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悩み (ミンナ視点)

誤字報告していただき本当にありがとうございます! 本当に助かりましたm(__)m

 





 さて、グランツ国はその後どうなったのか少し覗いてみよう。


 次の王は誰になるのか? 跡取りの問題が残るグランツ国。側妃の息子、第一王子ベンノと正妃の娘、第一王女ミンナ。クシェルがグローリエ国に嫁ぐと決まり、この2人の戦いとなる。お見合い騒動でクシェルを助けフェルディナントに協力した事で、ミンナが優勢であった。


 優美なアール・テコの壁紙の廊下でミンナは珍しく悩んでいた。クシェルを助けたことは後悔していない。だが、不味いな。


 ーークシェルに王位を継承して欲しかったのに、計画が狂った。このままでは私が継いでしまうぞ。


 まだ確定した訳でもないのに、周りはミンナが次期女王だと思い込んでいる。


 ーー貴族どもは明らかに私に媚を売ってきた。今辞退しても拒否されそうだ。かといってベンノが王になって側妃が調子に乗るのは問題だ。私は王族ではないし、その問題を抱えたままで果たしてやっていけるのか? 母上私はどうすればいいのでしょう。


 ミンナは胸に大事にしまった母からの手紙を読み返した。


『もしも、自分の生まれの事に後ろめたくなり息苦しくなったらいつでも真実を話しても良いのですよ。』


 胸が苦しい。


 ーーもしかして、この時を予想してのことだったのか。


「姉さんどうしたの?」


 考えているところにイルザが通りかかった。眼鏡越しの瞳は真っ直ぐに私を見上げる。


「イルザはどうして男が嫌いなんだい?」


 正直あまり気にしてなかった。ただの個性だと思っていたが今は気になって仕方ない。

 イルザの表情が曇る。話したく内容なのだと察した私は手を振り「この話はやめようか」と自ら中断した。イルザは俯いて考えいたがミンナの肩に手を当てて先ほどより強い光が宿った瞳が射抜く様に私を見た。


「姉さんには聞いてほしい。姉さんに押し付けてしまう私の罪を償いたい」


「罪。随分と物騒な言い方だね」


「間違ってないでしょう? 継承権の話、私は辞退したから無責任だって思っているでしょ? たしかに私は逃げていた。無責任だった。姉さんを今苦しめているでしょう」


 確かにそう片隅で思った。しゃんとした自分は仕方ないと受け止めようとしているのに、狡いと思った自分がしっかりといる。


「ただのわがままなの。昔社交界にデビューした年に一緒に踊った貴族の子に私はいじめられたの「側妃は卑しい生まれだ。お前の血も半分は卑しい。ならば教育を施してやろう」と暗闇の庭に連れてかれてそれでっっ」


 苦しそうに話すイルザをミンナは優しく制した。


「もういいよ。わかった。君は悪くない。もしもその子を恨んでいるなら私が代わりに仕返ししよう」


 本気でやりそうな気迫にイルザは複雑な安心感に包まれた。


「ありがとう。姉さんなら必ず助けてくれるって信じてる。まあ、あの時は兄さんに助けてもらったけどね」


 意外だな。あの年中引きこもりで脱力したベンノが妹は助けるのか。


「兄は平気なんだね」


 うーん。と顎に手を当てて考えるイルザ。


「ひょろっちょろいし。私でも力で勝てるわ」


「そうなんだ。あははは。そんなに弱いんだ」


「……弱いけど、メンタルは強いよ。姉さんより強いかもね」


「そりゃいい。ライバルはそうでなきゃね」


「お願いだから、平和的に解決してね。クシェルが苦しむわ」


「ありゃ。それを言われると気をつけないとね。クシェルには心置きなくフェルディの元に嫁いでほしいね」


「姉さん。無理に優しくあろうとしてない? 優しさを演じてない?」


 空気が緊張感を帯びた。実のところ演じてはいない。心からイルザのことも大事だし、クシェルのことも大事。血が繋がってなくとも大事な妹だ。


「してないさ。だから、私は言わないと気が済まない。ちょっと用事があるから失礼するよ」



 * * *



 イルザを置いて玉座の間に私はたどり着いた。玉座に座る王様は今日もクマのアップルケをつけたマントに服に金の折り紙の冠だ。


「決めたか?」


「その前に私は王様に秘密にしていたことを話さねばなりません。護衛の方は席を外してほしい」


「わかった。従え」


 ハッと敬礼した護衛は静かに扉の外へ出た。


「して、秘密とは?」


「お許し下さい陛下。私は貴方の娘ではありません。母の遠縁の親戚の子供なんです。母は悪くありません。全ては私に罪があります。どうか罰して下さい」


 臣下の礼をとるミンナを静かに見下ろす王様。くるんとした髭をくるくる弄りながら喋り始めた。


「知っていた。王妃の苦しみもすべてな」


「……そうでしたか」


 なら何故私は生きているのだ。王を騙した大罪人として処刑されてもおかしくない。


「不思議か? もしも正妃が不貞をしたなら許さなかったが、ミンナは儂にも必要な存在なんじゃ。お前が娘でないと気付いた者など儂と事情を知るものしかいない。王妃は良く耐えた。良く育てた。だが、血が繋がらないことは問題だ。ミンナもわかるだろ?」


「はい。わかってます。私は一生独身を貫きます。だから、王位に関しては継げないです」


「独身で女王になってくれぬか? 制限期間付きだ。グランツとグローリエを統合するまで耐えてほしいのだ。この話はフェルディなら飲んでくれると願っておる」


「統合? フェルディにグランツを渡すのですか? そんな事が出来るのですか?」


「お主がやるのだ。血が繋がってない故に後ろめたいからフェルディに譲れる。そうだろう? お主じゃないとできない」


 私じゃないとできないこと確かにそうだ。私は王位にすがりつきはしない。元よりクシェルに譲る気だった。だから、その夫のフェルディなら喜んで渡せる。


「王様。喜んで女王になります」


 爽やかな笑顔なミンナであった。



 こうして、独身の女王が誕生した。グランツとグローリエが統合された後、彼女は軍師として采配を振るったそうだ。





フェルディがクシェルに贈ったペンダントはフランスのリモージュという物です。ここまで読んでいただきありがとうございます。読みやすくなるように、読んでいただけるように精進して参ろうと思います。

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