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お茶会

 







 お茶会と言う名のお見合いの当日となった。その日は爽やかな青空だった。グローリエ国の北の端、グランツ国との国境沿いの村の貴族の屋敷で執り行われた。本日この場を提供したのはグローリエ国の貴族、メルク侯爵だ。メルク侯爵は贅肉のお腹が目立つ。先程からこの村の名産の豚肉について説明している。


 ーーなるほど、だからそのお腹なんだ。モッペルも大概だな。ご飯が美味しいからグローリエの王侯貴族ってみんなこんな大きいお腹なのかな?


 傭兵で稼ぐグランツの貴族は筋肉質な人が多い。お国の事情が体型に如実に現れて面白い。


 白いクロスが敷かれた横長のテーブルに備え付けられた鉄製の椅子に座っているクシェル。机を挟んで前に座るくるんとした赤い髪にボタンが弾けそうなぐらい膨よかなお腹のモッペル。顔にも肉がついていて目が細い。お茶会なのにソーセージを出されてモッペルは美味しそうにパクパク食べる。


 ここは屋敷の庭で花壇には赤いダリアやサルビアが咲いてる。赤に埋め尽くされた庭からはこの国の苛烈な野心を感じた。


 お茶をすすりながら静かにそれを眺めるクシェル。後ろにはグランツ国王から借りた護衛が並ぶ。横でお茶を淹れるのは髪を金色から茶色に染めたダイナだ。身元がバレると危険なフェルディと共にシュトルツ城に置いていこうと思ったが、ダイナは頑固としてついてくると言って聞かなかった。冷たい水色の瞳を見上げてクシェルは珍しいなと思った。


 ーーそれだけ仲良くなった証拠かしら?

 そうだったら嬉しい。


 ガチャガチャ


 前から食器にナイフとフォークが当たる音が響く。その品のない音に眉間に皺がよる。


「モッペル様は食器で音楽でも奏でているのかしら? とても愉快な音ですね」


 訳すと ガチャガチャとうるさい。 なのだが、嫌味に気付かないようで、モッペルは「音楽? そんなもの奏でてないぞ?」と構わずにガチャガチャと食器を鳴らす。


 ーー……頭に響くからやめてほしい。こんなんだったらテーブルマナーを学ぶ必要は無かったのでは?


 イラッとしたら糖分が欲しくなった。クッキーをさくっと食べて頭に糖分を補給した。モッペルが食事を止めて「そういえば」と私を見て話し始める。ようやくお見合いとしての会話を始めるのか。お茶会が始まって軽い挨拶と自己紹介だけしかしていなかった。


 ーー良かったお見合いだって忘れてたわけじゃなかったのね。ただのお食事会になったかと思った。


「お前は地味だなぁ」


 イラッ


「はい?」


 ーー今なんつった?


「地味だなと言ったのだ。お前の姉達は皆美人だったから少し期待したのだが、噂通りだな」


 ーー……聞き間違いじゃなかった。もうちょっと言い方ってのがあるでしょう!?


 クシェルから漂う不穏な空気に気づきメルク侯爵は固唾を飲み見守る。腐っても王族な私は笑顔だった。


「……お気に召しませんでしたか?」


 モッペルはふむと腕を組んで考える。


「父上が申すに、寝てみないとわからないとの事だ。我慢してやらん事もないな」


 ーー最低! 死ね!


 クシェルは下品な物言いに頰が引きつった。グランツ王が「......もしも、見合い相手が気に入ったのなら、考えるが......多分、あり得ぬが......」と言っていた理由がわかった。


 ーーこいつと婚約するなんてあり得ないわ。うん。決めたこの場は適当に濁して後で断わろう。


 適当におだてとこう。だが、全然褒める要素が思いつかない。そこで思いついたのがこの言葉。


「素敵な庭ですね」


「……そうか? オタカル城の方が広くて美しいぞ。広い池にハスが咲いていてそれを舟を漕いで観るのだ。美しいぞ」


「まあ。素敵ですね」


 ーー……貴族の邸宅の庭と城の庭と比べるなよ。


 この庭の持ち主はどう思ったのか気になり視線を向けるとメルク侯爵が冷や汗をかいてある一点を見つめていた。そちらに視線を向けても低木樹があるだけで誰もいなかった。


「侯爵様いかがなさいました?」


「っっ!? い、いえ!! もうそろそろ新しいお茶を出そうと思いまして。持ってきなさい。……こちらはここの名産の薬茶でございます。是非召し上がって下さい」


 侯爵に命じられた侍女が花柄のポットを持ってきた。それを受け取ったダイナは空になった私のカップに注ぐ。湯気と共に花の香りがした。その香りに頰が緩み心が和らいだ。


「いい香り」


「そうでしょう。こちらは金銀花といって元は東方帝国にあった植物です。熱や肌の病気に効きます」


「まあ。素敵。肌にいいのですか。女性に嬉しい作用ですね」


「はい。是非共グランツ国で女性方に勧めてみて下さい」


 ここに来るまで3日も馬車を走らせていた。夜は宿で休んだが、ほぼ馬車で座りっぱなしで体力を消耗した。クシェルは凄く疲れていた。薬茶の香りにより疲れきった身体を心地よい睡魔が襲う。カップに口をつける。


 ーー眠い。


 ダイナを呼び、耳打ちすると、私はぐたりと背もたれにもたれて目を閉じた。








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