ドケチ二世と森のクマ様
序章とのギャップが酷いです。ご注意下さい。
今日はクシェル・エーレ・ファン・グランツの16歳の誕生日。予算が出せないと言う父の言葉にクシェルはただ頷いた。そこは私の部屋。部屋の隅では使用人達がせっせとカラフルな折り紙を縦長に切ってのりで輪っかにする作業をしている。
「すまぬなぁ。予算が出せなくておぬしの誕生日パーティーは開けないのだ。かわりにこれをやろう」
ベッドに腰掛けてた私に父が[肩たたき券]を渡してきた。それを私はまじまじと見て感嘆した。
「これはもしや下流階級の者たちの間で流行っている。親に感謝して送るあの券ではないですか!」
「さよう。いつでも儂の肩を叩きにきても良いのだぞ」
「え? 私が叩くんですか?」
「さよう。親への感謝を示す券なのだから、当たり前だ」
「え? 私の誕生日なのに?」
「さよう。誕生日とは親に感謝する日なのだ」
父は私と同色の茶色の短い髪にくるっとした髭の40代後半の王様だ。くるっとした髭の所為でお爺ちゃんに見える。金の王冠に赤くて長いマントはいかにも王様っていう感じの格好だ。
ーーなんだか。それっぽいこと言ったけど、只の言い訳よね。お金使いたく無いんでしょう。
じとーっと王様の格好を見た。
その王冠は金色の折り紙を張って作っていることを私は知っている。そのマントはこないだ処分したカーテンで作っている事を私は知っている。
ーーこのドケチめ!
王様の服には所々に王妃お手製のくまちゃんのアップリケが縫い付けられている。
陰で家臣達が父のことを「森のクマ様」って呼んでるのを私は知っている。多分本人は気づいているが、何とも思っていないな。王様の矜持はどこに行った?
そして、私は「ドケチ二世」と呼ばれているのも知っている。私が持っている服は全て姉達のお下がりだ。流石にサイズは直して着ているが、着すぎてやや布が傷んでる。髪飾りも鞄もそうだ。靴は流石に...いや一回しか履いてないのはサイズが合わないが貰ったわ。私は足が小さいから詰め物すれば良いのよ。多分私の足は子供の頃に頑張って小さい靴を履き続けたから平均より小さくなったと思う。
王様は髭をくるっと人差し指で回す。その姿にちょっとイラッときた。しかし、にっこりと微笑んで表情に出さないようにした。
「お父様。私はパーティーを開いてもらえなくても、プレゼントをもらえなくても一向に構いませんよ。だってお金がかかるんですもの」
我が国グランツは資源が乏しい国だ。大陸でも北の方のため、寒い土地だ。寒くては作物があまり育たない。漁業は盛んだが食料は主に輸入に頼っている。北大帝国との国境付近には山があり森があるが、山の斜面が急でその木を伐採するのにコストが凄くかかる。木材も輸入に頼っている。鉱山はあり金、銀、銅、鉄が採掘されるのだが、もうそろそろ尽きるのではと懸念されている。
なら何で稼いでるのか? それは技術力だ。指輪やネックレスなどはもちろん。細かい細工を施す技術が高いのだ。金を伸ばして紙よりも薄くする金箔は我が国の名産品だ。金箔の顔パックというのもあるが、私は勿体なくてやりたくない。金箔を使った絵画に金箔を貼った額縁その煌びやかな作品はこの城に飾ってある。
それに軍事力は高い。厳しい寒さに耐えてきた国民は基礎体力が他所の国よりも高い。傭兵学校もあり、他国にも傭兵を派遣する。それで稼いでいる。
だから、国の予算はそれなりにある筈だ。筈なのだが何故か、私のお小遣いが少ないのだ。多分、下級貴族並みだ。小娘1人生活するにはそれで充分だと思うだろう。しかし、私は仮にも王女であり、その小遣いの中から使用人のお給料も支払わなければならないのだ。そして、孤児院の運営費もそこから出しているので私が使えるお金など微々たるものなのだ。他の兄妹はそれぞれ才能を活かして国に貢献しているため、それで稼いでたり、少なくとも私よりはお小遣いを貰っている。そして、他の兄妹の誕生日パーティーは諸外国の人々を呼び盛大に行われていると思う。社交界デビューもまだの私は参加したことないから良く知らない。
「その代わりに、浮いた予算を私のお小遣いに回して欲しいのですが、よろしいでしょうか? 」
断らないわよね?少しは多くしてくれるわよね?
そんな期待も虚しく、王様は私の申し入れを「無理」と一蹴した。
「だってお金ないもん」
「うぐっっ」
金の折り紙の王冠にカーテンのマント、くまちゃんのアップリケが縫われた服は、その言葉に信憑性をもたらした。
わなわなと震えるクシェルに御構い無しに王様は一方的なお願いを言い残して、去って行った。
「またフェルディを借りてくぞ。誕生日おめでとう。それではな」
パタンとドアが閉まり、使用人がひたすら折り紙で輪っかを作るカサカサと言う音が部屋に虚しく響いた。