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38、トレッフル・ハウス

 ハウスを出たところでデアは足を止めた。散歩などに行く気はなかった。


 あいつのハウスはどこか知らないけど、と見回す。


 すぐにわかった。一つだけ、周りに人が多くいるハウスがある。集まっているのは、たぶんそばかすの類似品みたいな噂好きの生徒だろう。ハウスに出入りしている生徒も何人かいるようだ。


 デアはそっちに足を向けた。まっすぐ進み、案内を乞わずに中に入る。他のハウスの中を見るのははじめてだ。間取りは完全に同じだが、リーリア・ハウスに比べてずいぶんフローラルな感じの内装だ。いたるところに花が飾られている。


 入り口近くにいた怒り眉の少女がデアの姿に気づき、訝しげな視線を向けてきた。なぜ関係ないあなたがここにいるのか、と咎めるような視線だ。デアはマリエーリュスの妹だから、マリエーリュス派閥だと思われているのだろう。


 こいつはガルチアーナの取り巻きというか、妹だったはずだ。つまりこのハウスの住人だ。


 無視してデアは奥へ進む。人の群れはサロンにわだかまっている。あそこに話題の中心がいるに違いない。


 輝くようなゴールデンブロンドの美しい髪が見えた。サロンの椅子に座っている、ガルチアーナの姿だ。気に入らないことに、リーリア・ハウスでさっきデアが座っていたのとまるで同じ位置にいる。


 近づくにつれて、さっきの怒り眉と同じような視線を向けてくる人数がどんどん増えるが、全部無視だ。


「アデリア・トリアトリーさん、来てくれてうれしいわ。何のご用かしら」


 ガルチアーナが座ったままデアを見上げた。寂しげな笑みがその顔に貼りついている。祖父を亡くして悲しいが、健気に失意に耐え、周囲に気を配ることを忘れない少女の姿だ。


 こいつ演技うまいな。妙なところで感心してしまう。


 さて何のご用かと聞かれれば、……


 ……なんだろう?


 なんとなく見物しに来たとでもいえばいいのか、そんな気持ちだ。


 いろいろと質問してやりたいが、こうも人が多くてはそうもいかない。


 デアはしおらしさを作って、顔をうつむかせる。


「生前の国務卿をお見かけしたことがあったので……」


 ガルチアーナはふっと笑った。


「お祖父さまは行方不明よ」


 そうだった。デア自身はバルザイムがどうなったか完全に知っているから、つい口がすべった。


「申し訳ありません」


 しかし、ガルチアーナや周りの連中の反応を見る限り、行方不明イコール死であることを暗黙のうちに了解している者は少なくないようだ。何か理由があって死を隠すための口実であることを。


 そりゃ、国家の重鎮である老人が、急に姿をくらますはずないもんな。


「ノッティングラム家へは次のお休みに戻られるの?」


 周囲の生徒がガルチアーナに聞いた。


 ガルチアーナはにこやかに応じたが、答える前に一瞬だけ不快な顔をしたのを、デアだけは見逃さなかった。


「それでは、まるでわたしがノッティングラム家の者みたいじゃない。わたしはピットアイズのガルチアーナ。先方からお話があればお見舞いに行くのはやぶさかではないけれど、身内でもないのに押しかけるのは無作法ではなくて?」


 声色は優しかったが、二度と同じことを言わせないだけの圧力があった。その場は沈黙した。


 やはり相続するつもりはないみたいだ。


 そこへさっきの怒り眉が駆け入ってきた。


「お姉さま! あの……」

「落ち着きなさい、どうしたの?」

「あの、マリエーリュスさまがいらっしゃいました!」

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