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43、罵詈讒謗の戒め

 翌日の放課後、デアがハウスに帰ると、マリエーリュス以外の三人が座って机上を見つめている。


 どうしたんだ? 近づくと机の上には二つ折りの厚紙が開かれた状態で置いてあった。それを見て三人は微妙な顔をしている。


 昨日の招待状か? さらに近寄ると、デアに気づいた三白眼のヒーネが、その紙を取って手渡してきた。


 その中身を読み進めるうちに、デアの表情が厳しく変わっていく。


『粛々たる朝夕の冷風が厳しい季節の訪れを予感させ、心身ともに引き締まる思いを新たにする時節。皆様におかれましては、学業に友情に孜孜として邁進されている日々であろうと存じます。さてこのたび、私ガルチアーナ・ピットアイズは寒中に和風を吹かせんとて、茶会を開く所存です。東西皆々様のご参加をいただければ、星々のきらめくごとく美しい時間となることでしょう』


 場所はガーデン。デアの編入初日にお茶会をやったところだ。


 日時は……。


「これは挑戦ですよ」

「なんて無作法な」


 スイバリーとヒーネが口々に言った。


 ガルチアーナの招待状に書いてあるお茶会の日時は、リーリア・ハウスのものと完全に同時刻だった。


 ほんとだよ。こんなあからさまな敵対的行為、いったい何を考えてやがる。バカか。デアは招待状の文面を見て苛立つばかりだ。ガルチアーナ本人がここにいたら、襟首とっ捕まえてやりたいところだ。


 今までデアを呼び出すこともせず沈黙していたと思ったら、それが、急にこんなものを送りつけてくるとは。


 冷静な計算に基づいた行動とも思えない。


 ニニーが紅茶を持ってきた。デアはテーブルに置かれる前に直接受け取って、一気に飲み干した。


 来客が告げられた。よそのハウスの生徒が訪ねてきたのだという。


 長女がいないので応対はヒーネが行なう。彼女はサロンを出て玄関へ向かった。


「マリエーリュスさまはいらっしゃる?」

「今は外出中よ。工事現場のほうへ」


 デアはサロンで聞き耳を立てている。


 ガルチアーナに促されたからなのか知らないが、マリエーリュスはちょくちょく工事を見物に行っているらしかった。最近帰りが遅い理由でもあるらしい。謎だ。


 工事の進捗は遅い。毎日少しずつしか変化がない。


 それは学園の方針で、一度にあまり多くの男が敷地に入らないよう、工事を行なう人数を少なく制限されているからだ。


 デアに言わせればそれは間違いだ。一度に入ってくる人数を減らすより、工期を短くするほうが安全を確保するうえでは重要なのだ。極端にいえば、一〇〇人かける一日のほうが、二人かける五〇日より安全である。


 ヒーネの声がする。


「おっしゃりにくい用件でなければ、言付けを承るけれど」

「いいえ、姉妹の皆様にも聞いていただきたいの。私たちシャフラン・ハウスの姉妹は、リーリア・ハウスのお茶会に参加しますから。それを知っておいていただきたくって」


 なるほど、こいつのハウスにもガルチアーナの招待状が届いたとみえる。ならば当然他のすべてのハウスにも配達されているだろう。


「ガルチアーナさまも何をお考えなのか、私たちも困惑してしまって。マリエーリュスさまに勝てるはずがないのに……。たしかに成績は優秀でいらっしゃるし、行動力もおありだけれど、けっきょく国務卿の孫というだけで、後ろ盾がなくなってしまえばそこまでの人だという……」

「こないだのおさらいだけど!」


 デアはラッタに話しかけた。


「人の悪口は慎むべきであるという第一神の教えがあったよね!」


 普段の倍くらい大きな声のデアにびっくりしながら、ラッタはうなずいた。


「はい、罵詈讒謗の戒めですの」

「ああ、そうだった。ありがとう」


 声を出すと記憶しやすいと聞いているし、なんとなく大きな声を出したほうが健康にいいような気がしたのだ。それだけだ。


 ヒーネがサロンに戻ってきた。どうやら玄関の客は帰ったようだった。デアのほうに意味ありげな視線をよこしたが、デアはそれに気づかなかったふりをした。

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