第1章 下準備(2)
さすがに短時間で2度も気絶すると頭が痛い。体もいたい。前回は床に寝かされていたが、今回は椅子に縛り付けられているようだ。
恐る恐る目を開けると目の前に美女がいた。
配置や大きさどれをとっても完璧で、まるで人形のようだ。真っ白い髪に真っ白い肌そしてひときわ目立つ深紅の瞳。
「まさか、ロスト王国の……」
自然と口から出ていたようでその美女はこちらを見た。正面から見ると一段と美しい。美しすぎる。
「起きたか、ミミが手荒な真似をしてすまない。」
あの黒髪の女はミミというらしい。
「しかし、ロスト王国を知っているとはな。さすがラケーノ王国。教育熱心なことだ」
ふっとかすかに笑うその姿はまるで絵画のように完成されていた。
俺はかつてなく緊張していて何も言えなかった。しかしロスト王国の名前自体は教育熱心でなくても誰でも知っている。誰もが知っている悲劇の主役なのだから……
「いや違うな」
その美女はすべてを見透かしたような目でこちらを見つめた。
「なぜ私がロスト王国出身だと分かった? 」
「その髪、瞳……そんな珍しい色を持つのはロスト王国出身だ、です、よね? 」
あまりの威圧感に確実に年下である美女に敬語を使ってしまう。
「ほう、よく知っているな。15年も前に滅びた国だというのに」
彼女は目を細めて真っ白な髪をくるくると指でいじった。
「ならば話が早い。お前の現状を説明してやろう」
そして彼女はこちらを見つめてにっこりと微笑んだ。
「これは復讐の物語だ」
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そこは木々が生い茂り視界がほとんど明瞭ではない戦場の林。
中央の広場での撃ち合いとは別に無数の兵士がこの林に隠れる。しかしアイにとってそれはなんの障害にもならなかった。
「よーし! あらかた覚えた! 」
そして大きくAと書かれた眼帯を左目から右目に付け替えた。
パン パン パン
少し移動しながら三回ペイント弾を発射した。遅れてペチャという音が聞こえた。
「何この銃、古すぎ! 弾入ってなすぎ! 」
アイが動くたびにふわふわと茶色のショートが揺れる。
「なんで場所がわかったんだ……! 」
兵士の悲痛な叫びが聞こえる。アイはそのまま6発すべてのペイント弾を兵士に命中させた。
「だって見えるもん。てかペイント弾ちょーだい? 」
「……まだ子供じゃないか! ラケーノ王国はこんな子供まで兵士として使うのか!? 」
「うるさいなー」
アイは慣れた手つきで先ほど男にしたのと同じようにスタンガンで兵士を気絶させた。ペイント弾は支給された同じものを使うので奪ってもいいことになっている。
「おー最新式の銃だあ! でもこれで撃ったらテキダ王国が撃ったことになっちゃうんだよね」
残念そうに銃の中からペイント弾だけ抜き取っていく。
「お前何してんの」
茂みから少年がふっと顔をのぞかせた。その少年の左目には大きくIと書かれた眼帯が覆っていた。
「イアだ!あんたこそ何してんの! 」
「もう俺の仕事は終わったんだよ」
イアと呼ばれた少年は茶色の髪の毛をかきあげながらけだるげに答えた。
「前線もう全滅したの? 早いなあ……」
イアは前線、つまり戦場の広場でラケーノ王国側として戦い、そして勝利した。もちろん二人はラケーノ王国の出身ではない。
「もう慣れっこだからなあ」
「だよねえ。でも今回はおかしいよ! 」
ペイント弾を男から奪った銃に詰めながらアイは首を傾げた。
「あの男だろ? なんで拉致する必要があったんだ? いつも銃はテキトーに気絶させた奴から奪ってたのに」
「イアも聞いてないんだあ……多分知ってるのはミミとマウス……あとブラザーくらいかな」
「ブラザーは知ってても知らなくても関係ないけどな」
パン パン
乾いた音がした。わずかな笑い声も。
アイとイアの背中にはべっとりとペイントがついていた。