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キャンプ(クシェル視点)

 




 山は急斜面で登るのが大変だった。道は整備されているが、数十年前に整備されたのが最後だったのか吊り橋がぼろぼろで怖かった。木でできた階段もヒビが入っていて怖かった。


 ーー本当にここをフェルディは通ったの!?


 赤い夕日で崖は赤く染まっていた。クシェルは崖っぷちの細い道をロープを掴みながら歩いていた。一歩でも踏み間違えれば、数十メートル下の森へと落ちる。小石に本革の靴が当たり崖の下にころっと落ちていく。血の気が引いた。先に進むダイナが「もうすぐ夜です。暗くなるまでに崖を進みましょう。この先に小屋があるはずです」と冷静に言う。相変わらず無表情な彼女が驚くことがあるのだろうか。


 ーーフェルディが気を失った時は流石に驚いていたわ。フェルディ関連ではダイナはよく反応するわ。高潔な精神でそばにいると言われたな。フェルディの仕草って高貴な感じなのよねー。ダイナは見た目が綺麗だけど武闘派だし。フェルディは多分貴族様でダイナはそれに仕えていた護衛かな?


 割と的を得ている推測をするクシェルであった。




 * * *



 小屋に着き食事の支度をするクシェル。ログハウスの前のこぶし大の石で囲われた焚き火跡で、火付け石を使って持ってきた紙と拾った枝で火をおこした。そこにジャガイモをまるごと入れて焼く。あとはソーセージを串に刺して焼いて、酢漬けにしたピクルスとにんじん、玉ねぎが入った瓶から葉っぱのお皿に出すだけの簡単な料理だ。それを見守るだけのダイナは「王族と思えない手際の良さですね」と褒めているのか貶しているのかわからないことを言う。


「これぐらい普通でしょ」


 ジャガイモを火の中で串を使ってころっと回す。


「庶民なら普通なのでしょうね」


 ーー庶民かー。庶民と王族って何が違うのだろう。ただ豪華な衣装を着てればいいだけなら、王族っていらないわね。


 根底から王族を否定するクシェルであった。


「王族とか、貴族って何のためにいるんだろうねー? 庶民が王様でもよくない?」


 ダイナは頭が痛そうにして、クシェルに呆れた。


「己の欲望のためですよ。庶民に王座をみすみす渡すはずが無い。見下せる席を頑なに守る。それが王族と貴族です」


「グローリエ国出身だから、そんなこと言うんだねー。あそこの国は前の王様が病で亡くなってその弟さんが継いだんだったわね。前の王様の子供も病で亡くなったらしいじゃない。それから王族、貴族中心の政治になった。たとえその子供が生きていても今の王様が実権握りそうね」


 たわいも無い話だと思って言ったのだが、静かなダイナが気になり、顔を見ると、顔が蒼白だった。心配になり側に近寄るクシェル。


「ごめんね。もしかして、デリカシーに欠けていたかな? 事情が分からないと上手く話題を反らせないわね」


 ーーちょっと反省した。けど、この動揺の仕方から考えるとフェルディ関連か? 私王様と子供の話しかしてないのになー。フェルディがその子供だったりしてね。......これは笑えないな。まさか。え? ありえる。


 孤児院ではグローリエからの孤児を受け入れているが、孤児はフェルディに対して丁寧に挨拶をする。フェルディはまるで自分の子供を見るように優しく笑う。


 全てのパズルが組み合わさった。何故クシェルから去ったのか? グローリエからフェルディの存在が知られたらグランツの立場が悪くなる。グローリエが食料を売らなくなったら大変だ。まさに王であれば予想して回避せねばならぬこと。


「ダイナ......貴方達って一体誰なの?」


「流石に隠しきれませんね。貴女の予想通りです。私達は今のグローリエ国王の敵です。殺したくてたまりません。フェルディ殿が呼びかければ直ぐにでも戦になります。残念ながらフェルディ殿にはその気がないのですが」


「フェルディは優しいから、戦なんて望まないわ。戦はさらなる戦しか生まないもの」


「やらなければならない戦もあるのです。例え後悔しても、私は父の仇を討ちたい」


 冷たい瞳から熱量を感じた。ダイナの熱い魂を感じる。


「お父さんは、何故なくなったの?」


「フェルディ殿を庇う為に己の身を犠牲にして盾となりました。誇り高い父の死に私は敬意を払いたい。わたしも誰かを守って死にたい。叶うのなら、それはフェルディ殿が良いです」


 尊き父。それはダイナの道しるべとなる。


 ーー守って死にたい、ってまるで愛の言葉ね。


「やっぱりフェルディが好きなんだ!」


 ダイナがくすっと笑う。


「嫉妬しないで下さい。そういうのではありませんから、あくまで護衛としてです」


「はいはい。あっやっぱり違うとかは無しでお願いするわ。はい貴方の分よ」


 葉っぱのお皿に盛った良い焼き色のソーセージにほくほくのじゃがいも、酢漬けの野菜。即席料理にしては上々であったな。と自己採点した。


「これでどこにでもお嫁にいけますね〜」


 茶化してくるダイナに私はこれからのことを話した。


「実はグローリエ国の王子とお見合いすることになったの。その王子をこっちの人質にできないかしら?それでフェルディに王座を譲ってもらうの」


 ダイナは固まった。何言ってんだこいつって目で見てきた。


 ーーえ。でも。良い案じゃん。


「本当にびっくりする事をよく平然と言いますね。むこうもどうせクシェル様を人質にする準備をしてますよ。考えが似ているのでしょうかね。怖いわ。」


 ーー感心と共に何かを失った気分だわ。






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