出会いと別れ
お姫様だっこされながらアスティンの話を静かに聞いていた。
『昔、まだ私が貴方より小さい頃なんですがこの世界とは違う場所からある女性が我が家にやって来たんです。』
懐かしむようにゆっくりとした口調で話し始めた。
小さな子供に子守唄を聞かせるよう優しく問いかけるように幸せなそうな顔で。
『ああ!そういえばその人も貴方のように、あの木にぶら下がってこの世界にやってきていましたね。』
私以外にもそんな人がいたんだ。
ここ異世界の人が集まりやすいんじゃない?
『その人お腹に赤ちゃんがいたのでもう大慌てで治療をしました。
お腹の赤ちゃんにもしものことがあったら大変ですからね』
赤ちゃんがお腹の中にいるときにこんな所に飛ばされるなんて、大変だなあ。
さぞ不安だっただろう。知らない土地でしかも異世界で自分だけではなく小さな命も守らなくてはいけないなんて。
無意識のうちにお腹を触りながら思った。
『色々話あってその女性は家に住むことになったんです。
大らかで明るい女性でした。
その太陽のような笑顔は私たちむさ苦しい家族にはとても眩しいもののように感じました。父は妻と離婚し、家族は私と弟二人と父だけでしたから。』
アスティンは私をお姫様だっこしたまま、廊下を軽やかに歩きながら話を続けた。
『その女性を母のように慕い、お腹の中の赤ちゃんを本当の妹のように思っていました。赤ちゃんが生まれたら何をしよう。
どこにいこう。
お嫁になんか行かせないぞ。
なんてことも思ったり、弟達と話したりしていました。』
アスティンが話す内容はとてもとても、幸せな日々の話をしているはずなのに、途中からすごく悲しい顔をしていた。
『本当に幸せな毎日でした。父はその女性に好意をもっていましたし、赤ちゃんが生まれたら結婚を申し込むつもりでいたようです。』
アスティンは、クスッとと小さな笑いと悪戯っ子のような顔で当時の自分の父親のことを語った。
誰が聞いても幸せの絶頂期だ。
『ですが、』
急に声が小さくなった。
顔もさらに辛そうだ。
アスティンの背中を彼がしてくれたように私もさすった。
ありがとう大丈夫だよ、というように笑い話の続きを話してくれた。
『私たちは平和ボケをしていました。その女性が異世界から来た女性だということを忘れていたのです。いえ、考えないようにしていたのでしょう。もうずっと一緒に住むものだとなんの根拠もなく思っていました。異世界からきて数ヶ月たった頃でしょうか突然その女性がいなくなって、しまったのです。必死に探しました。でもどこにもいないのです。』
いつもいるはずの人が突然いなくなる恐怖は小さなアスティンはどう受け入れたのだろう。
見えないはずなのに、小さなアスティンの悲しい涙が見えた気がした。
『後から聞いた使用人の証言によると、彼女は異世界からきた木の場所で光とともに消えてしまったらしいのです。きっともといた場所に帰ってしまったのでしょう。』
異世界からきた人間が、もといた場所に帰る。
当然のことだ。
その方がいいにきまってる。
でも、言葉ではいい表すことができないやるせなさが彼の顔から見えた。
話は終わりだというよう丁度ある部屋の前に着いた。