47、お茶会のあとで
デアは、ヒーネに叱られている。
「お茶会に戻らずハウスでくつろいでいるとは、リーリア・ハウスの一員であるという自覚が足りないのではないの?」
びしりと決めつけられ、デアは椅子に座ったままこうべを垂れる。
反省しているわけではない。テーブルに並べられている料理を見ていた。
すでにお茶会は終わっている。大盛況のうちに幕を閉じた。
その後、姉妹がハウスに戻ってきて、デアが発見されたのだった。
今は夕食の時間であった。この時間に至って、ヒーネのデアへの説教が爆発していた。
めんどくさいやつだな、と内心思いながら、デアは黙って聞いている。
妹たちも居心地が悪そうだ。食事に手をつけていない。まるで自分が怒られたように身を縮めて座っている。
「あなたの行動がリーリア・ハウスの評判に直結するのだから……」
デアは頭上を飛ぶヒーネの言葉をやりすごしながら、いい加減にしないとスープが冷めるぞ、と思っていた。
「そのへんにしておきましょう」
マリエーリュスが介入してきた。絶妙のタイミングで妹のアデリアをかばった、というような感じだった。ヒーネは長女の言葉には逆らえない。渋々といった感じで矛を収める。
そこからは通常の食事風景になった。
デアはパンをちぎってスープに浸し、パンの甘みとスープの塩味のハーモニーを楽しむ。バターの香り高いパンを噛むと、じゅわりと染みたスープが口の中に広がる。デアにとって、毎度の美味しい食事がある種のストレス解消になっているといえよう。
食事が終わると、みんなはサロンでテストに向けてのおさらいをはじめた。最終確認といったところだ。さすがにギリギリまで近づいたらちょっとは勉強するらしい。デアもそれに参加する。
いよいよ明日なのだ。デアには、まだテストで合格点が取れるか不安があるが、ラッタのおかげでなんとかなりそうな気もしていた。『讃えの書』の章句のいくつかは暗誦できるようになったし、歴史の逸話もいくつか頭に入っている。
毎日毎日こんなに真面目に本を読んだのは、生まれて初めての経験だ。
厳しさでいえばジャクトの訓練のほうが比較にならないほど上だったが、それとは違う頭を使うし、失敗したら放校の運命が待っている。決して楽ではなかった。
玄関の扉をノックする音が聞こえた。
ハウスメイドのニニーが応対に出て行った。
しばらくして、戸惑い顔でニニーは戻ってきた。マリエーリュスへ向かって、
「あの、よろしいですか」
「ヒーネ、お願い」
マリエーリュスは妹に丸投げした。
「わかりました。どうしたの?」
部屋の入り口のほうでヒーネがニニーに訊ねている間、デアはラッタと一緒に、王制末期の賢婦人についての短文を読んでいた。歴史のテストに使われる予定のものだ。
マリエーリュスもスイバリーもおのおの勉強を続けている。
小さくニニーの声が漏れてくる。
「ガルチアーナさま――」
その名を耳にした途端、デアはニニーのほうを見た。
険しい表情になったヒーネが三白眼をニニーに向けている。
「先生がたへは?」
「報告したそうです。こちらにはいらっしゃらないと伝令には伝えました」
「それでいいわ。貴女は協力に行きなさい」
ニニーを出ていかせて、ヒーネは振り返った。そこで、デアのみならず姉妹全員の注目が集中しているのに気づいたようだ。
「ヒーネ、今の話はどういうこと」
一見思慮深そうな顔でマリエーリュスが質問した。
ヒーネはなぜかデアを見てから、ためらいつつ言葉を探った。
「その、ガルチアーナさまがハウスへお戻りになっていないとのことです」
事態は、急激に展開をはじめた。




