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14、お茶会……?

 ガーデン。ハウス区画のそばにある庭園である。乙女たちの園だ。いい陽気の日には楽しいおしゃべりの場にもなるし、花を愛でることもできる。


 今回の茶会のような、ちょっとした催しも開かれる。


 刈り込まれた生け垣に囲まれたスペースに、大理石の大きなテーブルが据え付けられている。それにテーブルクロスを掛けて、椅子を用意して、ティーポットに、カップに、ケーキスタンド等々を卓上に並べる。


 秋空は青く澄んで、爽やかに明るいお茶会日和だ。


 だがデアはまだ席に着いていない。なぜなら、ガーデンにいた生徒たちの挨拶を受けるのに忙しいからだ。


「ごきげんよう、私は○○○・○○○ですわ」「はじめまして、△△△・△△△ですわ」

「どうも、ごきげんよう」


 デアは機械的に挨拶を返して握手をするのだが、何せ数が多い。聞きつけてやってきた人もいるのか、二、三〇人くらいいる。名前に関してはほとんど右から左で、聞く端から蒸発していった。多分同じ人が二回来ても気づかない。


 ホンモノのお嬢さまだったら、この怒濤の初対面ラッシュをどうさばくんだろうか。本当に全部覚えるんだろうか。


「今日は休日で外出しているかたが多いので、挨拶する人数も少なくてよかったですね」


 と、隣にいるそばかすが耳打ちしてきたが、これで少人数だとか、信じられない。


 そばかすは補佐役のように、挨拶した生徒たちの一言情報などをくれるが、それも特に憶えられず。マリエーリュスと三白眼は向こうで雑談しているし、ちびすけは年少組といっしょだ。


 と、賑やかさのレベルが急に下がった。


 どうしたのかと、張り付いた愛想笑いを消して様子をうかがうと、みな同じ方向を見ている。そちらに目を向けると、新しくやってきた生徒たちの姿があった。


 人数はおよそ五、六人だが、仲良しグループといった感じではなく、明らかに一人のリーダーに率いられている集団といった印象だ。


 そしてそのリーダーが、中央にいる、一番背の低い、ゴールデンブロンドの少女。さっき会ったあの子であることにデアは気づいた。


 ガルチアーナだ。


 彼女が率いる一団は、和気藹々とした空気に入り込んだ異物のようだった。雰囲気が微妙に変化している。ガルチアーナらと、今までいた人たちとの間に、ある種の緊張が流れているようだ。


 んん? なんだ、これは?


 デア含め皆の視線が集まる中、ガルチアーナは一人進んで颯爽とマリエーリュスの前へ立った。


「わたしたちも参加してよろしいかしら」


 マリエーリュスは全く空気の変化に動じていない。


「もちろん、どうぞ」


 隣の三白眼はマリエーリュスほど平常心ではないようだが、長姉の言葉に異議を挟むことはなかった。


「……派閥……?」


 思わず漏れたデアの声を、そばかすは聞き逃さなかった。他に聞こえないようこっそり囁いてきた。


「ガルチアーナさまは旧貴族の子女の旗頭なのです」


 それには納得だ。そういうの似合うもんな。


「じゃあマリエーリュス……さんは新貴族の代表?」

「お姉さまはそういったわけへだてはなさらない方です。アデリアお姉さまだって旧貴族の出ではありませんか」


 旧貴族とは王制時代に貴族だった家のことだ。現在でもそれなりに権勢を保っている家は多いが、没落した者も少なくない。

 対して新貴族は、共和制になってから財力権力を蓄えて、まるで昔の貴族のような権勢を手に入れた家の通称である。政治家や豪商、大地主などだ。貴族制が残っているわけではない。


 デアがなりすましている娘の家は旧団爵なので、旧貴族に入る。


「ガルチアーナさまが一方的に張り合っているのです。たしかにマリエーリュスお姉さまの出自は新貴族ですけれど、旧貴族のかたでもお姉さまを悪く言うかたはおりません」


 と、マリエーリュスのシンパから見たらそうなる、というわけだ。デアは冷静に、そばかすの話を割り引いて考える。


 ただ、ガルチアーナ本人はともかく、連れ立ってきた旧貴族連中は、あまり場を荒らしたくなさそうだ。遠慮が見える。案外そばかすの言ってることも事実に近いのかもしれない。


 それから、とそばかすがもう一言付け加えた。


「アデリアお姉さま、マリエーリュスさんでは他人行儀ですよ。お姉さまでよろしいのです」


 そりゃどうも。


 と言っているうちに向こうでは三白眼がガルチアーナの正面に立っている。


「リーリア・ハウスの新しい姉妹を歓迎するためのお茶会に、わざわざおいでいただけるとは、恐縮してしまいます」


 いつもの口調にも聞こえるが、受け取りようによっては遠回しに帰れと言っているようにも聞こえる、絶妙な話しぶりだ。


 ガルチアーナもマリエーリュスの向こうを張って、その程度の牽制にはまるで平然としている。いたずらっぽく笑みを作り、


「アデリアさんとは少し縁があって。先ほどご挨拶を交わしたので、ね?」


 と、こちらに視線を流して、唇の下に人差し指を当てた。


「そうなの?」


 三白眼が三白眼をこちらに向けた。


「はい、さっき」


 デアのうなずきに三白眼がきっとなって何か言いかけたが、マリエーリュスがすっと離れてお茶の席に着いたので、三白眼は結局口をつぐんで姉のあとを追った。


 とうとうお茶会が始まるようだ。

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