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第1章 下準備(4)

「シェリーは…俺の奥さんだ…」

やはり知っていたか。これだけは拷問されようが何されようが黙っていようと思ったが、もう全て知っているならしょうがない。


「いやだからシェリーって誰なんだよ!」


茶髪の少年…イアが椅子に縛られてる俺に詰め寄ってきた。アイもイアも俺に対する扱いがひどい。他人に好き勝手言われるぐらいなら自分で話そう。


「シェリーはロスト王国民で…今は戸籍を偽造して…ラケーノ王国民として暮らしているんだ…」


俺は覚悟を決めたにしては弱々しい声でシェリーについて話した。反応は二つにわかれた。カルアやマウス、ミミなどは一切表情を変えていなかったがアイとイア、ノーズ(ハナ?)は大袈裟すぎるぐらいに驚いている。知らされてなかったようだ。


「それだけじゃないぞ、シェリーは私の古い友人だ。マウスやミミとも交流があった。友人といっても7つも上だったから妹のように見られていたがな…」


カルアが昔を懐かしむような遠い目をしながら言った。それと対照的にミミは顔を強張らせた。


「シェリーは最高の人間だったわ。それがあんたなんかと結婚したですって?私は信じないわ」


「俺もシェリーがお前と交流があったなんて信じられないね」

気絶させられた恨みでついつい語気が強くなる。ミミは元々つり目がちな目をさらにつり上げこちらを睨んで来た。


「こいつの奥さんが元・ロスト王国民でラケーノ王国にいるってのは分かったけど、なんでそれでこいつを拉致するんだよ?」

俺とミミのくだらない掛け合いを無視してイアが再びカルアに冷たい眼差しを向ける。こういうのは俺がいないときに済ましておいて欲しかった。


「伝えただろう?イア」


そう言いながらカルアは自分の髪をいじった。その瞳にはもう過去を慈しむ暖かさはなかった。


「シェリーは抜けてるからな」


カルアは悪巧みを思いついた少女のような笑顔でそういった。


ーーーーーーーーーー


「我々は日々の鍛錬の結果を生かし、屈強なテキダ王国に勝利したのである。ひとえにこれは我々陸軍のー」

ピッ

「ではテキダ王国に勝利した秘訣をー」

ピッ

「今回の勝利は神の加護のおかげなのです。皆が信じればー」

ピッ


何個かチャンネルを変えた彼女は諦めたようにテレビの電源を切った。戦争には勝ったようだが彼女にとってそんなことはどうでも良かった。戦争なんてしないのが1番、それが彼女の持論だった。


「まま、まま」

「もう起きたの〜?」

3歳ほどの男児をあやすように抱きかかえながら彼女は変に高い声で話しかけた。


「しかし変でちゅね〜?こーんなに弱い国が強い国に勝てるなんて〜」

そのままの声の高さで彼女はまだ3歳児には分からないであろう内容を口にする。


ラケーノ王国はこの世界では珍しい島国である。ほとんどの国が戦場のあるヒュージ大陸と陸続きになっており、完全に陸路で戦場に行くことができないのはラケーノ王国ただ一つといっても過言ではないだろう。


そのためラケーノ王国では長らく独自の文化が栄え、戦争にも消極的であった。それにつけ込んだ大国がたくさん戦争を申し込み、ラケーノ王国はここ数十年で急激に衰えていっていた。


今回のテキダ王国との戦いもその一つ。今回負ければラケーノ王国の名産品である魚をタダ同然で取引しなければならなかったらしい。


「まま、お腹すいた〜」

「ちょっと待ってね〜可愛い坊や」


しかし負けても勝っても彼女にとってはどうでも良かった。ラケーノ王国が潰れるならまた違う国に行けばいい。この愛する息子とそして彼がいればどこでも…


「あれ、なんで戦争が終わったのにお父さん帰ってこないのかしら」

「ぱぱいないー!」


息子にお菓子を渡しながら彼女は少し考えこんだ。短めにカットされた黒髪が揺れる。


「戦場は遠いからまだ帰ってこないのね」


そういえば戦争からラケーノ王国はかなりの距離があった。ついさっき陸軍が王国テレビに出ていたことを完全に忘れ、彼女は納得した。


ーーーーーーーーーーー


「確かにうちの奥さんは抜けてて可愛いところがあるが、それがなんで俺を拉致する理由になるんだよ?」

イアも不服そうにカルアを睨んでいる。それと対照的にカルアは楽しそうに微笑んだ。


「ラケーノ王国は我々が征服する」


「この男はそのための駒だ」




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