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48、捜索開始

「日が落ちても帰っていないの?」


 落ち着いてマリエーリュスが問う。


 そういえばそういう規則があったな。日が落ちるまでにハウスへ帰らなければいけない。ガルチアーナは外面に気を使うやつだから、規則を破るというのはありそうにない。


 スイバリーが、勉強などどうでもいいとばかりにノートブックを脇に押しやりながら、興味津々な様子で口を開いた。


「あっ、そういえば最近ガルチアーナさまはよくお一人でどこかへ行くことがあると、あのかたと同じトレッフル・ハウスのギリヤに聞いていますが、それと関連したことかも知れませんね」


 いや、それは多分違う。最近一人でどこかへ行くというのは、それはきっとデアと会っていたのだ。森で密会していることについて、当然ながらデアは誰にも言っていない。ガルチアーナも同じだろう。


「アデリアお姉さまは何かご存知ではないですの?」


 他意のなさそうなラッタの言葉に、


「あたしは、何も」


 機械的に返答しながら、デアはガルチアーナの顔を思い出している。

 あいつが規則を破るのは考えづらい……よっぽどの理由がない限りは。


 ……今日のお茶会はよっぽどの理由になるかな?


 マリエーリュスは軽く手のひらを打ち合わせた。


「先生がたへ話はいっているのだし、わたしたちはわたしたちのことをしましょう。テストは大事」

「はい、お姉さま」


 デア以外の声がハモった。みんな、あまり心配しているそぶりがないように見えるのはデアのひが目だろうか。


「こういうことはよくあるの?」


 デアは隣のラッタに訊ねた。


「こういうことってどういうことですの?」

「夜に帰ってこない生徒が出ること」

「はじめてだけれど、まさか敷地の外に出てはいないでしょうし、私たちが何かやれることもないわ」


 と、ヒーネが脇のテーブルから答えた。


「ニニーをやったことで義務は果たしたでしょう」

「ですのですの。アデリアお姉さま、続きを読みましょう」


 サロンはもうとっくに、元の雰囲気に戻っていた。

 戻れないのはデアだけだ。勉強を続けても、なぜか全然集中できない。


 あいつがいるのは森だ、という思いつきが、まるで第一神の天啓のように脳裏に閃いた。森であたしを待っているのでは?


「お姉さま? どうしたんですの?」


 デアは立ち上がった。


「アデリア?」

「やっぱりあたしたちも捜しに行ったほうがいいんじゃ……」

「心配するお優しい心根は素晴らしいと思いますけれど、私たちが行ってもお役に立てないと思いますよ。お任せしましょう?」


 スイバリーは優しくなだめようとするような口調だった。お嬢さまの考えとしては当然のことだ。自分から人捜しなどということを買って出ることはないし、仮にやったとしても労働のノウハウがないから役に立たない。下の者に任せた方が、実際上としても効率的なのだ。


 デアは一瞬迷った。学園内で目立つこと、異質なことをして疑いの目を向けられるのは、可能な限り避けてきたつもりだ。特に、ヒーネにはただでさえガルチアーナをひいきしていると思われているみたいだし。


 ガルチアーナ自身にだって、デアはなんの借りもない。たかが学校内で姿を消したくらいで、慌てることはない。


 そうだそうだ。心の中で自分を説得する。さあ、テストは明日だ。放校になるかどうかの大切な日だ。他のことに気を取られている余裕はない。席に座れ。


 葛藤は一瞬だった。


「ごめんなさい、やっぱり捜してきます!」


 デアは駆け出した。ヒーネの引き留める声を背に受けながら。

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