お仕事頼まれた(クシェル視点)
王様の執務室に呼ばれたクシェル。ちなみにフェルディは扉の外で待機している。王様曰く「護衛には話せない秘密のお話がある」そうです。相変わらず金の折り紙を貼り付けた王冠に、赤いカーテンで作ったマントに、くまちゃんのアップリケが縫われた安い格好の王様。イルザのおさがりを着ている私が言うのも何だが、王様なのだからもうちょっと格好を気にしなさいよ。
王様は書類の一枚ものっていない綺麗なデスクに肘をつき椅子に座り、両手を口の前で組む姿勢で珍しく真剣な表情をしていた。
ーー何、カッコつけてるんだか。
クシェルの内心は冷めていた。格好が安っぽくては様にならない。くまちゃんのアップリケがなんともシュールに見えた。
「......早く用件を言ってください。私は暇ではありません」
痺れを切らした私は冷めた目で王様の用件を尋ねた。王様は真剣な表情でクシェルを見て口を開いた。
「......[肩たたき券]はどうした?」
「..............は? えと、部屋に置いてありますが.........は?それが用件ですか?」
は? って何度も言っちゃった。でも、仕方なくない?
「......肩叩いてくれ」
「えと、まあ............わかりました」
大した用ではなかった。クシェルは渋々王様の肩を揉んだ。孤児院の院長さんの肩をよく揉みほぐしていたので、慣れていたりする。肩を揉んであげると血の巡りが良くなった王様はご満悦だ。
「ほっほっほっ。上手いじゃないか。良い娘になったな」
王様から褒め慣れていないクシェルはその言葉にピシッと表情が強張る。
褒めた? え! 褒めた?......聞き間違い? それとも何か後ろめたい事があるな!
「......王様? 一体何を隠してるんですか? 早く白状した方が身のためですよ?」
自然と手の力がこもり、王様の肩に指がぐぎぎと食い込む。羽ペンを持つより、鍬を持つ時間の方が長いクシェルの握力は平均男性の握力に届きそうな程ある。王様は「いだだだだだだだだ」と呻いた。
「あっ」
正気に戻り、ぱっと手を離したクシェル。王様は涙目で「おぬし、地味に強いな」と驚かれた。
何のこと? はぐらかそうとしたってその手には乗らないわ!
「いい加減に白状してください」
睨みつけるクシェルに王様は慌てる。
「わかったから落ち着け!」
「落ち着いてます!」
「そうか!」
「そうです!」
王様は再び両手を口の前で組む姿勢に戻りぼそりと呟いた。
「グローリエ国の王子とお見合いする事になった」
クシェルは首を傾げた。
「誰がですか?」
何せ姉が3人もいるのだ。しかも、全員がまだ未婚だ。イルザ姉は男嫌いだから無理として、他の2人は結婚しないのかしら? ミンナ姉には昔婚約者がいたが何故か婚約解消している。
「おぬしがだ」
その言葉に驚いた。
「え?姉達は?」
順番があるでしょう?姉からでしょう?
「ミンナは戦力になるから他所の国には嫁がせれない。イルザは言うまでもなく駄目で、シャルロッテに至ってはスルーされた」
王様は顔を顰めて「くそう! イルザとシャルロッテがまともであれば良かったのに!」と愚痴った。
ミンナ姉も大概だよ? でも、なんか納得した。私に魅力があれば納得した。
「私は、これといって何の特技もございませんよ? 美人でもないし、それこそ私はスルーされる存在では?」
王様は甘いなと首を振る。
「平凡が一番いいに決まってるだろう!? 儂を見ろ! この平凡さを!自慢じゃないが民達から親しみやすいからと地味に人気あるぞ! 下手に美人で賢いと色々面倒なんだよ! お前の姉達や母親達を見ると分かるだろう!?」
ーー力説された!? 王様自分平凡だって認めてたんだ!? なんか説得力ある!?
「......といってもな。あちらの顔を立てたいだけだから、形だけでいい。......もしも、見合い相手が気に入ったのなら、考えるが......多分、あり得ぬが......」
語尾になるにつれて小声になる王様。
「とにかく、頑張れ」
そう親指を立てる王様。面倒ごとを丸投げされた気分だ。
王様の態度は気に入らないが、民達の血税で生きている王族としては、しなければならない仕事だとクシェルは感じたので了承した。
「わかりました。大人しく従います」
お見合いって、別に大したことないし。顔見して、趣味について話せばいいのでしょう? ん? 私は畑仕事が趣味なのか? あれは仕事か?
そんな風に気軽に考えていたクシェルであった。