(視点)シャルロッテ 王妃 ミンナの秘密
第二王女シャルロッテは真っ白なフリルがついた日傘をさして色とりどりの花が咲く邸宅の庭を歩いていた。鼻歌を歌う彼女は日傘を回しながら楽しそうに玄関に向かって歩いていた。玄関の前にはお辞儀をするメイドがいた。
メイドはシャルロッテの為に玄関の扉を開きシャルロッテが中に入ると静かに閉めた。中には執事が待っており、シャルロッテは閉じた日傘を執事に渡す。
ふりふりの薄紫色のドレスを着たシャルロッテ。白金色の髪は盛り髪にして、大きな薄紫色のリボンを付けていた。海のように深い碧色の垂れ気味の目。彼女は目を細めて執事に微笑む。
「お母様は元気かしら〜?」
「はい。奥様はシャルロッテ様に会える日を心待ちにしておりました。奥様の元へご案内致します」
「そう。なら、良かった」
シャルロッテは執事について行った。
執事に案内してもらった部屋には、天蓋付きベッドに横たわる白金色の髪の女性がいた。笑い皺がうっすら見える顔は少しやつれていた。垂れ気味の優しそうな碧色の瞳はシャルロッテの姿を映した。
「いらっしゃいシャルロッテ。貴女は相変わらず可愛らしい格好をしているわね。お母さんその格好を見るととっても華やかな気分になるわ」
シャルロッテの母、王妃は起き上がりクッションを背中の後ろに執事に敷いてもらう。シャルロッテの格好を見て口に手を当てて笑った。シャルロッテもそれを真似してふふっと笑った。
「ありがとうお母様。素直に派手って言っていいんですよ?」
「あらあら、そんな事ないわ。小さな子みたいで可愛いじゃない」
「……お母様。何気に酷い。そうそうこれお姉様からのお手紙よ。なんで直接話しにこないのかしら?」
手紙を王妃は緊張した面持ちで受け取った。
「......そうね。あの子は忙しいのよ」
「私が暇みたいに聞こえるわよ?」
「……違うの?」
「違わなーい」
くすくす笑う親子。
「手紙を読みたいから待ってくれるかしら?返事も書きたいわ」
「はいはーい。暇人は待ってますよ〜」
少し拗ねたシャルロッテは部屋から出て行く。それを目を細めて穏やかに見る王妃。
緊張しながら王妃は手元の手紙を開くと秀麗な文字が並んでいた。
[親愛なる王妃様
此度私は側妃様の悪事の一端を突き止める事に成功しました。残念ながら、退かせる事は出来ませんでしたが、側妃の地位を弱める事は出来ました。今こそ王妃様が返り咲く時です。無理にとは言いません。私はただ貴女の幸せな笑顔が見たいだけです。それが私の存在意義ですから。 騎士ミンナより]
それを読んで王妃はひと筋の涙を流した。震える声で「ごめんなさい。ごめんなさいミンナ」と呟いた。
ーーミンナは、彼女は私の子じゃないの。
王妃の心労の原因は側妃による嫌がらせが原因でもあるが、それが全てではない。王妃の第一子は死産であった。当時、側妃はすでに王子を生んでいた。このままでは、王妃の座を奪われると危惧した王妃の親族達は生後まもない赤ん坊はいないかと探した。遠縁であったが白金色の髪に碧色の赤ん坊が奇跡的見つかった。それがミンナだ。
その時は良かった。これで地位が守られたと安心した。だが、年月が経つにつれ王妃は罪の意識に苛まれる様になった。とうとう我慢出来なくなり、ミンナが16歳の頃に真実を罪のない彼女に伝えてしまった。彼女は悩み悲しむかと思っていたが、そうだったんだと只納得しただけだった。彼女は私の態度で薄々気づいていたのだ。その時の私はミンナに冷たく当たっていたのだ。酷い女だった。ミンナはそんな私を只ひたすら守ってくれた。私は自分の醜さに耐えれなくなった。ミンナから、自分の醜さから逃げたのだ。
手紙を書き終えた王妃は娘を呼んだ。シャルロッテは「はーーい!」と元気良く部屋に入ってきた。
「この手紙をミンナによろしくね」
微笑む王妃にシャルロッテは違和感を感じた。
「無理に笑わなくていいのよ?泣きたい時は泣かなきゃね〜」
「......そうね。そうよね」
ハンカチをシャルロッテは王妃に差し出した。ハンカチを有り難く受け取り目に当てて体を震わせた。
「元気にならないとあの子に申し訳ないわ」
シャルロッテはよく分からなかったが、「誰かの為に出来るって幸せよね〜」と意味深に言った。