


「わ、私にくれるの?」


「うん。あげた」


 フェルディは無表情で頷く。


「ありがとうーー!! 返品しろって言われても無理だよ?」


 クシェルは大喜びではしゃいだ。


 子供のようだな。ああ、まだ16歳の子供だったな。


「言わない。言われたことがあるのか?」


 そんなケチな奴は...まぁ目の前にいるのは置いといて、1人いたな。


「お父様から昔イヤリングを貰ったんだけど、後からやっぱりお前にはもったいないから返せって言われたの。イヤリングって落としやすいじゃない。だからだと思う」


 やはり王様だったか。あの王様なら残念ながらやりかねない。イヤリングだからだと納得するクシェルもどうなんだ...。この親子の感覚は下流階級の者に近いな。王族だとは到底思えない。


「……そうか」


 フェルディは無表情でそう言うしかなかった。対してクシェルはペンダントをじーと見て「これ本物の金箔だ!」と騒いでいた。









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