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何がどうしてこうなった?(クシェル視点)

 






 王様の執務室から出るとフェルディがいなかった。数名の護衛のうち1番扉に近い護衛に「フェルディはどこに行ったの?」と聞くと「ミンナ様に話があると言われてついて行きましたよ。ミンナ様からかわりに私が護衛としてクシェル様につくよう命じられました」と答えた。


 ーーまたか。フェルディよ。あなたは一体誰の護衛なの?


 溜息をつくクシェル。


「わかった。護衛お願いね」


「はい!」


 クシェルはゆっくりと歩き出した。孤児院に行って子供達と遊ぶのだ。一度自分の部屋に戻り着替えねばならない。


 ーーこうちょこちょこ連れてかれるなんてフェルディは人気者なのか。ま、まさかミンナ姉はフェルディのことをっっ!?そ、そんなぁ!私邪魔者じゃないの!?……あっミンナ姉の騎士の格好思い出したら、冷静になれたわ。


 騎士の格好のミンナに顎くいされるフェルディを想像してそれ以上考えるのをやめた。何だか危ない。


 クシェルの表情は百面相になっていたが、残念ながら後ろについてくる護衛には見えなかった。見えていたらきっと面白くて吹き出していたであろう。


 中庭に面した窓を覗いて、フェルディを捜してみるとちょうど中庭にいた。ここはちなみに2階だ。


 ーーいた!あっ!侍女もいる!2人まとめて回収よ!


 クシェルは中庭に行くべく廊下をスタスタ歩き出した。今日は縛っていない背中まで伸びた髪が後ろになびいた。




 * * *




 中庭に近づくと男の人の叫びが聞こえた。


 ーーこの声はフェルディ!?


 急いで中庭に出ると、ミンナと侍女の手を振りほどく、ひどく焦燥したフェルディがいた。その瞳は憎しみに染まっていた。


 ーーどうしたのよ一体!?


「フェルディ!?」


 フェルディの身体はぐらりと傾き芝生に倒れた。駆け寄り、顔を覗くと目をつぶって気を失っていた。戸惑う侍女とミンナも近寄ろうとしたが、私が止めた。


「待って。近づかないで、あなたたちフェルディに何をしたの?何で倒れたの?」


 険しい表情を浮かべてクシェルは侍女とミンナを睨みつける。侍女は珍しく戸惑った表情だったが、すぐに冷静な表情に戻る。ミンナは心配そうにフェルディを見る。


「ただ、話をしてただけだよ」


「何の話をしていたの?」


「それは......言えない」


 目を伏せるミンナに私は失望した。きっとフェルディを傷つける言葉だったのだろう。


「なら、いいわ」


 私は気を失ったフェルディの片腕を自分の肩に乗せて抱えあげた。細いながら鍛えられた筋肉が触れるとわかり僅かに驚いた。


 ーー重いけど何とか運べそうね。


 慌ててミンナと護衛が手伝おうとしたが、クシェルは「近寄らないで!」と威嚇した。


 ーー誰が敵かわからない。私は、私だけはあなたの味方だから。


 クシェルは一歩一歩ゆっくりだが、よろけもせずに自分の部屋へとフェルディを運んだ。





 * * *





 自分のベッドにフェルディを寝かせて、宮廷医師を呼び看てもらう。


 フェルディは医師に診てもらっている間に目を覚ました。私は安心しておさがりのドレスのまま床にへたり込んだ。


「フェルディ!良かった!」


 涙も浮かんできた。フェルディは「え?何でクシェルのベッドにいるんだ?え?おじさん誰?」と医師やらベッドにやら驚いていた。医師の眼鏡のおじさんは「君、気を失っていたんだよ」と笑顔で答えた。


「は?」


 フェルディは凄く驚いていた。私は「せっかくこんなに大きくなったのに、ころっと死んじゃったと思ったじゃないの!?」と泣きながら怒る。お前はお母さんかよ。と冷静な私ならそう思っていたであろう。フェルディは多分今そう思っている。


「え?なんかごめん」


「多分、精神的なストレスで気を失っていたんだねー。身体に後遺症はないかい?身体を動かしてごらん」


 医師の言葉にフェルディはふらふらーと立ち身体を動かした。


「特にないかな?」


 私はその言葉を疑った。


「もうちょっと、指先も動かしてみて!」


 フェルディは無表情にグッパーする。医師は「大丈夫そうだねー」と手許のカルテを書く。


 私は医師を疑った。


「あの〜?なんか大雑把じゃないですか?」


 医師は笑って答えた。


「だってこの手の症状に効く薬なんてありませんから。この症状以上に酷い過労死って割りといるんですよ。グランツ国民は真面目すぎるんですよねー。まあ上が腐りきったグローリエと比べたら死者数なんて雲泥の差だけどねー。いやあ、ドケチ王様万歳だね」


 ーー王女の前で王様をドケチと言うこの医師、相当肝が据わっている。いや、もしかして国民全体的に王様ってなめられている?


 笑顔の医師はフェルディとクシェルに1回ずつお辞儀をすると「お大事に〜」と出て行った。


 ーーフェルディにもお辞儀をするあの医師は良い人かもしれない。


 さっきまで疑心暗鬼に駆られていた自分が嘘のようだ。フェルディが気を失った事が相当、精神的にきていたようだ。クシェルは精神的にも肉体的にも疲れた。床に座り込んだまましばらく動けなかった。心配したフェルディが床に膝をついて私の顔を覗きこむ。


 長い睫毛の鋭い瞳が近い位置にきてドキッとしたクシェルは離れようとするが、抱きしめられてそれは叶わなかった。緊張で強張る身体。運ぶ時に気にしなかった引き締まった身体を服越しに感じ心臓がドキドキした。


「クシェル」


 耳元で囁かれる声は甘くてとろけそうだ。


「俺はお前のことが」


 その先に続くであろう言葉に期待した。自分はフェルディが大好きなんだとこの時に初めて気づいた。高鳴る胸は抑えれない。


「わたしーーー」


 も と言う前に遮られた。それは無慈悲な言葉であった。これが現実なら、永遠の眠りにつきたい。












「大っ嫌いだ」


 ドキドキしていた胸が嘘のように大人しくなる。私は、初恋に気付くと同時に振られた哀れな女だった。

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