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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒い殺意

作者: 那由多

宜しくお願いします。

 浅田は、商社に勤めていた。同僚がどんどんと出世していき、支店長や部長を務める中で、彼は唯一人出世のエスカレーターに乗り遅れていた。彼は、一生懸命働いていたがあまり給料も上がらず、同僚の出世していく様を指をくわえて見ているしかなかった。


 そんなこともあり、彼は沈んだ気分で暗い夜道を歩いていた。夜遅いせいもあり誰一人として歩いている人はない。そのまま、中谷川にかかった橋を渡ろうとしたが、ふと立ち止まり川面を見た時、黒いスーツケースが流れてくるのを見た。不審だとは思いながらも、酒を飲んでいたこともありそのまま見逃してしまった。


 翌日の朝、ニュースで中谷川に流れていたスーツケースから、裸の女が出てきたと流れていた。首、肩、腰、膝の部分で鋸のようなもので切断されて入っていたらしい。浅田は怖くなってテレビを消して会社に出勤した。


 会社に出勤すると何やら騒ぎになっていた。何かと思い課長に話を聞くと、ニュースの殺された女というのは、庶務課長であり、浅田の同僚の一人である眞田だったらしい。浅田は衝撃を受けながらも警視庁捜査一課警部を名乗る男に連れられ別室に行き、事情聴取を受けた。


「浅田さん。貴方は昨日の午後十一時ごろ何処にいましたか。」


「昨日は残業で遅くなったので、一人で酒を飲み、その頃なら道を歩いていました。」


「何処の道ですか。」


「中谷川にかかる、中西橋に続く道です。」


「その事を証明できる人は居ますか。」


「居ませんが。警部さん、私は疑われているのですか。」


「全員に対してこういう質問をしていますからまだ、容疑者としては見ておりません。」


 浅田は、「まだ」という言葉に違和感を感じながらなるほどといった感じで頷いた。


「ところで貴方は、眞田さんと同期だそうですね。」


「ええ。もっとも、私は少し話をしたことがあるくらいで関わりが薄いですがね。」


「聞くところによると、貴方の同僚は皆さん出世されているみたいですね。平社員は貴方だけなのではありませんか。」


「私は出世のエスカレーターに乗り遅れたもので、出世はしていませんが今の仕事を満足に思っていますよ。」


「貴方は、眞田さんを羨ましいと思っていませんか。」


「正直羨ましいと思ったことは何度もあります。でも、だからって殺すなんてとんでもない。」


「そうですか。貴重な御話有難う御座いました。また、御願いするかもしれませんがその時は御協力下さい。」


 浅田は、部屋から出た。深くため息をつき、部屋から出る。中谷川にスーツケースが流れていたのを見たことは言わなかった。自分が犯人にされるかもしれないと思ったからだ。その様子をにやりと気持ちの悪い笑みを浮かべながら見ていたものがいた。


 浅田は、翌日昨日の警部に警察署に呼び出されていた。


「浅田さん。もういいですよ。話してしまいましょうよ。」


 突然のことに驚きながらも正直にスーツケースを見たことを話した。すると、


「もういいって言っているでしょう。本当のことを話して下さい。嫉妬から殺してしまったんでしょう。」


「違います。殺してなんかいません。確かに嫉妬している部分もあったかもしれませんが、決してそんなことはしていません。」


「実はね、黒いスーツケースから貴方の名前の入ったライターが見つかったんですよ。指紋を提出してもらいますよ。」


「ああ、確か数日前にライターをなくしたんですよ。名前入りのものをです。」


 無言で見つめてくるので、指紋と毛髪の提出に合意し、


「私はやっていませんからね。」


「また、明日来て下さい。」


と、その日は帰された。次の日再び署に呼び出された。


「貴方の毛髪のDNAとスーツケース内に落ちていた毛髪のDNAが一致しました。もう言い逃れはできませんよ。」


 数時間後、会社の浅田のロッカーから眞田の免許証とスマートフォンが見つかったと電話があった。


「そろそろ本当のことを白状して下さいよ。」


 浅田は、やっていないと繰り返すだけでその他は何も言わなくなった。浅田は、留置所に入れられた。


 浅田は、今までのことを思い返していた。思い出すと運の悪い人生だった。出世も出来ず、皆から馬鹿にされた。もう終わりだという絶望に襲われた。


 翌朝、何故か浅田は解放された。新たな証拠が出てきたそうだ。内心ではホッとしていたが、誰が容疑者となったのか気になった。それとなく聞いてみると、人事部長の河野だった。河野は確かに嫉妬からの殺人をしてもおかしくないような男だった。しかし、立場も給料も上の彼は、何故彼女を殺めたのか。そんなことを考えながら出勤した。


 その夜、河野は一時的に身柄を解放されたが、その時に姿を消してしまった。そして、翌日の昼、部屋を訪問した巡査が河野の死体を発見した。首に吉川線が発見されたことから、河野は絞殺されたと結論付けられた。詳しい調査で、河野の爪の隙間に黒い繊維が挟まっていたことから、犯人は手袋をしていたと思われる。同じ部屋から絞殺に使われたと思われる電話コードも発見された。


 次に疑いを向けられたのは、人事課長の島野だった。なんでも彼は河野からパワハラを受けていたらしい。取り調べは一晩続いたが、証拠らしいものは出なかったらしい。


 その五時間後、島野は監視していた捜査員に駅のロッカーから黒い鞄を取り出すところを目撃された。


 島野は、身柄を拘束された。そして、島野はあっさりと吐いた。


「眞田さんは、僕の恋人でした。でも、夜な夜などこかへ行くので、後をつけてみたら河野と会っていたんです。僕があれだけ嫌がっていた河野に。その時に、カッとなって殺そうと思ったんです。」


 島野は、眞田は川に顔を沈め窒息させた後に切り刻み、河野は首を電話線で窒息させた、と話した。


 黒い鞄からは、革の手袋と血塗られた鋸が見つかった。


 島野は有罪判決を受け、懲役三年が言い渡された。島野は不当だと猛反発したが、結果は変わらなかった。軽いと反発した親族もいたが結果は同じだった。


 それから一ヶ月後、眞田と河野が死亡し、島野が逮捕されたため、管理職が三つ空いた。浅田はそのお陰で出世したが、あまり嬉しいものとは言えなかった。

有難う御座いました。

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