27、新しい命令
その翌日の、光の曜日。
デアは森の祀堂でガルチアーナと会っている。
ちょうど一旬が経ったが、この日までろくな情報を報告していない。さすがにガルチアーナも苛立っている。
「有意義な報告をあなたの口から聞く日はあるのかしら」
「しょうがないだろ、そんなにほいほいと都合よく情報が手に入るか」
「スパイなのに情報収集が下手なの?」
あたしは自分がスパイだなんて言ったことないぞ。
「おまえの話題がなかなか出ないってことは、おまえがマリエーリュスに相手にされてないだけじゃないの?」
憎まれ口を叩くと、一瞬だけ、ガルチアーナは傷ついたような顔を見せた。すぐに表情のベールに覆われてしまったが。
デアは戸惑い、内心で愚痴る。なんだよ、あたしが悪いみたいに。
ガルチアーナは一つうなずいて、
「そうね、単に話を聞くだけというのは迂遠だったかもしれないわ。それは認めましょう」
「だろ? 成果が上がらないのは当たり前なんだよ」
「だからもっと積極的にいきましょう」
「は?」
ガルチアーナは少し考えてから、笑顔をデアに向ける。
「そうね、マリエーリュス・ロッカラムの日記を探しなさい」
生徒には学園から日記帳も支給されるのだ。提出の義務などはないが、日記をつけることが推奨されている。
「そして内容を教えてちょうだい。彼女の弱味もそこで見つかることでしょう」
くくく、と含み笑いをするガルチアーナ。悪い顔だ。
本格的に本性を出してきやがったな、こいつ。
「ちょっと待て、そりゃ危険だろ」
「妹なんだから部屋に入るくらいできるでしょう。あとは隙を見ればいいだけよ」
「言うだけなら簡単だよな」
「犬は従順に主人に従うものよ」
「うるさい性悪。おまえ友だちいないだろう」
「忠告しておくけれど、語彙に気をつけなさい。育ちが見えてしまうから」
「クソみたいな本性を隠して優等生づらしてるよりましだろ」
デアが悪口を投げつけると、ガルチアーナは華やかに笑った。
「そんなに全校のみんなにあなたの正体を知ってもらいたいの? わたしとしては忍びないのだけれど、あなたの態度がバラして、バラしてと言っているわ」
唇の下に指を当ててのあからさまな脅しに、デアはぎりりと歯を噛みしめて、
「やればいいんだろ」
本当に殺してやろうか。
「明日までにできるかしら」
「無茶を言うな」
「三日……四日あげる。樹木の曜日には、なんらかの進展を報告なさい」
それでも短いわ。殺しでも時間を短く切る依頼は額が跳ね上がるんだぞ。デアはガルチアーナの顔をにらみつけるしかなかった。




