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王女の誕生日

 








 クシェルは今凄くムカついていた。何故か?それは目の前に仇敵がいるからだ。仇敵こと側妃。仇敵は煌びやかなドレスを見せつける様に淑女の礼を優雅にしてみせた。グランツ国の有名な高級ジュエリー店のアクセサリーまでしている。ちらっと目につく仇敵の豊満な胸は目の毒だった。40歳過ぎてもみずみずしい肌に小じわのない顔。真っ赤な唇に白い肌。鋭い目つきは色っぽい。


 ーー妖艶な美女めー!!


 この仇敵は私の母ではない。母は王妃でこの仇敵は側妃。つまり王様の正室が母で側室がこの目の前の女だ。母は只今体調不良で実家にいる。理由はこの仇敵の所為だ。この仇敵と母は女の戦いを繰り広げ、見事にこの神経図太い仇敵が勝ったのだ。母は心労で床に伏せってしまった。


 ーー見ているだけで腹立たしい。


 扉を開けたままの姿勢でクシェルは側妃を睨んだ。側妃はそれに気付かないふりをして妖艶に微笑んだ。


「ご機嫌麗しゅうクシェル様。今日はお誕生日という事でお祝いに来ました。お誕生日おめでとうございます。まさか、パーティーがまた中止になるとは思いもしませんでしたわ。ああ、先程陛下がお越しにこられたそうで、何か祝いの品でももらえたのでしょうね。何を頂いたのですか?」


 ーームカつく女だな。パーティーが開かれなくて笑いに来たんだろ。


[肩たたき券]をクシェルは無言で見せた。づいと突きつけられたその券を見て側妃は笑った。


「あらあら、なんと微笑ましい。下流階級の親子のようですね」


「そうなのですよ。是非父にそう言ってあげて下さい」


 私が口を開いたのが気に食わなかったのか、側妃は顔を上げてこちらを見下ろす。


「あまり調子にのらないことですね。ああ、その装いは貴女にぴったりですね。流石私の娘のお下がりです。うちの娘イルザのセンスはよろしいでしょう」


 私の母は3人の娘を生み。仇敵は1人の息子と1人の娘を生んだ。このドレスは確かにこの仇敵の娘からもらった。ただ、仇敵の娘ことイルザとは仲が良い。多分仲が良い。イルザはシックな装いが好きなのだ。だから、私の着ている今のドレスはシックなデザインだ。ぶっちゃけ美人なイルザなら似合うが地味な顔つきな私には似合わない。


 ーー嫌味だな。


「ええ。本当に()()()のドレスは素晴らしいわ」


 私がイルザの事を姉扱いするのを側妃は嫌う。私は優雅に微笑んで言ってやった。ぐぎぎと歯をくいしばる側妃。


 ーーああ。楽しい。


 側妃は忌々しげにこちらを見ると、「あら急用を思い出しましたわ。王妃様がいないと忙しくて仕方がありませんわ。これにて失礼しましたクシェル様」と言って去った。


 やはり、ムカつく女だった。




* * *




 グランツ国の王都シュトルツ。その城下町に私クシェルはいた。地味な服を着て(普段が豪華だとは言っていない)、紙袋を抱える姿は町娘にしか見えない。髪の装飾もなくて地味なリボンでハーフアップにしているだけだ。地味な姿だが、皮肉にも城で着るドレスよりもよっぽど似合っている。クシェルはそれを自分でもよく理解していた。


 ーー私って町娘の方が似合ってるわよね。


 横にいる侍女はメイドの服を着ている。侍女はクシェルよりも少し歳上だ。クシェルが高貴な格好をしていれば、侍女は私の使用人に見えたであろう。だが、この地味な格好では残念ながら同僚またはお友達にしか見えない。下手したら侍女の方が顔立ちが凛として整っているので私の方が使用人に見える。侍女がメイド服を着ているのにだ。意味は違うが制服は全てを包み隠すのだ。クシェルは内心泣いた。


 王族の侍女は普通は貴族から選ばれる。だが、この侍女は元は孤児だ。これから向かう孤児院出身だ。私が10歳の頃に創設したその孤児院には隣国グローリエから逃げてきた子供がいる。実は創設した理由は隣国から逃げてきたフェルディを保護するためだった。フェルディを保護した後もこの国グランツに逃げてくる人がいた。今ならわかる多分みんな訳ありだな。まあ無理に聞くまい。私は教えてくれる時を気長に待ちます。


 それはさておき目的地の孤児院に到達した。孤児院の外観をじっくり見る。雪国を象徴する屋根は急勾配で茶色、大きい四角い窓が多い正面の外壁はサーモンピンクで可愛らしい色だ。お隣の家との隙間はほぼない。ちなみに隣の外壁の色は黄色だったり黄緑色だったりと城下町の建物はカラフルだ。


 玄関の扉を開けて「ただいま〜」と私は笑顔で入った。そして私は小さな子供にタックルを受けて玄関の外の床に勢いよく子供と一緒に倒れた。


 ドスンッ


 紙袋に入っていた折り紙の輪っかを繋げた物はタックルの直撃を受けて無残にも潰れた。


「いやーー!? クシェルさま!?」


 この悲鳴は孤児院の中から聞こえた。私の侍女は倒れた私を見下ろして、何やってるの?という目で見てくる。


 何やってるの? じゃなくて、助けてよ! 私あなたのご主人だよ! もうほんと立場わかってる? 私同僚じゃないよ? むしろ私の方が立場わからなくなった!


 私は結局孤児院の中から慌ててきた40代頃の女性の院長に助けられた。子供は「えへへ」と笑っているだけで、タックルした訳を話さなかった。


 まあ。遊んでただけよね。私をなめている訳じゃないよね多分。


 クシェルは暗い笑みを見せた。院長は「コラっ」と子供を叱る。子供は「ごめんなさい」と院長に謝った。


 ーーえ? 私は? 被害者私。


 院長は「ちゃんとクシェルさまに謝りなさい」と叱るが、子供は「えへへへ」と笑って奥の部屋に逃げた。


 ーーがーーん。やっぱり私なめられてる。


 クシェルはショックを受けた。院長は頑張って励ましてくれた。


 ーー院長さん優しい。やっぱり大人は違うね。(王様と側妃は除く)



* * *




 その後、孤児院ではささやかなパーティーが開かれた。折り紙の輪っかを繋げた飾りは不恰好だが、マッシュポテトで作ったケーキだが(自作)、私は幸せな誕生日を迎えれた。


「お姉ちゃんおめでとう〜」


 小さな女の子が可愛く笑いながらカラフルな紙吹雪を私にばらまいた。ひらひらと舞い散る紙にクシェルは感動した。最高のプレゼントだ。


 たとえ護衛(フェルディ)と侍女が無表情に「おめでとうございます」と無感情にぱちぱちと手を叩いていても私は嬉しい。そう。私は慈悲深い王女なのだ。


 ケチな王女の誕生日はこうして終わった。












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