20、敗戦
なん……だと? デアは目を見張ってガルチアーナの微笑を見やる。
あたしがアデリア・トリアトリーでないことがばれている? いや、そんなことはない、きっと本当のあなたが知りたいみたいな、ふわっとした抽象的な意味のはずだ。
「あなたはトリアトリー旧団爵令嬢アデリア・トリアトリーではないわね?」
思いっきり具体的だった。
「何者なの?」
「な、何を言っているのかわからないんだけど」
「はじめて会ったとき」
デアの下手くそなごまかしを遮ってガルチアーナは続ける。
「森の中で跳ね回るあなたを見たの。とてもきれいだったけれど、旧貴族の娘があんな動きはできないわ」
見られてたのか。こいつ、挨拶したときは全然態度に出さなかったくせに。
「それが理由というのは少し無理があるんじゃないの? あたしはほら、田舎育ちだから体を動かすのが得意で」
「昨日のお茶会、楽しかったわね」
「は?」
「あなたの飲み方。レイバラー・スタイル」
「それがどうしたの?」
「そんなスタイル、存在しないの」
「……はあ!?」
「あなたは単に、お茶会の作法を知らなかった、ということになるわね」
ガルチアーナは笑みを絶やさない。
こいつ……!
わかっていてその場で作法をでっち上げたのだ。
「なんでそんなことを……?」
「だって、他の人にばれたら嫌だもの。あなたがニセモノだって、ね」
「それも、田舎者だからお茶会の作法を知らなかっただけで」
「旧団爵の娘が、作法を知らないと?」
わざとらしく首を振るガルチアーナ。
唐突に彼女は話題を変えた。
「あなたは東部の出だったわね」
「え? ええ」
「わたしは、幼いころ、一五年くらい前かしらね。ほんの幼児のとき、東部地方を旅行したことがあるの」
「そ、そう。それで?」
「会ったことがあるのよ。アデリア・トリアトリーさんにね」
デアは敗勢を感じながらもまだ抵抗を続ける。
「あたしは憶えてないな」
「あなたは、そうでしょうね」
「そのときと今のあたしの印象が違ってると言いたいのかもしれないけど、一五年もたてば人は変わるから。ほぼ赤ん坊だし」
「たしかに。当時のアデリアさんの顔や声がどんなだったか、ぼんやりとしか思い出せないもの。どのように成長したかなんてわからないわ」
「ほら、だったら……」
「でも、白金の髪が黒くなるというのは考えづらいと思わない?」
デアは沈黙した。もはや悪あがきの余地もないようだった。




