変装 (フェルディ視点)
フェルディが叔父から王位を奪い返す。それにはグローリエ国民の協力も必要だ。フェルディを追いかけてきた城下町の工房で働く少年エーミールに相談すると、待っていましたと言わんばかりに仲間に呼びかけると張り切った。クシェルが旅立って2時間程経過した。とにかく時間が惜しかった。ミンナは自分の騎士団の団員を出来るだけ集めて指示をとばした。
「目立たない様に小隊を編成し別々に行動する。騎士だとバレないように各々変装をするんだ。万が一グローリエが会場であればその時はまた指示を出す」
大勢の騎士の前に立つミンナの格好を見てフェルディと騎士達は目を見開いて固まった。白いナースの格好をしていたのだ。白いスカートは足首まで長い。フェルディはミンナの騎士の格好以外見た事がない。それはこの場にいるほとんどの騎士もだった。
ーー女装姿初めて見た。女性だから当然だが、よく似合っている。
「……ぼんやりしてどうした? さては私の女装姿に見惚れてたな。仕方のない奴等だ」
ミンナはそう言って呆れた。
ーー自分で女装って言ってるし、見惚れていたというか。女だった事を忘れてたというか……。まあ白衣の天使に見えるな。奇跡が起こせそうなぐらい神々しい。
白金の髪と白い服に太陽の光が反射して後光が差したように輝いていた。
騎士に混じるシャルロッテが「お姉様素敵ーー!!」と黄色い声を張り上げた。それにミンナが「ありがとう。シャルロッテのおかげだよ」と感謝する。
「シャルロッテが衣装を提供してくれた。みんなは好きな衣装を選んで変装してくれ」
シャルロッテが手を叩くとメイドが様々な職業の服が山積みされた荷台を引いてきた。
ーー……仮装パーティーみたいだな。
フェルディは大事なことを手を挙げて聞いた。
「クシェル殿下の場所は知っているのですか?」
そもそもそれが分からないと追う事など出来ない。
「安心したまえ。予め団の者に後を追わせてある。場所は逐一報告するよう言ってある。さあ皆の者出発だ!!」
ミンナの頼もしい姿にフェルディは見習いたいものだなと感心した。
ーーきっと良い女王になれるのに王位継承権を辞退するには惜しい人だ。
その後、グランツ国王がフェルディとミンナの行動に気づき騎士を派遣して止めに来たが、変装していて誰も捕まらなかった。
* * *
そして3日後。クシェルはグローリエのメルク侯爵の屋敷にいる事がわかった。フェルディは変装して屋敷の使用人に紛れていた。キッチンでは侍女とシェフが雑談していた。フェルディはその横で濡れた皿を布で拭いていた。
「どうやら上手くいったそうよ」
「本当か!? いやぁ。良かった良かった。ガーデニアのお茶は効いた様だなぁ。俺の首は繋がったままだ」
「もうぐっすり寝てたわ。眠れないときに私も飲もうかしら。グローリエってブラックよね〜。侍女でも毎日肉体労働で疲れちゃう」
「せっかく助かった命だ。ここでこのまま働いても未来はない。どうだ。俺と一緒にグランツに逃げるか?」
「素敵なお誘いね〜。……まさかプロポーズのつもり?」
「そうだと言ったら?」
「ふふふ。どうしようかしら〜」
ーー聞いてられん。
フェルディは静かに2人の横を通り過ぎキッチンから出た。黒の長いウィッグで頭が重いし、足がスースーする。
後ろから「あれ? メイドの子どこに行ったの?」と侍女の声がした。
「あんな無表情なメイドほおっておけよ。そこそこ美人だけどさ」
「ふーん。あっそう。ああいうのが好みなんだ」
「何言ってるんだ。お前が一番可愛いよ」
フェルディの格好は白いフリルのついた黒いワンピースに白いエンプロンに、頭に白いカチューシャをつけたメイド姿であった。
これを選んだ理由は絶対にフェルディナントだとバレないからなのと、シャルロッテに着てほしいと勧められたからだ。
外が何やら騒がしい。剣戟の音から、戦闘になったと予想する。
無表情なメイドは掃除道具入れからモップを取り出して外へと駆け出した。