40、勉強会
この事件のおかげで、デアがガルチアーナにテスト勉強を教えてもらうという計画は白紙になった。
あたしがラッタの日記を読んだ功績はないことになったのか。結局今までと同じような体制で勉強するしかない。
デアは、テシオに在学期間の延長を告げられてテストが回避不可能になったときから、ラッタに教わるだけではなく、授業にも真面目に参加しようとしている。嫌々ながらではあるが、自分の命には換えられない。落書きばかりだったノートブックも、授業でわからない部分を書き留めて、あとで教えてもらうために使うようになった。
そして放課後はラッタの部屋でお勉強だ。
デアは、最低限の読み書きはできるのだ。ジャクトに教わった。あと、金勘定に必要な計算は得意だ。
だからいくつかの科目は大丈夫だろうと、ラッタに太鼓判をもらった。作文、読解、数学の三つがそれだ。
一番やばそうなのが神学らしい。
まずデアは、幼い頃から三尊教に親しんでいるようなこともなく、『讃えの書』もほぼ読んだことがない。礼拝も編入してから休日に参加しただけで、その数わずか三回だ。しかもそのときにはだいたい、話なんか聞いていなかった。
もっといえば、神学の試験官は厳しいと評判の、編入時の面接の場にもナイフ没収の場にもいた、あのイバ先生だという。
とにかく『讃えの書』を読んで憶えるしかない。ラッタも付き合ってくれる。
ラッタは、信心深い家で育ったらしくすらすらといくつかの章句を暗唱してみせた。
「お姉さまもー、毎日お祈りすればすぐ憶えられます」
「そうだね」
テストには間に合わないけどね。
重要そうなところをラッタに教えてもらって、その暗唱と解釈を頭に入れようとしてみる。
それに悪戦苦闘していると、部屋のドアをノックする音がした。
「はいですの」
とてててとラッタが駆け寄ってドアを開けると、そこにいたのはそばかすと三白眼だった。
「お姉さまがた、どうなさったんですの?」
「お姉さま」
そばかすに促されて、三白眼は咳払いしてデアのほうを見た。
「最低限、マリエーリュスお姉さまの妹として恥ずかしくない成績を取ってもらわないと困る。不合格者を出したとあってはリーリア・ハウスの恥だから」
「わたしたちも、自信があるわけではないですけれど、少しはお助けできることもあるんじゃないかって、ヒーネお姉さまがおっしゃったんです。アデリアお姉さま、ラッタ、わたしたちもご一緒してよろしいですか?」
「もちろんですの! みんなでお勉強会、楽しいですの」
ぴょんぴょん跳びはねるラッタ。それから、廊下のほうを覗き込んだ。
「マリエーリュスお姉さまはいらっしゃいませんの?」
「何かご用があるらしい」
「最近は帰りがあまり早くありませんね」
「夕食までにはお戻りになるでしょう」
三白眼とそばかすは部屋に入ってきた。
「ニニーに椅子を用意させます。 ニニー!」
ラッタが大きな声でメイドを呼んだ。




