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何ということでしょう

 






 舞踏会にて、ホルガー公爵はフェルディナントを遠目に観ながら前国王に話しかけた。


「困るのですよ。貴方の世でないと私達は幸せになれない」


 覇気のない緑の目を伏せたアルノー。既に野心は無くなった。


「知ってるだろう。モッペルが人質に取られた。私は動けない」


 ホルガー公爵は好戦的な笑みを浮かべた。


「おや? あの事を話しても良いのですか? あの事を知れば貴方は間違いなく処刑でしょう」


 アルノーは疲れ切った表情であった。


「好きにしろ。話せばお前も唯じゃ済まされない」


 ホルガー公爵は「やれやれ」とつまらなそうに肩をすくめた。




 * * *




 戴冠式から1週間過ぎた。グランツ国シュトルツ城にて1人の貴人の健康診断が行われた。眼鏡の医師は上半身裸の膨よかなお腹の17歳の少年に笑顔で告げた。


「生きてるのが不思議なくらいに心臓に負荷がかかってるねー。痩せなきゃ死ぬよー」


 膨よかなお腹の少年ことモッペルは肉がついた瞼を精一杯押し上げた。


「……なん……だと?」


 やれやれと医師は飽きれてもう一度言う。


「だから、痩せなきゃ死ぬよー」


「フォッ!?」


 ショックのあまりモッペルは泡を吹いた。それを壁に持たれて監視していたミンナはモッペルの肩を叩き爽やかな笑みを浮かべた。


「騎士団に入りなよ」


「フォッ!?」


「あっ。断れば多分死ぬね君。こうして牢から出る機会なんてなかなかあげないし、牢にいたらゴロゴロ生活でねー。この先は医師の言った通りに……」


 こうして半ば強制的なミンナの勧誘の元モッペルは騎士団に仮入団し、朝から晩まで扱かれた。


 それから1カ月。

 何ということでしょう。


 before


「えぐっ父上ぇぇぇっ!! なんで俺がこんな目にぃぃぃっ!? あの女か男か分からんやつは何なのだぁぁぁっ!? 俺を平気で投げ飛ばしてきてっあんなの人間じゃないぃぃぃ!!」



 after


「ふっ。山とは友達だよ。今までの自分が恥ずかしい。えっ? ミンナ様? 俺の人生の師だね。あの爽やかな笑顔で扱かれる瞬間は宝物だ」



 見た目と共に性格も良くなった(?)モッペルであった。




 * * *




 クシェルはグローリエの農地を見学していた。何故だって? 趣味ですから! 私はグローリエで豊富に取れる野菜に興味があった。


 ーーどんな方法なのかしら〜? グランツでも生かせないかしら〜?


「なんだ嬢ちゃん。今日も来たのか? 手伝ってみるか?」


 農家のおじさんは鍬で畑を耕していた。クシェルは嬉しくて笑顔で答えた。


「はい! 是非!」


 鍬を持って「ほいさー!」と力を入れて土を耕した。農家のおじさんは感心して「お嬢ちゃんも農家かい?」と褒めてきた。


「いえ! 王家です!」


 おじさんは顎に手を添えて「オーケイ?

 ふむ。外国語かね」と考えた。


 日も暮れてクシェルは帰ろうとした。


「ありがとう。助かったよ。これ受け取ってくれ」


 キャベツにレタスにアスパラガスをカゴいっぱい受け取った。


「こんなにたくさん良いんですか?」


「ああ。新国王が即位して年貢の余裕が出来たからな〜。去年の今頃は切羽詰まって人にあげてる場合じゃなかった。いや〜嬉しいね〜」


 農家のおじさんはフェルディの事を歓迎しているようでクシェルは嬉しくなった。


「新国王はフェルディナント様だろ? あの人も喜んでるだろうな〜」


「あの人ですか?」


 農家のおじさんは周りに人がいないのか確認してクシェルにこそっと話した。


「ここだけの話。フェルディナント様の母君の元侍女さんが近くに隠れ棲んでいるんだ。何でも母君は毒殺されたらしいじゃないか。その犯人を目撃したから命を狙われてるらしい」


 ーーえっ!? フェルディのお母さんって毒殺されたの!? そんな!?


 クシェルはショックで頭が真っ白になった。


 ーーお父さんは叔父に殺されたのにお母さんも誰かに殺されたの!? なんで、フェルディばっかりそんな目に遭うの!?


「おじさん。私その元侍女さんに会いたいです」



 ぼろぼろの小屋にその元侍女さんは住んでいた。一人暮らしのようだ。農家のおじさんが野菜を届けるのについて来たクシェル。元侍女さんは私に笑いかけた。白髪の目立つ茶色の髪の女性だ。


「娘さんですか? 寂れた場所なのにありがとうね」


 クシェルは首を振った。


「私はフェルディナント国王陛下の婚約者、クシェル・エーレ・ファン・グランツです。突然のご訪問をお許しください」


 元侍女と農家のおじさんは固まった。暫くお待ちください。元侍女は正気に戻ったようで「……あの地味で有名なクシェル様ですか」と恐る恐る尋ねてきた。


 ーー地味? まあ地味か。うん。


「はい」


 モッペルに言われた時と違い冷静に受け止めたクシェルであった。元侍女は気まずそうに目を伏せた。


「すみません。不快でしたよね」


「いいえ。言われ慣れてますので気にしないで下さい」


「殿下が何故こんな場所に……いえ、そうですね。理由は一つしかありませんね」


 元侍女は何かを堪えるように天を仰いだ。


「フェルディナント様に伝えて欲しい事がございます」


 語られた内容は生易しいものでは無くクシェルの心を掻き乱した。





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