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49、捜索中

 外はもう完全な夜で、季節はすでに冬に入りかけている。夜の空気に、吐いた息が白く浮かぶ。天には星が冷たく冴えている。


 地上でもちらちらと二、三のランプが瞬き、見え隠れしながら動いている。職員や使用人たちがあちこちを捜しているのだろう。ラファミーユ学園はあまりに広く、捜索の手は足りないに違いない。


 デアはそのランプと鉢合わせないよう走った。暗闇を行く術は心得ている。


 闇から闇へ、影から影を伝って走る。


 まっすぐ森へ行くには、工事現場の近くを通るのが早い。ユニオンの連中がいると謎の手紙に警告されている。あの手紙が真であれ偽であれ、現場には近寄らないことにしたわけだが、今は急いでいる。日も落ちているし、さすがに工事は終わっているだろうと、デアはそちらの道を選んだ。


 しかし現場にはまだ明かりがついていた。遠目で見ると、帰り支度をしているようだ。二人の男が、馬車の荷台に、細々した道具や、大きな麻袋、廃材などを運び入れている。


 デアは舌打ちして、姿を見られないよう迂回して森へ急いだ。


 森が近づくにつれて、引っ張られるように速度を上げていった。


 森の中は星の光も半分しか届かない。葉はほとんど落ちて、骨のような枝が夜に向かって伸びている。林道を正確にたどっていく。何度も来た道だ。


 やがて、宵闇に沈み込むような、第三神ナイメアの祀堂が姿を現した。


 デアは走り寄りながら左右に視線を走らせ、祀堂の外にはガルチアーナがいないことを確認する。そのままぶつかるようにして扉を開ける。


 そこには無温の沈黙があるだけだった。正面奥の、ナイメアのレリーフがこちらを見下ろしている。


 いない。


 ここにいるだろうという予感はただの勘違いだったのか。デアはしばらく立ち尽くした。

 当てが外れたデアは、勢い込んでいた空気が抜けたような気がした。


 あたしを待っていたわけじゃないんだ。


 ではどこへ……?


 何か違和感がある。後頭部がチリチリする。何かを見落としているという感覚。


 何だ? あたしは何を見過ごした?


 わからない。焦燥を抱えたまま、デアは祀堂から外に出た。


 人影があった。制服姿のため、一瞬ガルチアーナかと錯覚したが、これはマリエーリュスだった。


「お姉さま」

「いないみたいね」


 少し開けた扉に首を突っ込んで祀堂の中を覗き込んでいる。


 なんでここにいる? あたしを追ってきたのか?


「どうしてここだと思ったの?」


 マリエーリュスが戻ってきた。


「第三神の祀堂に彼女との思い出でもあるのかしら」


 デアはさっきから違和感の正体を掴もうとしているのに、話しかけてくるマリエーリュスが邪魔だ。


「戻りましょうか」


 と、マリエーリュスが促す。デアはうなずいた。他に心当たりもないし、自室でならじっくり検討できるかもしれない。


帰り道は無言だった。


 デアはうつむき考えながら歩く。


 ガルチアーナを捜索するランプの明かりは見えなかった。みんな別のところを探しているのだろう。


 工事現場の脇を通る。そこはすでに暗くなっていて、できかけの倉庫ばかりが建っている。工事の男たちの姿も、馬車もなかった。


 さっきの光景がまぶたに浮かぶ。


 瞬間、デアは雷に打たれたように立ち止まった。


 ガルチアーナ……バルザイム・ノッティングラム……

 ユニオン……工事現場……


 そしてデアは、違和感の源に到達した。かっと目を見開く。


 ……大きな麻袋!


 それだ。ちらりと見ただけだが、男が担いでいたあの袋は、動いていなかっただろうか? まるで中に生き物が入っているかのように。そして袋の大きさは、小柄な人間が入る程度である。


「どうしたの?」


 急に足を止めたデアを、マリエーリュスが振り返った。


「なんでもない」


 デアは丁寧語を忘れている。だがマリエーリュスは目くじらを立てたりはしなかった。


「なんでもない顔ではないようだけれど、本当になんでもないのね?」


 いつも茫洋としているくせに、今夜に限ってしつこい。


 今デアはマリエーリュスの相手をしている暇はなくなったのだ。


「やっぱりまだ探してきます」


 言い捨てて返事を待たず、デアは別の方向へ走り出した。角を曲がってマリエーリュスの視界から外れると、一気に本気を出して駆ける。いくらマリエーリュスが運動が得意といっても、絶対に追いつけない。追ってきても一瞬で見失ったことだろう。


 ガルチアーナは学園の外へ連れ出された。間違いない。ユニオンの男たちが工事にまぎれて入り込み、狙っていた相手は、デアではない。ガルチアーナだったのだ。


 デアが足を止めたのは、編入初日にニニーと一緒に通った、校舎脇の石畳の道だ。学園と外を隔てる高い塀を隠すために林になっているところだ。隠れて壁を乗り越えやすそうだと思った、その地点である。


 ここから外へ出てガルチアーナを追う。


「そう、やっぱりあなたが"黝"だったのね」

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