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戦闘 (ダイナ視点)

 



 ダイナは目を閉じるクシェルを僅かに驚きながら見つめていた。後ろの護衛がじっとして動かないクシェルの様子を訝しむ。


「侍女どのクシェル様はどうされました? 何やら様子がおかしいですが……」


 ーー私の名前は伏せてくれた。クシェル殿下の命令をきちんと聞いている証拠か。


「……眠ってます」


「え!?」


 慌てて護衛達はクシェルの顔を覗いた。

 器用に座ったまま、すーすーと寝息をたてて眠っていた。前に座っていたモッペルは「はしたないな」と自分のことを棚に上げて眉間に皺を寄せた。メルク侯爵は「まあまあ。長旅でお疲れなのですよ」と宥めた。


 本当に疲れなのかと疑う護衛はメルク侯爵を疑う。


「メルク侯爵。もしやお茶に何か入れたのでは? 」


「何を申しますか!? そんなわけございません!!」


 護衛はメルク侯爵に詰め寄ろうとしたが、それをダイナが引き止めた。


「侯爵様の言う通りでございます。クシェル殿下はただ疲れて眠っているだけです。部屋を用意していただけますか?」


 メルク侯爵はほっと安堵し快くそれに応じた。


「もちろんでございます。お運びいたしましょう」


「ありがとうございます。ですが、私が運びます」


「え? ですが、女性ではその……運べないのでは?」


「大丈夫です。お気遣いなく」


「私達が運びます」


「いえ、クシェル殿下に殿方が触れないでください。お願いします」


 ダイナの言い分にメルク侯爵と護衛が黙った。ダイナはクシェルを易々と抱えて運ぶ。ドレスは重いはずだ。侯爵はダイナを屋敷へと誘導するがたどり着くことはなかった。


 草木の騒つく音とバタバタと足音が響く。赤い騎士団の服を着た男たちがダイナとクシェル、護衛達を軸にして円になる形で囲った。騎士団の男たちは皆鞘から剣を抜き剣先を私達に向けた。グローリエをよく知るダイナは驚かなかった。


 ーーやはり罠か。


 護衛達は焦り「どういうことだ侯爵!!」と叫ぶ。


 騎士達の後ろに移動した侯爵は「いやー。良かった良かった。眠ってくれて良かった」と歪な笑みを浮かべる。


「ご苦労であったな侯爵」


 騎士団が道を開けた。1人の赤髪に緑の瞳の40代頃の男が歩み寄る。グローリエ国王であった。ダイナは反射的にブーツに括り付けていた短剣を取り出して剣先を国王に向けた。


 ーー父上!! 貴方を殺したこの男が憎い!!


 睨みつけるダイナに国王は余裕綽々に嘲笑う。ダイナが離した為、クシェルは床に崩れ落ちた。


「そんなに私が憎いか? ……まてよ貴様見たことがある。もしや、ダイナか?」


 ギリッと歯をくいしばった。


 ーー覚えていたのか。


 表情を険しくするダイナに国王は肯定と受け取る。


「なるほど、グランツで生きていたのか。生きていた褒美に貴様の父親の最期を教えてやろう。私に歯向かったあの護衛はフェルディナントを逃がしそして私が殺してやった。私につけば良かったものを、力のない子供を庇うなど愚かだ」


 父の死を聞いて、全身の血が沸騰した様に熱かった。


「貴様ーー!?」


 ダイナは我慢ならなかった。この男がいる限り私は心休まらない。安寧を得るにはこの男が邪魔だ。衝動的に走り出した。短剣を男の胸を狙って突き刺す。しかし、間一髪のところで剣で防がれ鍔迫り合いになる。短剣では不利だと悟るダイナは後ろに飛づさる。国王は「逃さぬ」と好戦的な笑みを浮かべてダイナに剣を振るう。


 ダイナ達に触発され護衛と騎士も戦いを始める。数は明らかに騎士の数の方が多いが、護衛の一人一人は一騎当千の猛者だ。易々とやられたりはしない。均衡した戦いであった。


 ダイナはひたすら防戦していた。クシェルの元まで後退を余儀なくした。


 ーー王女様! いつまで寝てるんだ!


 私の心の叫びに応えるように、クシェルは手を僅かに動かした。勝ちを確信した国王は剣をダイナに勢いよく振り落とす。


「終わりだ」


「それはどうかしら」


「っっ!?」


 国王は動きを止めた。背後に回ったクシェルが国王の首にナイフを突きつけていた。


『私は寝たふりをするから、バレないように振舞ってね』


 クシェルが目を瞑る前にそう耳打ちしてきた。


 国王はたかが小娘だと侮っていたが首にナイフを当てられたら降参するしかない。


「降参してくれるかしら? 私は本気よ」


 クシェルは冷たく国王に囁いた。呻く国王。その様子に騎士団の動きがぴたりと止まった。動かない騎士団に戸惑う護衛はクシェルが国王にナイフを突きつける様子を見て驚いた。無理もない。人なんて1人も殺した事もない王女様なのだ。


 ガランッ


 国王は剣を捨てた。


「わかった。降参しよう。皆の者剣を収めよ」


 それに従い騎士達は剣を収める。


 ーー予想を裏切る王女様だ。


 ダイナは思わず笑みがこぼれた。


  ダイナもクシェルもこの時油断した。1人の騎士がクシェルの背後に迫り首に手刀を落とした。


 クシェルは気を失った。





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