41、雨の日
今日の授業もわからないところばかりだった、とデアは教室の自分の椅子に座ったまま思った。
その日の授業はすべて終わり、放課後になっていた。もう慈悲の曜日だ。来旬のはじめからテストだから、勉強に費やせるのは今日を入れてあとたった五日だ。
デアの席の周りでは、授業から解放された生徒たちが賑やかに言葉を交わしている。その中でデアの存在感は薄く、話しかけてくる者はいない。
今日は雨だからか、放課後になっても帰らずに、教室に残っておしゃべりしているやつらがいる。その中で、
「ガルチアーナさま……」
とだけ聞こえた。彼女らは声をひそめて何事か語り、はじけるように笑った。
それを横目に、デアは教室を出た。
校舎の昇降口には学園備え付けの傘がある。家では使用人に持たせているお嬢さまも、学園内では自分で傘を差さなければならない。
傘の数は生徒数を超えるほどあるが、何パーセントかの生徒は一つの傘に二人で入って帰ったりしている。デアが見るところ、大きく分けて二パターンある。
一つは、二人の間に何らかの上下関係が存在している。妹が姉に奉仕したり、年下が年上に、といったパターンだ。だが強制や命令によるものではなく、下の者が自発的に奉仕をしていることが多いようだ。
いつだったかの雨の日には、ガルチアーナが取り巻きに傘を差しかけられて、お姫さま然として歩いているのを見たことがある。
それから、ちょうど今デアの目の前を通ったのが、二つめのパターンだ。それは、仲のいい二人が親密さの確認のように、一緒に傘を差していくものだ。
彼女らは楽しく笑い合いながら、一つの傘の柄を二人で持っていく。
それを目だけで追い、デアは自分も傘を取った。
今、みんなの話題の的なのがガルチアーナだ。
あの日、マリエーリュスの手を振り払って立ち去ったのが、ガルチアーナがマリエーリュスの手をぶったとか、罵ったとか尾ひれがついて流布している。そんな態度を取った理由についても、あの日にそばかすが言ったのと同じような推測がまことしやかに囁かれている。
みんなの話の輪に入らないデアの耳にすら漏れ聞こえてくるのだから、相当ホットな話題なのだろう。
その噂の一致するところは、ガルチアーナを褒めたり評価したりすることがない、ということだ。さっきの人らの笑いも、ガルチアーナに好意的なものではなかった。
そのことを当人は知っているのか、どんな思いでいるのかデアは知らない。その日以来デアは彼女に会っていなかった。
やれやれ、と傘の下でデアはなんとなく呟いた。




