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28、チャンス到来

 誰かの部屋に忍び込むには、部屋の主がいないときを狙う。これは当たり前だ。そして、できれば周りの人もいないほうがいい。つまりマリエーリュスだけでなく他の姉妹たちがいないタイミングを狙う。


 翌日、デアは早く帰宅して、ほんの少しだけ部屋の扉を開けて、室内で待機した。


 やがて他の姉妹たちが帰ってくる。玄関の扉の開く音。挨拶の声。この声はちびすけだ。メイドの返事。階段を上る足音、廊下を歩いてきて、自分の部屋へ入る音。


 なるほど、このくらいの大きさか。部屋の扉を開けておけば、玄関が開いたのを聞き逃すことはないだろう。


 今日は、音がどのように聞こえるのかの下調べだ。


 姉妹が帰ってきてから上へ来るまでの時間も一緒に計っていた。マリエーリュスの部屋にいるデアが玄関の音を聞いてから自分の部屋に戻る時間は十分ありそうだ。


 殺しの依頼を受けたときに、このような下調べはよくやる。


 何で日記を盗み読むためにこんなこと真面目にやっているのか、考えると馬鹿馬鹿しくなるので、今は置いておこう。


 ガルチアーナのやつめ。


 それから、姉妹の帰宅時間の傾向についてだ。


 毎日同じというわけではないが、ちびすけは比較的帰りが早い。そばかすはおしゃべりに精を出しているのか、だいたい遅い。三白眼も遅いが、これは何か用事でも頼まれているのだろう。


 そして肝心のマリエーリュスは帰りが早いほうだったのだが、何をしているのか、最近は遅いのだ。明るい材料といえた。


 これでだいたいの情報はそろった。実行に移せる。デアは機をうかがう。


 しかし翌日、翌々日と、ちびすけの帰りがことに早かったため、マリエーリュスの部屋に行くチャンスがなかった。


 空しく日を使ってしまった。


 あと一日しかない。まずいな。マリエーリュスの部屋へ忍び込む方策は立った、ということを報告すればガルチアーナも納得するだろうか? いや、それだけでは納得しないだろう。


 明日がラストチャンスだ。多少無理してでも、なんとか部屋に忍び込まないと。


 姉妹そろっての夕飯の時間、じっと白身魚のフライを睨みつけて、デアはそんなことを考えていた。


「お姉さま、食べないのですか? 魚はお嫌いですか?」

「ああ、いや、食べるよ」


 もそもそ食べていると、ラッタが発言を求めるように手を挙げた。


「ナイフを持ったまま手を振り回さない。ラッタ、何か?」

「ごめんなさい。お姉さまがた、ラッタは明日、サークルの見学に誘われているんですの」


 ラファミーユ学園には、有志が集まって活動しているサークルがいくつかある。学園が公的に管轄しているのではない。あくまで趣味の合う人たちが和やかに行なうという雰囲気のものだ。


 編入当時、デアもいくつかから誘いを受けたが、当然ぜんぶ断った。


 ちなみにマリエーリュスは剣舞のサークルに入っていて、一番の上手なのだという。


「何のサークルなの?」

「えっと、詩の朗読とー、園芸とー、お裁縫とー」


 指折り数えていく。


「まあ、そんなにたくさん? ラッタは欲張りさんね」

「ラッタじゃなくて、一緒に行こうって誘ってきたポソンさんたちが希望しているんですのよ」


 ということは、と、デアは慌てて、珍しく自分から会話に入った。


「ちょっと待って、見学は放課後?」

「そうですの。だから帰りが遅くなってしまうかもしれないんですの」


 ちょっと淋しそうな顔をしたラッタ。


 デアは内心、来た! と拳を握っていた。またとないチャンスだ。最終の日に、なんと運のいい。これは、神がデアを嘉しているに違いない。どの神かは知らないが。

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