18、デアへのお手紙
慣れないことは疲れるもので、初日の授業ですでにぐったりとしたデアは、放課後、自室でベッドに身を預けていた。
と、ノックの音がした。上半身を起こして返事すると、扉を開けたのはメイドのニニーだった。
「アデリアさま、お手紙が届いています」
渡されたのは白い紙だ。どうやらノートブックを切り取って器用に折りたたんだものらしい。
外部からの手紙は制限されていて、一ヶ月くらいごとにまとめて渡されるはずだから、これは学内の者からに違いない。他の生徒だろうか。
宛名にアデリア・トリアトリー様とあるが、ひっくり返しても差出人の名はない。ニニーも誰からの手紙かは知らないという。彼女には他のメイド経由で回ってきたのだ。
開けて読んでみた。
『初めて貴女をお見かけした時から、手紙を差し上げようと考えておりました。かの英雄ツギィもかくやと思われる貴女の凜々しさ。そして、昨日のお茶会での貴女を見て、確信に変わりました。貴女は私と出会うために学園に現れた星の光なのだと』
なんだこの手紙、とデアは面食らった。夢見るお子様の戯言か? 一体誰のしわざだろう。文面はまるで、今日の授業でやった詩のようだ。
『独りよがりとお笑いになるかもしれませんけれど、私はダイヤモンドのように堅くそう信じております。貴女も同じお思いになられたのなら素敵なのですけれど』
お思いにはならないなぁ。
『いちど、二人っきりで親しく言葉を交わしたいと思っております。私たちが運命的な出会いを果たした場所、あの森で待っています』
森……ってことはあいつか! 署名はないが、デアにはわかった。
これはガルチアーナからのアプローチだ。生徒の間での権力者で、どうやらマリエーリュスと対立している。彼女と親しくするのは立場的にあまりよろしくないのではないか? 角突き合う勢力争いとか、めんどくさいことに巻き込まれるかも。
デアが考えていると、ニニーがまだその場に立っているのに気づいた。
「これ、どうしたらいいか助言をもらえる?」
失礼します、と渡された文面を読み、ガルチアーナからだと聞くと、
「おそらく、行かれないほうが面倒になると思いますよ」
あっさりと言った。
「だよね……」
「行かれても面倒になるかもしれませんが」
このメイド、身も蓋もないことを言う。
「本当の狙いはアデリアさまご自身ではないのかもしれません」
「それは、どういう意味?」
「マリエーリュスさまの妹を引き込むことで自らの優位を示すため……とか。いえ、失礼しました。私は何も言っておりません。メイドは自分の仕事だけに専念します」
さすがに言いすぎたと思ったらしい。咳払いして、ニニーは口をつぐんでさっさと出ていった。デアに上流階級の威厳がないので、ふと気安くなって口を滑らせるのかもしれない。それとも、口を滑らせたというのも計算のうちか。デアに自分の状況を知らせるために、うっかりを装って情報を与えてくれたとか。
いずれにせよ、決めるのはデアである。といっても、ニニーの言うとおり、行かないほうがあとあと面倒なのだろう。
しかたない、行くか。
やれやれ、とデアは立ち上がった。




