母の鏡
写真の女性が母と話してから、アスティンとアスティンの父であるマーロウはそれはそれは喜んだ。
やっと妹・娘が帰ってきた、と。
「いやーまさか時子が本当の娘だっとはね!運命ってあるんだね」
本当の娘ではなないけどね。
血のつながりもないし。
ただ彼らにとって私は本当の妹・娘同然らしい。
「本当ですね。時子も先におっしゃってくだされば良かったのに」
なにを?ここに来るのを?
そんなのわかるはずもない。
強制的にこの世界に来たのだから。
まあ母の鏡のせいでもあるけど。
『別に自分の意思で来たわけじゃないので』
というか自分の意思で異世界って行けるのか?
「またまた〜ところで春乃は一緒に来てないんだね。」
急に母の名前が出た。ちょっぴり悲しそうに眉の部分を八の字にして聞いてきた。
なんだかいたたまれなくなった。
アスティンによればこの人は母に結婚を申し込む予定だったとか。
まだ母を忘れられないのだろうか。
『え、あっはい。でもここにくるきっかけを作ったのは母なんです。』
私はここに来る前にもらった鏡を差し出した。するとマーロウは震える手でゆっくりと私の手の中にある鏡に触れた。
「あぁ、間違いない。この鏡は昔春乃にあげた鏡だ。いまでも持っていてくれたのか」
マーロウは静かに涙を流した。
微笑みながら泣いていたのだ。
その微笑みと涙は本当に優しいものだった。
母を大切に思っていてくれたのだ嘘偽りなく。
正直私は驚いている。
そんな昔の鏡を母が大事に持っていたことに。
あの色んなものを無くしたり、置いてきたりする母があの鏡を大事にもっていたことに。
それだけ母にとっても大切な鏡ということなのだろう。
少しだけ母の想い出に触れた気がした。