再会
山を越えて小さな村にたどり着いた。黒く短い髪の男の後ろ姿を見つけて走り出すクシェル。
ーー追いついた! 良かった!
「フェルディーー!! 待ってーー!!」
黒髪の男はこっちを振り向いた。目を見開いて驚いていた。クシェルは勢いよくフェルディの胸に飛び込んだ。フェルディは少しよろけたが転ばずにクシェルを受け止めた。
「何できたの?」
不思議そうなフェルディにクシェルは頭にきた。
「くるに決まってるじゃん!? あんな……あんなお別れ嫌だよ……。嫌いでもいいから側にいてよ!! 嫌いなところ直すから!!」
フェルディは「……違うんだ。嫌いって言ったのは、嘘なんだ。クシェルには言えないけど、事情があるんだ」と呟く。
その言葉に目を輝かせて安心したクシェル。
「嫌いじゃなかったのね? 良かった!! あのね。貴方の事情はダイナから聞いたの。でも、大丈夫よ! 心配ないわ! 地味な私の側にいても誰も気にしないわ!」
フェルディはそばでじっと立っているダイナを見て「本当に喋ったのか?」と確認した。ダイナはこくっと頷く。それを見て呆れたフェルディ。クシェルをとりあえず引き離す。
「なら、余計に側にはいられない。うっかり正体がもれたらたまったもんじゃない」
ーー嘘だね。フェルディは自分のことよりも私のことを案じてるんだ。私が隣国の元王子を匿ったとグローリエ国王に知られれば罪に問われるからだ。
クシェルは力強くフェルディの目を見つめた。
「フェルディ。私は城から無断で出て来た。今頃、大騒ぎかもしれない。でも、私はフェルディが城に戻るまで絶対に帰らない。フェルディのところにいる!!」
フェルディは眉間にしわを寄せる。
「……城に戻るんだ。……ダイナ。クシェルを頼む」
「絶対に帰らない!!」
「無理です。ご自分で面倒をみて下さい。私はあなたの護衛で、クシェル様の護衛ではありません」
言うことを聞かない2人に頭を抱えるフェルディ。横にいる登山家の格好の少年が「フェルディ様。諦めましょう。仲間もたくさん集まってきたし、城にいた方が目立たないと思います」とフェルディの肩に手を置く。
周りを見てみると、20人ぐらいの服装が様々な人達が集まっていた。昔孤児院にいた顔ぶれもいた。
ーーもしかすると、みんなフェルディの仲間?
「どうして、こんなに集まった? ほっといてほしかったのに……」
愚痴るフェルディの様子から周りは仲間だったんだとわかった。
「無理ですよ〜。フェルディ様は人気者だって自覚ありませんね〜」
フェルディはがくりと項垂れた。クシェルはフェルディの仲間を見て嬉しくなった。
ーー良かった〜。フェルディ1人じゃなかったんだ〜。
「フェルディ。帰りましょ?」
フェルディはもう諦めたようで「……わかった」と渋々頷いた。
* *
フェルディを連れてシュトルツ城に戻ったクシェル。玉座の間に騎士に連れてこられた。立派な玉座に座る王様は、何やら怒っていた。
「バカモーーン!! 黙って城から飛び出して何日も不在にしおって。儂がどれほど心配したか!! おかげで高級な服間違えて着ちゃったではないか!? あの衣装係やってくれたわ!!」
今日も相変わらずクマちゃんのアップリケの服だ。
「ごめんなさいお父様。でも、普段から高級な服は着ればいいじゃない。王様なんだから」
逆に衣装係グッジョブだろう。
「おぬしにだけには言われたくないわい!! フェルディも手紙を寄越して、返事も待たずに去るでない!! 騎士団動かして捜索するところだったわ!!」
フェルディは諦めたように「申し訳ありませんでした」と謝った。
「罰としてクシェルのテーブルマナーの先生をやれー!! 口答えは聞かぬぞ!! クシェル!! 絶対にあのことを教えるなよ? はい。では戻ってよし!」
ーー講師代をケチる気だ。あのこととはグローリエ国の王子モッペルとのお見合いだ。誰にも言うなって言われてたのよねぇ。あっ。ダイナに話しちゃったから口止めしないとなぁ。
クシェルは焦った。フェルディはそんなクシェルを訝しげに見ていた