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決断 (フェルディ視点)

 






 時は3日前まで遡る。フェルディはお見合いの為に馬車に乗るクシェルを見送っていた。同行するのはグランツ国王直属の護衛達。フェルディよりも強いのは確実で文句の付けようもない。


 ーー俺が守る必要はないという感じだな。


 無性に遣る瀬無い気分だった。結局クシェルに頼られることはなかった。ダイナが同行しているので心配はないと思いたい。


 ーー何で髪染めてるんだ?


 馬車に乗り込むダイナの髪は茶色であった。それが気になって仕方ない。城の門でしばらく考えていると後ろから肩を叩かれた。


「やあ。クシェルの見送りかい? 貴殿はお見合い相手は知っている?」


 振り向くと白金色の髪が太陽の光を浴びて煌めく、白い騎士服の男装姿のミンナが、爽やかな笑顔でフェルディに話しかけてきた。


 ーー王女殿下も知らないのか?


「知りません。ミンナ様は?」


「知らない。王様を脅してみたけど、吐かなかった。一体誰なんだろうねぇ」


 残念そうに首を横に振るミンナ。


 ーーベンノ殿下に剣を向けたように陛下にも向けてないだろうな。恐ろしくて聞けない。


「……どうして隠す必要があるのでしょうか」


「そうだねー。考えられるのは絶対に反対する人物だからとか?」


「反対されるような人物でもお見合いをするのですか?」


「国の為になるのならばするかな。貴殿もそうだっただろう?」


 フェルディは黙った。グローリエ国では確かに王族は国の利益になる結婚を求められた。政略結婚が主流で恋愛結婚は稀だ。フェルディの母は政略結婚であった筈だ。


 ミンナの表情がかげる。


「それで心を壊す者もいる。……あー嫌だな。もやもやする。やっぱり王様もう一度脅そうかなぁ」


 ーーそれは本当にやめてほしい。あれ? そういえばミンナ様は結婚していないのでは?


「ミンナ様は結婚しないのですか?」


「うーーーん。それは秘密」


 人差し指を唇に当ててウインクするミンナ。


 ーー……何か事情があるようだな。深くは聞くまい。


 ミンナは誰かに気づいて手を振った。


「おーいイルザ! 君はクシェルのお見合い相手知らない?」


 ミンナが見ている場所をフェルディも見ると、黒に近い色合いの真っ直ぐの長い髪に眼鏡をかけた美しい顔立ちの女性、イルザが門へと歩いてきていた。荷物を抱える侍女が3人ついていた。イルザはフェルディを見て「ぎやーーー!?」と叫ぶ。ミンナが走り寄りイルザの叫びはぴたりと止んだ。


「ねぇ知らない?」


「……クシェルのお見合い相手? そんな恐ろしいイベントに向かったの? 可哀想に」


 イルザはクシェルに同情した。フェルディが近くにいるのに逃げないとは珍しい。


 ーーミンナがいると安心しているのか? 男でもミンナには力で敵わないからか? ……イルザにも深い事情がありそうだ。


「そうなんだ。しかもお見合い相手を私達に教えてくれないんだ。どれだけ恐ろしい相手なんだろうね」


「……心当たりならあるわ。多分グローリエの王子ね。あそこの縁談を蹴った記憶があるわ」


「「グローリエ!?」」


 フェルディとミンナは顔面蒼白になった。イルザは冷静に可能性があることを説明する。


「グローリエ国王の手紙はまず姉さん宛に届いているのよ。モッペル王子との縁談よ。姉さんには伝わってないけど、賢人会議の結果断ることになったのよ。そして次に縁談がきたのは私。もちろん断ったわ。でもそうなるとグローリエに失礼よねー。だから、次縁談がきたらお見合いだけでもしないと反感を買う可能性があった。次はシャルロッテにくるかなと思ったけど、そんな話聞かないし、とばしてクシェルにきたようね」


 ミンナは俯いて手を握りしめていた。震えていて唇を噛んでいる。フェルディは頭がくらくらしてきた。


 ーーよりによって、グローリエ!? 叔父上の息子ってあのでぶっちょ!? 最悪だ。クシェルを人質にしてグランツ国に攻めてくるに違いない。


 クシェルを連れ戻したい。だがそれが許される筈がない。フェルディは理性と感情の狭間で葛藤した。


「……フェルディ。王になる気はないか?」


 ミンナは真剣な眼差しでフェルディを見つめる。


 ーークシェルも言っていたな。今決断するべきなんだよな。


 フェルディは目をつぶって考えた。思い浮かぶのは、王太子に任じようと言った父上、叔父からフェルディを庇った護衛、慕って追いかけてきたダイナ達、そして私のお家に行きましょうと手を差し出すクシェルだった。


 ーー何を迷っていたんだ。答えは6年前から決まっていた。


「あります」


 ミンナは目を見開いて驚いたが、すぐに満足気ににっこりと笑った。


「私のためにも手を貸そう」


 手を差し出すミンナ。フェルディはそれを握った。




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