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56、久しぶりだな

 未だ解放されないリッジェーリは、緊張が高じて口をパクパクさせている。


 今ならガルチアーナを連れて帰ることはできるが、それだけでいいのかがわからない。今はおとなしくしているリッジェーリも、喉元の光る物がなくなったら、また同じようにガルチアーナの殺害を企むかもしれない。いや、十中八九そうする。


 しばし棒立ちのデア。


 リッジェーリにナイフを突きつけたままのガルチアーナはデアをじっと見ていたが、やがてまさかというように目を大きく見開いた。感情の高ぶりがナイフをわずかに震わせて、リッジェーリが小さい悲鳴をあげた。


「デア! デア……なの?」


 !?


 なぜバレる? 髪も服も違うし顔は隠してるし、男にしか見えないはずなのに。


 彼女は、こんなに変わっていてもデアであることを見抜けるのだ。すごい……なんて思ってる場合じゃない。リッジェーリに名前が知られるのはよくない。どこの線から、バルザイム殺害の目撃者とつながるかわからないからだ。下手に返事をしても、女だとバレる。


 ガルチアーナはもう確信を持ったようなキラキラした瞳でこちらを見つめている。


 デアは慎重に口を開いた。


「チガウヨ」


 声色を変えてみた。


 ガルチアーナは目が点になったみたいな顔をした。様子をうかがうようにしながら、


「あの……ふざけているのかしら?」


 不審そうに眉をひそめた。


「そこのおまえ! 何者でもかまいません、私を救いなさい!」


 とリッジェーリがデアに向けて命令する。


 は? あたしがそっちの味方になると思ったのか? とデアは、リッジェーリのとんちんかんな行動に呆れ顔を見せた。いや、マフラーで隠れているので見せてはいないけれども。


 どうやら、デアが男たちと戦っていたのを見ていなかったらしい。いや、見ていたとしても忘れている。この極限状態で冷静な思考が失われ、自分の都合のいいように他人が動くと思っているのだ。


 それにしても、この状況で初手から高飛車に出るとは、身分意識とは恐ろしいもんだ。


「私はノッティングラム家の当主。褒美は思いのままよ」

「ワーイ、ソレハスゴイネ」


 さてどうしてやろうか。


 と、暗闇から、何か丸いものが飛んできた。カボチャほどの大きさのものが二つ、地面に転がって、リッジェーリの足下で止まる。


 リッジェーリが息を呑んだ。


 生首だ。さっきこの場から去ったはずの、二人の男の生首だ。驚愕と恐怖に彩られた表情で、リッジェーリを見上げている。


 リッジェーリは声も出さずに失神した。


 それを寝かせて、ガルチアーナも気味悪げに飛び退いた。


 デアは、首が飛んできた方向の闇に目を据えている。


 そいつが闇の中から進み出てきたのを見て、デアは自分の予想が外れていなかったことを、戦慄とともに知った。


 久しぶりだな、"鉄の"サイール。

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