第1章 下準備(3)
「この家に住む6人はすべてロスト王国出身だ」
「多いです、ね……」
つまりあのアイやミミも種族は全然違うがロスト王国民ということか。
ロスト王国民で復讐ということはやはりあの15年前の悲劇が関わっているのだろう。
「まあな、いずれ全員紹介しよう。今はほとんど出払っていてな……皆忙しいのだ。わかるだろう?なにせ、ラケーノ王国を勝たせなければならぬのだからな」
「え!? 」
「ああ、知らなかったのは無理もない。知っているのはラケーノ王国側でもほんの一握りだよ」
「な、なんでラケーノ王国をあなたたちが……? 」
「もちろん今回私たちがラケーノ王国を勝たせるのは見返りがあってのことだ。そのうちの一つが、お前だ」
何を言っているのかわからない。そんなわかったよねみたいな顔で微笑まれても、何も心当たりがない。なぜ瀕死の小国を救う見返りがこんな何のとりえもない平凡な俺なんだ。
「嘘つけ心当たりがあるだろう……? 」
表情から察したのか美女が顔を覗き込んでくる。ないといえば嘘になる。しかしこれは知られてはいけない。誰にも……
「まあいい。じきに戦争も終わるしな。皆でゆっくり話そうではないか」
美女はふっと微笑んで遠くを見つめた。まるですべてわかっているかのような真っ赤な瞳がただただ怖かった。
ブーーーー
あまりにも簡素なブザー音が聞こえた。これが戦争の終わりを告げるブザーと知っていたが、まるで全部嘘なんじゃないかと思えるほど簡単なものだった。
「ただいまー! 服汚れたあ! 」
「俺も! 俺ら撃っても意味ないのにな」
「二人ともやられたわけ? ありえない! 」
「勝ったぞー! 俺のおかげだな! 」
「みんなお疲れ様」
ブザーの直後に複数の人間が階段を降りてこの家に帰って来た。見渡す限り、家は木製で堅牢な作りになっている。そして窓が全くない。つまりここは地下だろうか。
帰ってきた人たちの中には見覚えのある顔もあったが知らない人がほとんどだった。これが家に住んでいる6人か。
「皆集まったようだな、とりあえず座ってくれ」
美女の一声で皆ソファーや床などに思い思いに座り始めた。それはいいのだが、なぜ俺を囲むように座っている?
「おいカルア、いい加減説明しろ。このおっさんは誰でなぜ拉致した」
アイにそっくりの少年が座りながら美女に向けて挑戦的な口調で問いかけた。やっと美女の名前を入手した。
「今からその話をするんだ……その前に彼のために自己紹介をしよう」
少年は不服そうな顔をしていたがカルアはお構いなしに自分から自己紹介を始めた。
「私はカルア、23歳」
発案者にしては簡素すぎる。そして横に座ったマスクをつけた男に促した。
「俺はマウス、カルアと同い年だよ。よろしくね」
にこやかに微笑んだのだろう、マスクで口元は分からないがすごく優しい顔をしている。少々長い金髪をもついわゆるイケメン。カルアと並ぶと絵になる。
「俺はイア、こっちはアイ。15歳」
「ちょっと! なんで私まで言っちゃうの! 」
よく似ているし双子かもしれない。アイはまだ俺の銃を持っている。
「ミミ、24」
俺をめんどくさいとか言う理由で気絶させやがった黒髪の女。何を気取っているのかずっとヘッドホンをつけている。
「俺はノーズ! はじめましてだな! おっさん! あ、18歳! 」
元気良さそうに話しかけてきたのは珍しい青髪の少年、というより青年か?幼く見えるのは鼻に貼ってある絆創膏のせいか。
「嘘つくなお前の名前はハナだろう? 」
「改名したんだよ!!! カルアだって知ってるくせに! 」
皆がクスクスと笑いだす。鉄板ネタなのかもしれない。しかし、若いな。これなら15年前なんてみんな大して記憶がないんじゃないか?
もしかしてあの悲劇とは無関係か…?
「この男はな、シェリーの旦那だ」
「いや、誰だよ」
4の倍数話では過去の話を織り交ぜたいと思いますので、次は過去の話です。




